先輩と後輩

もりくぼの小隊

1話


 ファストフード店「ビグロナルド」――――PM22:00


「……遅い」


 私は腕時計を見て時間を確認する。やつを呼び出したのは20:30分。つまり、あいつは一時間半の遅刻というわけ、私を待たせるとはいい度胸なのだ。ついつい指で机をタンタンタンと叩いてしまう。

「いかんいかん、落ち着こう」

 私は表面に水滴の汗を掻いたアイスコーヒーを飲む……すっごく水みたいなのだ。これではもう飲めたものでは無い、追加注文しよう。ついでにポテトとバーガーも食べたいからビッグラングセットでいこうか。ハンバーガーは豪勢にヴァル・ヴァロッサバーガーにしてやろうか。

 私がセットメニューを脳内で組み立てながら油を吸い込んでふにゃふにゃに萎れたポテトを口に放り込んでモシャモシャと食べていると

「ねえねえ、チミさっきからひとりだけどさぁ」

 いやにチャラついた男が馴れ馴れしくこの私に声を掛けてきたのだ。妙に自信に満ちた勘違いな眼と気力オーラ。生理的にこういう輩はだいだい大っ嫌いなのだ。私は紙ストローをガジと一噛みしてジロッと睨んでイラだちを表現、わっかりやすく「失せろ!」と気迫の精神マインドで凄んでやった。

「もしかして待ちぼうけ? よかったらーー」

 どうやら勘違いな自信を持ったこのチャラ男は私の精神があまり効かんようだ。ふん、首に強化パーツよろしくてんこ盛りなアクセをぶら下げるファッションセンスもない愚か者が、私に声を掛けようなど3500年は早いと知れっ。我が威圧の精神マインドの睨みでチビるがよいっ。

「ふん、おかまいなく、待つのは慣れてるから平気なのっだっ!」

「お、それアニメの真似。あれでしょ、なんだっけあのコスプレ女動物園みてえなやつ」

 こ、こいつぅっ、私の威圧に全く動じずだと!? しかも、さらっと私の語尾を馬鹿にしておってからにいぃっ、ふざけんじゃねえのだっ。こちとら生まれた時からこの口調っ。つうか私の大好きな神アニメもこいつ馬鹿にしてそこが一番許せねえのだっ。この勘違い野郎にはガツンとストレートに言ってやるのが効果はバツグンなのだっ。

「うっちゃいっ、さっさとどっか行けとゆってるのだっ! このゴールデンアクセダサダサ大将軍めっ」

「なっ、なんだとっ! ちょっと顔が可愛いロリっ娘だからってつけあがりやがってっ。テメェこそダッセェ真っ黒ジャージじゃねえかっ!」

「んなあっ! アジダスのジャージはこの世界一カッコいいファッソンなのだっ! きさまきさまっ訂正を要求するのだっ!」

 私の完璧ジャージコーデを馬鹿にしおって、。もう我慢ならんっ。因果地平、全ての並行異世界から存在を消滅させやるっ。フハハハッ、お別れを言うがいいのだキサマを取り巻く全てのものにっ! 最終じごーー


――おっと先輩それはシャレにもなりません――


 私が怒りの最終地獄を発動しようとしたその時、背後からウィスパーなボイスで脳内に直接囁きながら私の両手を封じるやつがいる。む、こんなことができる輩はただひとり。

「なにすんだっ後輩っ!」

 顔を上げるとそこにはやはり青みがかったショートカットを片眼に掛けて微笑む無駄に良い顔をする我が「後輩」がいたのだ。

「いやぁ、ホントに申し訳ないです先輩」

 本当に申し訳ないと思ってるのか怪しい後輩は私の両手を解放し、ヒラヒラと片手を揺らすくっそ腹立つイケメン笑いをする。グッ、足の線がくっきり出るタイトなデニムジーンズと黒のタートルニットに若草色のモッズコートとやたらと女子受け良さげなファッションでクールに決めてやがる自然なポージングも様になってるのだ。

「ちっ、んだ彼氏かよぅっ。おいこらおいコラ、テメこのダサジャージ女にどういう教育をーー」

「ーー……キミ、さっきから先輩の悪口を言ってるね? いま、その頭の中でも」

 今度は後輩にイチャモンをつけようとしたチャラ野郎を後輩は瞬時に壁ドンに追いやり涼やかに微笑む。おいおい、眼が笑ってねぇのだがっ。

「キミ、度が過ぎると、ボクもーー」

(おいコラ、何をしようというのだっ! 止まればっかっ!)

 急いで必中の精神で後輩の頭に空気銃エア・ピストルを撃ち込んだ。よしスコンと命中。さすがは信頼の必中……て、このヤロウ、こっちの気も知らねえで平然と振り向いてウインクかましてんじゃねぇよっ。

「きき、き今日はみにょがしちやっ、よ余ョワヤっ!」

 しかし、チャラ男はなにかしら後輩の影響を受けたかブルブルと震えながら何言ってんのかわかんねぇ捨て台詞を残して一目散と店から飛び出していった。

「やれやれ、どうしようもない」

「どうしようもないのはオメェなのだよっ!」

 スパコーンと後輩の頭を叩こうとしたが、我が手は空を切り、後輩は飄々と笑ってやがる。ちぃっ、身長差がっ。

「やだなぁ、先輩だって人の事は言えないじゃないですか。最終地獄ジュデッカなんて使っちゃおうとするなんて」

 イケメンな笑いで肩すくめてんじゃねぇよっ。私は本気で最終地獄は使わねえよっ。せいぜい一分くらいの生き地獄を体感させてやる程度、手加減の精神は使うのだっ。オメェは手加減覚えねえから怖えんだよっ。ジトッと非難の眼をくれてやると後輩を頬を掻いて照れ笑いに私に言う。

「ボクには尊敬する先輩への愛の精神マインドがありますから」

 その尊敬する先輩の呼び出しに遅れたやつが言う言葉ですかねこのヤロウ。

「いや、ちょっと昨日の合コンで仲良くなった子達がなかなか帰してくれなくて、ははっ」

 ははっ、じゃねえし余計に許せねぇ理由だったよクソ後輩!





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