第3話

塩の香りが漂う夜の星

彼女は虹色の列車の切符を手に入れた

それはふいに とても偶発的に

月からの調べに誘われ 夜の街へ


彼女は街の果ての浜辺へ

混沌の夜の海に彼女の顔が映る

哀しむ顔を避けるように

魚たちは死に顔で住処へ戻る


満天の星に切符を翳すと

青い煙を吐いた機関車が夜の海から舞い降りた


乗客は誰もおらず

乗務員の姿もない


彼女は近くの席に座り 窓の外を眺めた


車掌がやってきて 彼女に気づいた

彼女は車掌に気付かぬまま 車窓に目を向けたまま

ポツリと呟いた

大事なものを残してしまった

悪く思わないで欲しい

涙を流して 窓に目をやる


車掌はすっと消えた

しばらくして ワインを持って再びやってきた


彼女は微笑んだ

私、ワインが好きなの


車掌は微笑んだ

最愛の方たちからの贈り物です


彼女は目を丸くした そして微笑んだ

そう、なら安心ね

彼女はワインを上品に飲んだ


列車は蟹座へ到着した

ここで降りるわ

車掌は理由を尋ねた

彼女は笑って答えた


蟹座は私の生まれ年なの

ここにずっといれば

あの子たちの傍に寄り添えるじゃない


そうてすか

車掌は会釈をした


列車は発車し 遠い銀河の果てへ向かった

列車が見えなくなるまで 彼女は見送っていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る