3話
とある異世界―――過去
『ヨシオ達を彼らの世界に還らせられないってどういうことなのだ大女神っ』
私は我が母たる大女神に向かって声を張り上げた。この世界を救うために戦ってくれた勇者達を元の異世界へと戻す事はできないとまるで凍てつくような鋭利な言葉が胸を突き刺す。そんな、バカな事は無い。全てが終われば帰してやるって、あいつらに約束したのだ。ヨシオ達は……私を信頼して、戦い続けてくれたのに。魔王との和解だって、あいつらだから成し遂げられた偉業なのだ。この世界はきっとよき方向に歩みだせるはず、彼らはこの世界の本当の英雄なのだ。そんな彼らの、ヨシオ達の世界に帰りたい切なる願いを叶えられないなんてっ。
―――一度でも、二つの世界を繋ぐ扉を開放してしまえば勇者達とあなたの成長しすぎた力の膨張により世界の扉は永遠に閉ざすことはできないでしょう。鍵の壊れた開けた世界に、また要らぬ争いを生む未来が待っています。両世界の平穏を保つためにも、これが世界の正しき答えとなるのです―――
勝手なのだ……この世界を救うためにあいつらを無理やり召還しておいて……私は、なんて。
『みんなになんて言えば、よいのだっ』
みんなに責めを追われても仕方がない。重くなる口を振るわせて大女神の決定を伝えると、彼らは。
『そっか、でもしょうがないよ。アタシ達のためにガンバってくれただけでも凄く嬉しいよ。だから、泣かないで、ね?』
『けっ、なんだなんだチンチクリンがしょぼくれやがって、オレたちが帰れねえのはてめえが悪いってのか? チッ、そんなわけあるはずがねえっ。オレたちはな、後悔なんざこれっぽっちもしてねえんだよっ』
『そうだぜ、おまえはなんも悪くねえよ。だからもうそんな辛そうな顔すんなよ。こっちの世界も俺たち大好きだって一緒に旅したお前ならわかるよな。だから、うまく言えねえけど、気にすんなっ』
『シノ、ジュリアン、ヨシオ。うっ、グス、ううぅ』
みんな、責めるどころか私に気遣ってまでくれたのだ。でも、解るのだ。ずっと一緒にいたからこそ解るのだっ。みんなの
『やっぱり、間違っているのだっ』
私は、大女神に逆らう禁忌を犯し、異世界への扉を開放した。だが、やはり大女神の危惧したとおり、開け放たれた壊れた扉に惹かれるように荒ぶる魔物達が勇者達の世界へと向かってゆく。結局、彼らの力を再び借りて長い年月を掛けて双方の世界の争いを止める事になってしまった。そして、両世界の政府と不可侵の条約を結び。魔物を始めとした世界を混乱させる異端者の更生計画を作りあげた。そして、更生した魔物達が人間に擬態して暮らす歪ないまの世界が出来上がってしまったのだ。
繋がった世界――現在 バーガーショップ
「だから私には、この身体が存在しうる限り大好きなあいつらの世界を平穏にする責任があるのだ」
ちょっとおセンチな昔話を後輩の前で、なんか木っ端ずかしくなってきたので、アイスコーヒーをゴクゴクする。後輩は両手を組んで静かに私の話を聞き終わると口を薄く笑わせた。
「ふふっ、そこはボクの知らない勇者達との物語ですよね。なんだか、妬けてくるなぁ」
「別に、おめえとも付き合い長いんだから、妬くほどの事はねえのだが。というか、おめえも物語にいただろうが」
「いやぁ、敵と味方だと信頼の密度が違うじゃないですか。ボクは先輩とヨシオ君達勇者と戦った元魔王なわけですし」
そうなのだ、後輩とは生命の取り合いをした宿敵同士。いま顔合わせてバーガー食ってるのが不思議なくらいなのだ。もう、20年は経つか。こいつが、私の手伝いに向こうの世界から派遣された助っ人してやってきたのは。最初はめちゃくちゃ警戒したのだが、まぁきちんと仕事はこなすし、こいつの秘蔵の
「それに、先輩の心は一途にヨシオ君を想ってますし、妬かない理由がーー」
「ーーグホッ!」
コ、コーヒー変な所に入っちゃったのだ。というか、いきなりなにを言うのだキサマッ。
「あれ、違いました? いや、そんなはずは」
「そんなはずはあるっ。ヨシオはもう、孫がいるおじいちゃんだぞっ。とっくにそういう気持ちは枯れ果てててんのだよっ」
そう、あいつらと共に冒険したのも異端者達を取り締まる責務を手伝ってくれたのも過去の話。まぁ、たまに連絡はとってはいるがスマホに孫と一緒に撮った写真を何百枚と送ってくるのは勘弁してほしいのだが。
「ふふっ、先輩が言った事がホントならライバルは減るんだけど」
「は、ライバルとか何言ってんのだよおめえ」
「おっと、こっちの話ですよ。そういえばヨシオ君達はいま外国にいるんでしたっけ?」
「ん、ヨシオは上のお孫ちゃんがドイツにサッカー留学したの家族総出でついて行っちゃたのだ。確かドレスデンってとこだったか」
全く、ヨシオのやつの孫バカにも困ったもんなのだ。ジュリアンとシノはこっちの世界ではなくあっちの世界で二人仲良く小麦農家やってんだったかな。ん、なんだかんだみんな今すぐに会える場所にはいなくなっちまってんだな。と、噂をすればスマホが振動してんのだ。なんだ、ヨシオとお孫ちゃんの新しい写真か。なんだかんだで、ちょっと楽しみになってる自分は否定しねえが、あくまでも外国の風景が楽しみなのだ。いや、私は誰に言っとるのだまったく。
「おっ」
だが、それはヨシオからでは無かったのだが私の頬が思わず緩むメールがきたのだ。
「あいつらめ、ついにゴールしたのだな」
メールには長々と丁寧な文で何十年も前からずっと気にかけてた元異端者のオークから恋人のエルフと結婚しますという報告メールだったのだ。
「へぇ、先輩が気にかけてたオーク君もついにゴールインか」
あ、後輩のやつ勝手に見てからにっ。けど、まぁコイツにはよく話してたし、めでたいから良しなのだ。
「うし、後輩。いま時間あるか?」
「それはまぁ、先輩の呼び出しですから、この後の時間はたっぷりと開けてますけど。そういえば先輩はなんで僕をここに呼び出したんです」
んあ? そういえば、なんか言ってやろうかと思って呼び出したのだが……。
「なんか、忘れちまったのだ」
「ふぅ、さすがは先輩だ」
「どういう意味なのだっ。と、めでたい日に怒るのもつまんねえのだ。それよりも、呑みに行くのだ。祝い酒よっ」
「それは、理由をつけて呑みたいだけでは?」
うるせえよっ。祝いたい気持ちは本当だからよいのだよっ。
なんか呆れてるような笑いをする後輩も立ち上がって一緒に店を出た。
「うぅっ、寒っ」
外に出たら雪がチラついてる。いくらウニクロのヒートチックを着てるとはいえ雪の寒さは堪えちまうよ。と、寒がってると後輩が後ろからモッズコートを肩にかけてくれた。
「あ、わりいよ。オメェが寒ぃだろ」
「いいですよ。尊敬する先輩が風邪をひいたら大変ですから」
「別に女神は風邪なんかひくほどやわじゃねえし、てかおめえこそホントに身体冷やすのだが」
「ふ、僕も元魔王ですから風邪なんて人間が掛かる病にはなりません。それに、女の子には優しくしないと」
うーん、後輩にバチコンとウインクされてもいまさらなんだかなぁて感じなのだが。というか
「いや、女の子という歳でも無えし、お前こそいまの肉体的には女じゃねえか」
「あぁ、そういえばそうですね。じゃ、次に会うときは男の身体ですかね?」
そう、コイツは原理はわからんが会うたびに性別が変わってんのだよ。後輩いわく「あははっ、だって肉体がひとつだと不便じゃ無いですか? 主に愛しあう時に」なんて爽やかに笑いながら言っちょったが、そういうアダルトな内容は私的には知ったこっちゃねえのだが。
(お、あれは
などなど後輩と駄弁っていると向こうから背高帽子の恰幅のよいサラリーマンが笑顔で会釈をして通りすぎる。私達も笑顔で会釈をする。陸羽くんも人間社会に溶け込んで家庭を持っている「トロール」のパパさんなのだ。あまり口数は多くないが朗らかな性格で凄くいい子なのだ。手にはクリスマスラッピングされたおもちゃを抱えておる。あれは息子ちゃんへのクリスマスプレゼントだな。
「そういえば、もうすぐクリスマスですねぇ」
後輩がしみじみと言うが、おめえ闇属性的にキラキラなクリスマスとか大丈夫なのか? 超いまさらなのだが。
「やだな、
は、あの技ってそんなにヤベえ条件なのっ。め、女神としては生まれながらの光属性のはずなのだが……。
「まぁまぁ、それは置いときましても属性関係無くてもクリスマスみたいなイベントは好きですよ。男の子も女の子も開放的になりますから」
「置いとかれるのもあれだけど後半の問題発言ももっとアレだなっ」
これは先輩として、はめを外し過ぎないように監視をするか……や、それだと後輩とクリスマスを過ごす事になり身の危険を感じちゃってーー
「ーー先輩」
「にょおわっ!?」
なんだ、心を読みおったかっ。いや、そんな風では無さそうだな。ガラにも無くシンミリした顔なのだ。ん、どしたの?
「いや、こうやって、先輩とクリスマスの話ができるのって、なんか幸せな事だなって思っちゃって、先輩はこんな世界にしてしまったって後悔もあるかもですけど、結果的にヨシオ君達も帰してあげることもできたし、護部さん姉妹や結婚も決まった奥君みたいにこっちの世界でガンバって幸せになってる子達もいます。ボクもこの世界嫌いじゃないですし、結果論ですけど世界の扉を壊してしまったのは良かったのかも知れませんよ」
「おまえにしては、長々と良心的に語ってくれたが、結果論じゃ納得できない人々も多いよ」
実際、何十年以上と責められ続けられてる事実はあるよ。けど。
「こうなっちまったけど、私も嫌いじゃないのだこの世界。むしろ、こっちで出会えた友達もちょこっと辛い現実も含めてこの混ざっちまった世界が大好きなのだ」
都合が良いのかも知れんが、いつか人間のスーツなんざ無くとも魔物と人間が当たり前の幸せを生きるそんな世界になっていって欲しいと私は思うのだ。
隣の後輩が口端を上げて静かに笑うのがなんか腹が立っちまうけど、コイツと一緒にこれからもガンバってくよ私は。
先輩と後輩 もりくぼの小隊 @rasu-toru
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