第7話 衝動:嫌悪

このRBは12体の中で最も危険視されている。自業自得と言ってやりたいがなぜここまで強力になったのかが俺には分かんないや。何せ、彼女の力の源はある感情が原因だったんだ。


亡霊、怨霊、霊体、幽霊、その類で作られたのはいいのだが、研究班がいないなどの様々な点でこのRBはまるで隔離のようにされている。その力があまりにも強すぎたのだ。研究所一帯を階層関係なく超広範囲に精神攻撃とは、ただでさえ頭がやばい研究者が更に発狂してしまう。


クローン製造機で出来た1人の女性を対象とした。黒竜”エリアス”や赤鬼”ルイーザ”のように人工的に改良したDNAは一切入れず、ただとある人間の記憶をそのままコピーしたクローンだった。作成は最も簡単だったとも言える。だが、その見返りなのか扱いと能力は酷いモノだった。


彼女は実体が基本的にはなく、レネゲイドウイルスによる空中の分子に影響を与えることで可視することが出来る。霊体を科学的に証明したのが彼女ともなる。こちらから危害を加えるには同じだけの分子レベルのモノが必要となる。それを利用して壁と天井、床にまで特別な専用の防壁を扱っている。結果として意味なかったが。


彼女にコピーしたある人間の記憶とは、家族を失った女性のモノだった。精神的病気を患い、死亡する前にこちらで引き取って記憶を保存。その後衰弱死となった。その記憶をそのまま入れたところ、人らしいとは言えど常に発狂しているようになった。すぐに判明したのはハヌマーンの能力だった。


彼女の声は半径約1キロの球体型範囲で聞こえる。近くに行けば行くほどにその声は大きく、そして理性ともいえる脳内の冷静さを失わせ、発狂に招く音になっている。並のモノは耐えられなくて本能的に避けるようになるが、慣れたモノだと彼女の近くまで行けなくない。逆にRBである同士達はこの慣れている部類に入るのか彼女から5mの場所でも正気でいられる。だが感想を聞くとあまり長く近くには居たくないとのこと。俺でもプログラムにラグが出るんだ。酷い。


そして声だけではない。彼女がその気なれば周囲のモノを操ることが出来る。と言っても一つだけ。ただしモノの大きさや命の有無は関係なく操る。モノであればどんな大きく、複雑なモノでも無理やり。何なら壊せる。人や動物であれば発狂させたり、暴走させたり、操り人形のようにすることが出来る。彼女がその気になればだが。大体は発狂して泡吹いて死んでる。


もう一つの点としては彼女が暴走した時の問題。彼女は周囲に幻覚の類の分子を防壁などの障害物関係なく散布することができ、それによって領域に入ったモノに対し、まるで迷路に迷い込んだようにさせることが出来る。これで研究者達が何十人と疲労死亡している。番犬“ヴォルフガング”並の殺害になる為、暴走しないようにと計画が進められる。


その一方、彼女の余りにも危険すぎる能力に研究者達が殺処分を出していた。製作者はこれを不可として、反論した奴は全員白鯨“フェリックス”の餌になった。別に生き死にはこちら側になんの問題もない。だって研究者達は半数が本人そっくりに作られたクローンだ。本人さえ死ななければまた新たに作って手数頭数を増やせる。


製作者は彼女に名前をつけた。彼女のおかげで日常的に死者が出ている。そして暴走しないように白鯨“フェリックス”に手伝って貰った。彼はハヌマーンの能力を持っている為、会話が可能だった。それに、彼からしても彼女に興味あるようだった。


衝動:嫌悪

名前:幽霊”マリー”

シンドローム:ハヌマーン・ソラリス・オルクス

性別:女性 ※口調と元になったデータが女性であるための記載

暴走:暴走した時、超広範囲に呪いの類として能力の音と因子がばら撒かれる。研究所の階層も関係なく、半径約1キロの球体型範囲に影響を与える。彼女の呪いを受けた物は呪殺、発狂暴走の効果がある。近くに行くだけでも彼女の呪いを受けることがあるため、研究班は作らず、全て遠隔で行うことにする。また、白鯨”フェリックス”と相性がいい様で、もしも暴走した際には白鯨”フェリックス”に支援を呼びかけるようにする。

現在:専用の部屋にて収容。彼女の研究所自由行動権はない。勝手に出歩いたら死体が増える。だが、他のRBが一緒に着く場合には30分だけの自由時間を設けている。人知”エミール”の監視も付けるようにする。レネゲイド供給方法は気化による空気供給とする。彼女の専用の部屋にてそのシステムを自動化。常に30%を保つように常時スキャナーで観測するように。


私には漁師をしている夫と子供が2人、6歳の息子と1歳になったばかりの娘がいたの。毎日幸せだった。夫は優しく、息子はよく手伝いをしてくれて、娘はとても可愛かった。きゃっきゃっと私の顔を見て笑ってくれる。笑顔の絶えない、暖かい家庭だった。

いつも通り、夫は漁をしに行った。大きくなった息子は手伝いによくついて行くようになった。娘は1人で歩いて、後ろを着いてきてくれる。一緒に絵本を読んで、お人形で遊んで2人の帰りを待つの。だけど、次の日になっても帰ってこなかった。

夫と息子は海で急な嵐に遭って、船だけ帰ってきた。死体はきっと海の底だろうと。それを聞いた時には悲しさのあまりに1歩も外に出ることなんて出来なかった。残された娘ももう帰ってこないと分かったのか、たくさん泣いてしまった。泣き止ませようとしても私まで泣いていて、とても、悲しかった。

私は何をするのも気力を無くしてしまった。あれだけ笑いの絶えなかった家は寂しく、寒くも感じた。流れていく時間がとても長いように感じた。娘がたまに私に抱きついて、暖かを分けてくれた。私にはもう娘しかいない。この子を私一人でも育てて行かなくては。やっと外に出れるようになれば、近所の人に心配されて、良くしてもらった。

私がいたのは小さな町。村が少し賑やかになって大きくなっただけの田舎だった。ここの人達はみんな優しい人で恵まれていた。だけども、この近くには大きな国があったの。

町に国から偉い人と思われる人が馬に乗ってきた。町の人達を集めて言ったの。ここに魔女がいるって。魔女狩りをしているって。その日から魔女裁判と、町の女性達が次々に疑われて処刑されてしまったの。私も娘も危なかった。何とか逃れた。だけども、娘の友達が魔女裁判にかけられてしまった。娘は何とか助けたくて、無罪の証人として自ら立ったの。

私も見ていたの。娘は強い子に育った。そして優しかった。友達を助ける為の言葉を紡いでいた。だけども、相手側が何をしたのか、娘までもが魔女だと言い出して、娘は嘘を言った。

魔女は魔女でも、白魔女だと。友達を解放する代わりに私が死にましょうと。白魔女だから、魔法が使えると。呪う為ではなく守る為として自らの命を捧げてこの町に魔女の呪いがかからないようにしましょうと言った。今まで魔女によって呪われたり、誰かが殺された事件など1度もない。それは白魔女が影ながら戦っていたからだと言った。周りはそれに黙り込んだ。証明に娘は触ったら魔女が嫌うという聖水や聖書を手にした。何も起こらない。国の人も驚いていた。本物の白魔女だと。

娘が讃えられながら短剣を手にして砂浜の海の前に出た。祈るようにして、自殺してしまった。もちろん止めに入った。人をかき分けて、自分でも何を言っているのか分からないほどになりながら。視界がぼやけていた。足がもつれていたけども、必死に娘を止めようとしたのだけど…。

もう、いい加減にして。一体何人処刑すれば終わるの?魔女なんて本当にいるの?一体どれだけ失えば済むの?誰がこんなの決めたの。誰が殺したの。私から全てを奪わないで。取らないで。もうこんなのやめて。

その後、魔女狩りは終わった。本当に何も起きなかった。私は白魔女の母親として周りから手厚くされた。私はそんな扱い、嫌だった。顔色伺うかのような優しい町の人々に不快感を覚えた。優しいだけじゃ何も出来ない。何も幸せなことなんてない。夫も息子も娘も、海に消えていった。私は本当に気が狂ってしまったのか、記憶も朧気のまま老婆になってしまった。

………そこからどうなったか、分からないの。フェリックス。


きっとここに来たんだよ。マリー。自分はちょっと悪いモノだから、優しくは無いかもしれないけど、ここでこうやって生きているの、悪くないと思っているんだ。マリーはここで自分とお話するの、嫌い?


いいえ、貴方のお話はとても好きよ。だって貴方は人を食べる鯨なのだから。


幽霊”マリー”は記憶を植え付けたクローンを殺害して死者とするとこで作成されている。彼女についての情報は人知”エミール”によって一部消去済み。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る