第6話 次なる依頼人

戸が開く。

依頼など今の今まで一度とてなかったこの探偵事務所に、たった一週間の内に二人目の来訪者が現れた。

重い体を持ち上げて、壁に寄りかかるようにして玄関が見える位置まで移動する。


「これはどうも、今日はどのようなご依頼で?」


探偵事務所に入ってきたのはボサボサの髪をした小柄な男。

不思議な雰囲気の男は識を見るなり口にした。


「あんた、人を殺したことはあるかい?」


突然意味不明な質問を投げかけられぼんやりとした思考が晴れる。


「ない」


「そうか。けど奥にいる猫はどうかな」


ああ、また面倒事だ。


「何の話ですか?」


「この間猫が人を殺してるのを見たって話さ」


頭のおかしな奴が来た。

以前なら簡単に突き返せたが、今はもう不思議な猫を知ってしまっている。


「そうですか。でしたら警察に行ってはどうですか?人が死んでいるのであれば動いてくれるかもしれませんよ」


不思議な猫以前に、普通の猫も殺そうと思えば人を殺せる。

人が死んでいるにもかかわらずわざわざ警察ではなく探偵を頼るのは間違っているだろう。

つまりはあの黒猫と話していたのをどこかで見たからここに来た。

またあの黒猫のせいで面倒事が舞い込んできた。

どうせ見られてたに決まっているが、それでも、普通の猫も人を殺せるし探偵よりも警察の方がいい。

だから当然しらを切るのだ。


「あんたと一緒に居た猫が人の言葉を話してるのを聞いた。他の猫よりは人を殺しそうに俺は感じるな」


想像通り、予想通り、見られていたし聞かれていた。

しらを切るのも意味はなかった。


「そうですか。では貴方の依頼は貴方が見たという人を殺した猫を探すことですか?」


「いやだからあんたと一緒に居た猫が殺したと俺は思うって」


「では私の飼っている猫が無罪であることの証明ですか?」


「なんでそこまで信じられるんだよ」


男が苛立っていく様を眺めながらただ淡々と思考する。


いくらなんでもクロがやったという決めつけが過ぎる、もっと犯人足りえる猫など…………この辺に猫居なくないか?

思い返してみればこの街に引っ越してきて三年間、猫の一匹もいなかった。

初めて見たのが人の言葉を話す猫だった。

他に猫がいないのなら確かにクロが最も疑わしいな。

そうなると少し疑いを晴らすのも難しいか。

それでもまぁ。


「私は彼が人を殺すような者ではないことを知っているだけです」


一人の少女を護ろうとした者が、他人を犠牲に、ましてや自分の手で殺めるなど考えられない。


「だから聞かせてください。貴方が見たものを」

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