第6話 衝動:加虐

ドラゴン型のRB、破壊の黒竜”エリアス”を製作した余韻で出来てしまったRBである。彼女は何の動物とも例えれない人型の形を成した。その媒体となったのはエリアスとは違うDNAとクローンで製作した女性だ。


クローン女性にそのDNAを入れた。白い肌は赤黒くなり、すぐに出て来たのは炎を操る力、サラマンダーだった。それを破棄せず、そのまま違うRBとして自我を持たせようと更に加えられた。


赤黒い肌から連想されたモノを彼女のモチーフにした。それが悪魔だった。悪魔と言うのは角の生えた悪の象徴。同時に罪人を裁くモノでもある。それが日本の鬼と呼ばれる。彼女はこれを合わせ持つ存在として製作を進められた。


正直、エリアスよりも簡単だった。伝説生まれに近く、概念として誰もが持っていればそれに感化されたレネゲイドが反映される。それを利用して媒体を加え、改良という名の実験を繰り返した。結果、たまに手足を焼失したりしてツギハギになってしまった。


結果、彼女は女性型の悪魔と鬼のハーフという感じで自我を持つことになった。頭部に二本の角を生やし、青い髪を持つ顔だけは美しいRBとなった。自我を持ってからは比較的大人しく、暴力を振るうことは無かった。ただ、実験で確認するサラマンダーの火力は凄まじいモノだった。エリアスの伏線なだけある。


製作者の発想の元、ブラム=ストーカーの能力を追加することにした。元から人形”リア”がブラム=ストーカーであるために追加することは難なく出来た。最初からその能力があればそれに感染させればいいのだから。だが、これが事件を起こしてしまった。暴走してしまったのだ。おかげで目覚めてすぐ研究員を殺してしまった。それもゆっくり時間をかけて。そこから推測するに、衝動「加虐」だと判断した。


満足したのか、その後は大人しくしてくれたが数日経てばまた殺し始めたのだ。正しくは大量の負傷者を出した。殺したのは拷問のような彼女の加虐に耐えられなかったモノだけだ。耐えたモノはトラウマ級となり、二度と彼女の研究班とはなりたくないと断固拒否した。そのおかげで彼女の担当研究員はマゾと言われている。


制作者がそのことに頭を悩ませて出した結果が対になる衝動があったはずと新しいRBを作ることとなった。それが他のRBの1体、死蝋”モーリッツ”だった。彼は衝動「自傷」なのだ。まさに理想のマゾ。それに彼自身彼女が気に入っているようだ。だが彼女はモーリッツをとても毛嫌いしているようだ。それもそうだ。最強のマゾだ。製作者がこれを期に名前を付けた。エリアスの伏線でありながら対処が他のRBになるという何とも関り深いモノとなった。しかし、研究員に対する加虐が更に増加した気がするのは気のせいだと思いたい。


衝動:加虐

名前:赤鬼”ルイーザ”

シンドローム:サラマンダー・ブラム=ストーカー

性別:女性 ※媒体となった体が女性であるための判断

暴走:満足するまで人に苦痛を与える。初期からの行いで、数多くの負傷者を出したせいか、より相手を生きながらにして苦しめる知識を備えている。対象になったらすぐ逃げに徹し、死蝋”モーリッツ”を連れてくることにする。大体それでどうにかなる。しかし、モーリッツも暴走することがある為、対処には人知”エミール”も加えるように。侵蝕率が低下しても拷問を行うため、注意が必要。

現在:レネゲイド供給は血液による摂取である。ただの血液ではなく、罪人の血でなければならないという手間が少しかかる方法である。これは鬼の要素からきているモノだと思われる。刑務所の死刑人を集め、血液をストックしている。輸送による収集が必要である。一度に摂取する量は500㏄ほどである。時によってはさらに少なくしてもいい。侵蝕率は常に50以下とするように。それ以上は実験で許可される以外にしてはならない。


赤鬼”ルイーザ”と死蝋”モーリッツ”の初対面の記録である。

研究員を足蹴りにするルイーザにモーリッツが対面した。

「なんだ、お前?」※日本語

「君がルイーザっていう赤悪鬼?」※英語

「あぁ、我がルイーザだとも。まさか自ら殴られにも出来たか?」※英語

「うん。そうだよ。ボク、死蝋のモーリッツ。初めまして”同士”」※英語

「モーリッツか。お前の威勢ある自虐行動、まぁ、褒めてやろう。手始めに我の足裏でも舐めてろ」

「はーい♪」

モーリッツが膝をついてルイーザの足に手をかけた時、思い切り顎に蹴りを入れられた。

「誰が触れていいと言った。お前が這いつくばって顔を寄せい」

「あぁぁあいい痛みだわぁぁ。」

「・・・なに?お前、なぜ・・・」

「あれ?ボクの事もしかして何も知らない?」

普通なら首を負傷してもおかしくない蹴り上げ方をされたが、モーリッツはそれを恍惚な笑みを浮かべてルイーザを見ていた。

「ボクは『自傷』の屍死蝋。もう死んでるから、痛みなんてもう快楽でしかないんだよ。だから、たくさん殴ってくれる君がいると聞いたらもう、喜ぶしかないよね?」

「・・・・・・・・・・はぁ??????」

ルイーザがこの時、初めて困惑した表情を見せた。どっか呆れているようにも見られる。

「ね、ね、もっと蹴って♪何なら頭をぐりぐりっと♪」

「な、・・・なんだこいつ。気持ち悪っっ!!!興ざめにもほどがあるだろ!!!」

「ルイーザーー♪」

「や、やめろ、来るな!!・・・・来るなと言っているだろうがぁぁああ!!!」

ルイーザが炎を纏った拳をモーリッツの腹に与えた。派手に吹っ飛んだ。

「・・・・・・。」

吹っ飛んだ先でぐちゃと肉塊に見えるモーリッツの体が再生していた。

「うっわまじであるか・・・。」

「~~~~~あぁぁあああああははははははははああああぁぁぁぁぁあああああ”あ”あ”あ”♪さいっっっっっっっっこう!!!」

とんでもない動きをして起き上がってきた。これには観察していた研究員もドン引きである。

「気色悪いぞ!!!せめて普通に動かんかい!!」

「えぇー。だって骨折れちゃってるしぃ。あ、もう治ったよ。」

「再生能力、か。高すぎやしないか・・・。」

「気のせいだよ。それにこんなひょろい体で心臓以外の内臓ないけど、いっぱい殴れるでしょう?」

「暴力を振るうことを好んでいるのではない。痛みと恐怖の末、絶望に歪む顔が見たいのだ。お前みたいな殴られて笑う奴なんざ殴ってもこれっぽちも楽しくない。」

「んじゃ、殴ってくれないの?悲しぃなぁ。」

「近づいたら殴る。いや、殺す。」

「ほんと?!んじゃ近づく!なんならハグしようか?」

「んだから来るな!!我ったら余計なことを言ってしまったぞ!!ああああああああああああ!!!!」


以上が初対面の記録になる。

これ以降、モーリッツがルイーザの元へ行くことが多くなった。珍しい時であればモーリッツとルイーザで普通の会話をしていることもある。仲がいいのか悪いのかサドとマゾの関係となった。これを期に、12体のRBの施設移動が許可制で行えるようになった。正しくは毎度研究者が監視するのがめんどくさくなったから放置したというべきか。その代わりに壁や防壁などの防衛線、脱走などの予備は多くされることになった。


我は悪魔だ。我は鬼だ。それ故に人を虐げる事が我が快楽なのだ。全ては人という名の我が玩具の命を極限まで弱らせてその消えそうな、死にそうな瞬間こそ、命の炎が燃え盛る時なのだから。その時ほど必死こいてだらしない姿を晒す。生きるためだけに他者すら蹴落とすその生き様が見てて愉悦なのだ。

足を折る。指を1本ずつじっくりと痛みが長く走るように引き千切る。死なないギリギリを感じてもらうためにわざと手を抜く。そのために力加減だって微調整する。相手の高鳴る鼓動、漏れ出す声、目から流れる大量の涙、それらを見てこれぐらいかと釣り上がって仕方ない口で笑いながら楽しむのさ。


いつものサンドバックはモーリッツ。その腹にめんどくさく拳をぶつけてやるが、手加減すると逆に怒ってくるのだ。めんどくさい。かといって本気で殴ると笑ったまま消滅しかけるのだ。製作者とエリアスに我が怒られる。なぜじゃ・・・。


しかしながら、我は人に対し苦痛を与えるに変わりない。我を見るだけでガタガタと震わす体ともつれて逃げられる抜けた腰を見るのは何ともそそられるモノだ。もっと泣け。もっと叫べ。それで我は満たされるのだから。


ルイーザに与える人は全員死刑囚である。そして不思議なことに極悪人ほどルイーザが楽しんでいる。小物の罪人は少し楽しめたとしても、簡単に死んでしまうのだ。それは無意識にルイーザが選んでいる可能性がある。それは意思なき鬼としてのモノだと思われる。鬼は悪人を地獄で裁き、第二の死を与える。日本の神話は面白いな。鬼が神の使いの様にされている。悪魔も似たようなものだろうか。いや、悪魔は人の欲そのモノ。どちらかと言えば鬼に裁かれるべき悪欲だろうな。そう言った概念としての生まれを持つルイーザは比較的人らしいとも言えるのかもしれない。

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