第5話 衝動:破壊

死体処理の一件が落ち着いたのでまた大きなタイプのRBを作ろうとなったが、研究者曰く、もうあの鯨並みのはやめてくれとのこと。そしてあの犬並みの殺傷能力はやめてくれとのこと。注文が多いわボケと突っ込んだのが以外にも笑われた。


それぞれを飲み込んだ上で考えられたのが伝説上の生物、ドラゴン型のRBだ。一つのロマンだよねと製作者が目をキラキラさせて言ったのはバッチリ監視カメラ記録に入れた。いざドラゴンを作ろうとしたら準備がとてつもなくかかった。


まず、ドラゴンと言うのは完全な架空生物で他生物を使っての製作はかなり難しいと、一から孵すことが必要になった。まずは様々な生物のDNAを採取し、それらを人工的に改良、生物のそれぞれの特徴を取り合わせ、ドラゴンに近いDNAを作り、ダチョウの卵を利用して孵化させた。


失敗が繰り返された。あまりにも作れない。研究者が途中でストレスでダウンするほどだ。やむおえず、人知”エミール”に生物学を学ばせて手伝ってもらった。生物を知りえない人工知能が生物を作り出すのは間違いなくやばいのだ。それでも助けを必要とするほどに研究者の精神が擦り減った。そのころ製作者はバカンスに行っていた。


研究者のストレスがマッハに募っていた。人知”エミール”に頼んで製作者が帰ってきたら長期有休を取れるようにした。脅しも可能にする許可をした。人知”エミール”は「では、手加減なしで。」と無機質なのにどこか楽しそうに言った。自我が無いって嘘なんじゃないかと一部の研究者が思ったのは内緒。


やっとのことでドラゴンの孵化に成功。色素遺伝子が混合して真っ黒なドラゴンが出来た。鳴き声が超可愛い。精神がすり減っていた研究者は我が子の様に可愛がっていた。製作者も可愛がろうとしたところ研究者に銃を向けられて殺意ある態度を向けられた。影で録画を回していたのは内緒。


ドラゴン専用の育成室を作り、そこでのんびりと過ごしていた。1週間もすれば自分で翼を動かして飛び回った。残念ながら体長は1mも無かったので人は乗せられなかった。それでも研究者は癒しの如く世話を続けていた。何なら一緒に寝ていた。


ドラゴンは検査やらテストやら様々なことをしながら順調に育っていき、いつしか育成室が狭くなってしまった。そのためバロールの能力を利用した拡張を行い、超大型ドーム並みの広さを用意した。体長12m53㎝になった体でも余裕で飛べる広さだ。ドラゴンは表情がいいと評価されるようだ。研究者がアイドルだわとぼやいていた。


黒いドラゴンは4足歩行型の鱗を持つタイプである。翼は皮であり、尻尾は思い切り振られたらたまったもんじゃない頑丈な体を持つ。生憎と言語は通じないし、喋れないがなんとなくで通じている。お腹が空くと顔を擦り寄せてくる。眠くなると座り込んで翼をぐーっと伸ばした後に畳んで丸くなる。寝ると写真会が始まるのはどうにかしてほしい。


検査の結果、キュマイラとエグザイルの能力が見られた。だが一つ怪しい点も見つかった。クロスブリードと思ったら振動を操るハヌマーンの能力が見られたのだ。他にもバロールの能力が見られた。同時に影が動く様子が確認された。これは一体何の能力なのか。この時、まだウロボロスというシンドロームは確認されていなかった。


とある実験を終えた後だった。親の様に世話をしていた研究者の一人がドラゴンの体を水浴びさせていた。気持ちよさそうに水で遊んでいたが、ふと水をじっと見つめて固まってしまった。どうしたのか近づくと威嚇するように吼えた。どこか怯えているようにも見えたが落ち着かせようと研究者が近づくと黒い何かがそのまま飲み込んで研究者の姿を消してしまった。ドラゴンは部屋の隅っこで何かから逃げるようにして後ずさりしていた。


のちに研究が進んでウロボロスというシンドロームが分かった。ドラゴンはウロボロス、キュマイラ、エグザイルのトライブリードだった。それで分かったことだが、ドラゴンは最初からウロボロスの能力を持っていたのだ。他シンドロームに対してコピーを行ったり、影を扱う能力を始めから持っていて、無自覚のうちに使っていたのだ。だから他のRB達よりもレネゲイドの消費量が多い方だったのだ。


研究者が一人姿を消した後、ドラゴンは自ら人を拒むようになった。近づこうとすれば殺された。正しくは壊されたのだ。たった手を一度振るっただけであたり一面、血の絵の具が撒き散らされたようになってしまった。触れれば寝ていようがまるで爆発四散。返り血に染る真っ黒な鱗は研究者達に恐怖を与えた。またドラゴンの吠えをまともに聞いた研究者は理性が壊され、狂った。何をしてもこちらに危害を加えるモノばかりだったのだ。これで唯一近づけたのが人形”リア”だった。いくら壊されようが代わりの体があるためにいくらでも直せたのだ。そして人形”リア”を通してドラゴンが暴走状態にあったことが分かった。ここで衝動が「破壊」だと分かった。


しばらくしてドラゴンが姿を変える能力を得た。そしてなったのは消えた研究者だった。そのまま言語を話し始めたのだ。


暴走したままですまなかった。あの時、水に移った私があまりにも黒く見えてその奥で何かが弾けたんだ。その様子を見て驚いたら人が近寄ってきて思わず飲み込んでしまった。この体はその模写でしかない。しかし、この姿でなければ人の言葉は喋れない。出来れば喋りたくない。そして人の姿になりたくない。私からの要求を承諾してくれればまたいくらでも実験されてやる。


続けて話されたのは絶対に近づかない事、破壊する力を無理に使わせない事、あの同士達だけは直接来ていいという事だった。これに研究者は承諾した。ドラゴンにあったのは周囲の物を何でも破壊してしまう力。しかしこれはドラゴンが望むことではなかった。だから壊させないでくれという事だった。姿を消してしまった研究者にしっかり育てられたために他者思いな性格が出来たのだと思われる。また、今後二度と人の姿を取らないとも言った。

これを期に製作者がドラゴンに名前を付けた。命あるモノとして最も清いモノだろうとされた。だが、今までのRBと比べて桁違いな破壊能力を持つのは変わらない。


衝動:破壊

名前:黒竜”エリアス”

シンドローム:ウロボロス・キュマイラ・エグザイル

性別:男性 ※口調が男性であるための判断

暴走:上記の通り無差別に破壊能力を使う。彼の破壊能力は現在の防壁改装では歯が立たないことが分かっている。なので無理な防壁拡張は行わない。もし、暴走した際には落ち着くまで時間を必要とする。侵蝕率が30以下になると能力が強制的に止まる。これは彼の意思ではなく生存本能から行われるものだと判断。

現在:レネゲイド供給は直接体にレネゲイドの濃縮させた注射を行う必要がある。食事などの方法も取ったが吐き戻してしまうという結果になったために注射器になった。一度に侵蝕率が100まで上がるように逆算して行うこととする。注射は人知”エミール”が行う。


壊すことしか、私には出来ないのだろうか。だが、壊してしまったために生じるこの罪悪感はあってよかった。もしこれが無かったらきっと100を超える小さな生き物の死体を山にして積み上げていただろうから。だからと言っていいものでも無い。罪悪感に私は苦しめられている。

私は様々な生き物の命で成り立っていると考えた。私は元は無だったと自覚した。だが、無に還ろうとは思わないし、無に還ることを拒みはしない。何しろ、この命として生まれたことには何も咎めることは出来ないだろうし、何より護りたいものが出来た。そのために壊すだけの体としても居たいと願った。たったそれだけのために。

それが「同士」達だった。私と同じく本当は生れることのなかった無から出来たモノだった。中でも姿を持たないエミールは特殊なモノだった。音でしかいることを証明できない何とも無感情な奴だと思えた。その他にも無くすには、壊してしまうには惜しい「同士」達が居たのだ。彼ら、彼女らは生きるに値するか。それもと復讐するに値するか、それもと、元の無に還るべきか。それを見定める日がきっとくる。形あるモノはいつか壊れる。時の進みの様にいつかは来るのだ。それが今かはさっぱりだがな。少なからず好んで壊したいだなんて思ってない。


影ながら、思ってるのだ。同士達よ。私達のこの命は罪であろうか。この行き場のない欲は罪であろうか。それを答えてくれるモノは今は此処にいない。

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