2話
さて、後輩を恨めしくにらんでも効果なしなし時間の無駄なのは長い付き合いでわかりきってるので、注文し直した私をハッピーにしてくれるビッグラングセット(ヴァル・ヴァロッサバーガー)にかぶりついて腹を満たすとしよう。ほい、ガブリんちょっとい。
「
んふふのふぅ、幸せとはこういう何気なき食事からうまれるのだねえぇ♪
「おや、先輩ケチャップ、ほっぺたについてますよ」
ぐっ、幸せを噛みしめてる側で余計な事を言いよってからに、これはあとでちゃんと拭おうと……て、おい、その指ですくい取ったケチャップくんをどうする気ーー
「うん、ホントだ美味しい」
「んなあっ、
そうやったおフザケでオメェの
「やだな、ボクの振りまいてきた愛は平等で嘘偽りのない本物ですよ。先輩に迷惑なことなんて……ねぇ」
ねぇじゃねえよっ! 絶対どっかでトラブルの自覚あんだろ。愛と感応の精神しか覚えねえやつがよ……ガチでおフザケを繰り返すのは恐ろしいからやめてくれなのだよ後輩。
「ま、それはおいときまして、それより先輩は相変わらずのブラックジャージコーデですよね「向こう」にいた時みたいにオシャレに華咲かせてみないんですか?」
こ・い・つ・めえぇっ、私の言葉をおいてきましてとかどのお口がーーて、おいちょい待つのだ、いま私の完璧アジダスのブラックジャージコーデがオシャレじゃないと言ったように聞こえたのだがぁ? おい、なにこの人マジでオシャレと思ってんのって言いたそうな
「いやいや先輩、ファッションの似合う似合わないは人それぞれだと思いますけど、さすがにその
「ーーやれやぁれ、こおぉりだからシロウトは困っちゃうのだあぁなっ」
ふん、と私はふんぞり返ってポテトをポリポリ食ってからこの無知な後輩に教えを説いてやろうぞよな。
おほほん、確かに向こうで好んでいた虹色ファッソンも捨てがたくはある。が、しかっし、この人々の活気も熱気も冷めやらぬ大都会の夜においては、アジダスのブラックジャージコーデこそが違和感無く人々に紛れる必須アイテムと言えるわけなのだ。この格好で飲み屋街とかを探索すると格別に楽しいぞ。なぜかよく「お嬢ちゃんには早いよ」て、追い返されちゃう時があるけどな。あとは単純にこのデザインがめっちめちにカッケェの、ふっふっふっ、これを着れば気分はいつでも暗黒の騎……士……て、うぉい。
「うん、うん?……ぇ、はぁ、なんですか先輩?」
テメ、1話で尊敬するつってた先輩のお言葉をソデにして明後日の方向を眺めちゃってるとは、どういうことなのだ、んあっ?!
「いやすみません、聞くに耐えなくてちょっと目の保養を」
なんだとっ、どこに聞くに耐えねえ話があったのだっ。のやろっ、下から上に掬うように睨んでやるのだ後輩。しかし、いったい目の保養ってなにがあるのだよ? なんとなく後輩の視線の先を追ってみる。
「いらっしゃいませっ! ビグロナルドにようこそっ!」
そこには元気な女性店員さんが働いておるのだ。つうか、目の保養とは新人バイトの「
「イイですよねぇあの子。実にイイ。先輩の悲しいジャージ姿を見てるとついつい目で追ってしまいたくなります」
こら、サラッと人をディスカッターしてんじゃねぇのだよっ。たく、しょうがねえやつなのだ。しかし、護部ちゃんの見た目を気に入ってるようだが。
「後輩、あの外見は人間スーツであって、護部ちゃんは双子の「ホブゴブリン」だぞ?」
そう、護部ちゃんたちは善良なホブゴブリン姉妹なのだ。いっとき悪の道に走ってしまったが、立派に更生してちょろっと前からこの店でバイトを始めたばかりなのだ。離ればなれはイヤだからって二人でひとつのスーツを着て小さな身体で健気に人間社会の中で頑張っておるのだな。ま、一応先輩として、こうはいはガツンと忠告はさせてもらったぞ。む、なんなのだその白けたような顔は?
「あの先輩、さすがに彼女達が人間スーツを着てるのはわかります、どれだけ先輩と一緒に仕事してると思ってるんです? それにボクは外見よりも中身で魅力を見るタイプなんですよ? ちょっと色眼鏡で見てると思われてるなんて、傷つきます」
ぐっ、そ、そんなつもりは無くてだな、むぅ、ちと後輩を疑いすぎたのかなぁ。なんか護部ちゃん達にも悪い事を言ってしまったような気もするのだ。ご、ごめんなーー
「まぁ、それはそれとしてああいうステキな子たちは落としがいもあるんですけど」
「ーーおい、なんか聞こえちゃったぞっ。テメやっぱなんか悪い事考えてんだろ」
コイツ、ソッチ方面はやはり疑ってかかるべきなのだ。と、警戒を厳にしておると誰かが彼女達に近づいてきたのだ。
「サイちゃん達、まだ休憩してないでしょう。僕が変わるから休んでおいで」
「店長、ありガトーございます。じゃ、お言葉に甘えて」
お、あれはこのビグロナルドの店長「
「素晴らしい肉体美のナイスミドルですねあの店長さん。うん、あの筋肉、結構好みだなぁ」
「もっかい言っとくが店長も人間スーツだからなっ。ちゃんと幸せな家庭も築いてんだから、テメェがあの筋肉の間に入る空きはねぇのだよっ」
そう、美能くんは人間のマスクを被ってこの世界で立派に店長さんをして家族を立派に養ってる「ミノタウロス」なのだ。護部ちゃん姉妹にも理解があるのは同じように「こっちに」来てしまった苦労をしっているからというのもあるだろう。最近、グレてた息子さんも更生して牛丼屋のバイトを真面目に始めたと嬉しそうに話してくれたのだ。だからな後輩。どうか美能くんの肉体美はあきらめてっ。
「はぁ、だから先輩。ボクの事をどんなド畜生だと思ってるんですか。 幸せな家庭を壊すような悪趣味なんてありません。まぁちょっとだけあの胸に抱かれてみたいですけど」
「おい、後半欲望隠しきれてねぇんだがよっ」
「おっと、まぁまぁ、安心してくださいよ。単純な先輩が思うような事は一切しないですから」
テメ、いま単純って言ったかっ。本当にオメェ私の事を尊敬してんのかっ。
「そんなことより先輩。あの双子ちゃんと店長さんのことよくわかってるんですね」
「む、そんなことよりは引っ掛かるが、まぁ、二人ともというかこの街の「異世界者」は全て私の担当だからな。ちゃんとみんなの事情を把握しておくのは当たり前なのだよ」
それが、私の仕事であり義務、そして、こんな世界にしてしまった「女神」である私の永遠に逃れられない「責任」でもあるのだ。
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