第7話 妖猫殺人事件

日付は変わっていたと思うらしい。

とっくのとうに日は暮れていて暗かったそうだ。

それもそのはず、彼が猫と死体を見たというこの道には、街灯の一つもありはしない。

両側の家から漏れ出る光だけが唯一の灯りなのだが。


「…………見えないですね」


暗かったが見えたと依頼人はそう言った。


「クロ、君には見えているのかい?」


確かに両側の家から光が漏れてはいるが、道は真っ暗でとてもじゃないが見えない。

けれど黒猫は口にした。


「見えてる。死体もなければ猫もいない、何の変哲もないただの道が見えてるよ」


「そう…………」


最初から確信は持てずとも疑っていた。

証拠は一切揃っていないが犯人の目星はついていた。

非常に下手だった。

軽薄そうな男を装えば、嘘を吐きそうな男を装えば、言葉にした嘘もバレないと考えての行動だと、見え透いていた。

けれど、けれど、わかったところで、確信したところで、どうしようもないほどに面倒くさいのだ。

大きなため息を吐いてしまうほどに、面倒くさいのだ。


「クロ、人に化けられるか?」


「俺は無理だ。特別なのは人の言葉を話すことと未来が見える事だけ。他には何も出来ない」


化けられる猫自体はいる、か。

決めつけはよくないけれど、この辺りに猫は居らず、街灯もなければ漏れる光も最小限のこの道で、こんな真っ暗い夜道で、死体を、ましてや黒猫を見たと?

光で照らすこともせずにこんな真っ暗闇の中で見つけたなど、人間に出来る芸当とは思えない。


「一応話を聞いてみますか」


ため息まじりに口にすると、踵を返して探偵事務所へと帰っていく。

犯人と思しき人物に目星はついたが、その人物が犯人であることが現状もっとも面倒くさいため、そうでないことを祈りながら、どうせそうだろうなとため息を吐く。


「クロ、俺はその猫に殺されるか?」


「いいや」


驚きもせずに答えるクロにしばし思考し小さく頷く。


「それなら何とかなるかな。まぁ、相手が本能と理性どちらを優先するかに多少懸かって来るけれど」


一先ず頭の中に一つの作戦が立てられた。

死の危険のある作戦だが、未来を視る猫によれば死ぬ未来はなかったという。

そして何より、その猫は止めなかった。

作戦が成功であれ失敗であれ、この先の未来が大きくマイナスに傾くことはない。

少なくとも、杏に限っては。


「破れてもいい服買っておくか」

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