第4話 衝動:殺戮

死体処理問題になった原因がこのRBである。比較的単純。製作者の考案によって伝説上の生き物をRBとして生み出してみようという方法だった。その結果出来たのがケルベロス型のRBだった。


まず、3頭の犬を用意し、2頭を殺して生首にした。1頭に手術を施して3つ頭の犬としたが、2つの頭は簡単には動くことがなく、1回目は失敗。

同じように3頭用意し、2頭を生首にする前にRB化させた後に殺した。その間も生き続けるほどの生命力を取得させたのでそのまま1頭に付けた。しかし、それぞれで隣り合った頭を噛みちぎってしまい、2回目も失敗。

最初から認識していなければならないかという判断に居たり、3頭を兄弟で用意し、あらかじめRBにさせたうえで生首にして作成。すると、研究者に牙を向けてその場にいた研究者18人を食い殺した。その後、ジャーム化していることが判明したため失敗と見なし、殺処分。


まず、兄弟にした点は正解だとし、もう一度兄弟で用意し、今度は子犬の状態から育成、そして会話が成立するとのちに3つ頭のケルベロスになると説明。この際、従うように躾けてはいた為研究者をその場で噛み殺すことは無かったが、3頭だけになった時に言い合いを起こしていた。これは従うべきものだろうが、誰の体を使うのか。誰が生首になるのか。やはり死ぬわけではないがそのような姿になる事を口に出さずとも拒否していた。


これを記録していた人知”エミール”は次の案を提示した。

3頭をケルベロス化する前に、1頭追加してください。その犬は同じ歳のモノで、敵意無く、共に暮らすまで放置し、その後でもう一度ケルベロス化を説明してください。そして個々で「3匹のうち、誰を生首にしますか」と問いましょう。


それを承諾し、クローン作製によって血の繋がりが一切ない同じ歳の犬を1頭追加。最初は警戒していたが新しい子と紹介し、1週間ほどで一緒になるほどに打ち解けた。人口広場では4頭で人工芝の上を走って、じゃれ合って、餌を取り合ったり、喧嘩したり、RBでありながら犬と変わらない暮らしをさせた。そして時を待ってもう一度ケルベロス化を4頭に説明。3頭は知っていたが1頭はこれを初めて聞く。そしてその後1頭ずつ部屋に呼んで「3匹のうち、誰を生首にしますか」と問う。


長男は「俺が生首になる」と自己犠牲を選んだ。

次男は「4番目を生首にしてくれ」と兄弟を生首にしたくなかった。

三男は「絶対に生首になりたくない」と自分を一番にした。

4番目は「きっと俺を生首にしたいだろうな」と自傷気味に自己犠牲を選んだ。

この回答を元に人知”エミール”はケルベロス化を実行した。


死ぬわけではない。犬達は異形になる事を拒んだのだ。だから、誰かが生首にならず、誰かが生首になって体を動かせないと思った。唯一生首にされないモノが主導権を握ると。つまりは4頭とも自由に動けないことが一番に嫌なのだ。


その中でそれは弟達も同じだと哀れんだのが長男。長男から見れば4番目も弟に含まれるのだ。一番上としてやるべきことを考え、使命を重んじたのだ。

次男は長男と三男の生首になって苦悩する姿を見たくない、自由に動きずらいという意思で、構わずに動ける4番目を生首にするのがいいと考えた。

三男は自由に動けないことを不満に思い、自由に動く為ならば犠牲も惜しまないという事だ。だが、すると言われてやむおえず選んでいるに過ぎない。兄弟を苦しめる事は出来ればしたくないんだ。

4番目は自分が部外者であることを何よりも知っていた。だから兄弟達は自分を真っ先に生首にするだろうと考えた。そして、自分はクローンであるという事も知っていた。自由に対する執着心は兄弟達に比べてなかった。


ケルベロス化を終えた後、3つの頭は遠吠えをした。全ての頭は遠吠えをやめると1つは唸り、1つは低く笑い、1つは言葉を話した。

「やってくれたな、同士よ」


作成方法は以下の通りである。

4頭全て生首にした。そして長男、次男、三男の頭を使い、4番目の体を使った。真ん中に長男、右に次男、左に三男という配置をして4番目の体を兄弟全員の好きに動くようにした。いや、逆だったか。4番目の言うとおりに動くのだろうか。いや、そもそもここにいる時点で自由なんて欠片もなかっただろう。

これを期に製作者が名前を付けた。日が経って自我形成された人知”エミール”はそのRBに向かって「これで全員仲良しだよ?」と言った。それを聞いて次男が口を開いた。「全くだ」その言葉を話した後、尻尾が軽く揺れていた。長男は黙り、三男はめんどくさそうに低く唸っていた。


衝動:殺戮

名前:番犬”ヴォルフガング”

シンドローム:キュマイラ・サラマンダー

性別:オス・オス・オス・オス ※4頭の犬を使っているための記載

暴走:暴走中は言葉を話さない。ただし、同じ動物系RBにはなんと言っているのかが分かる。それによると早口に1つの人格がどこだどこだと言っているように聞こえると。

基本的に対話は真ん中の頭が行う。たまに右側の頭が話してくるが左側の頭は一切人の言葉を話さない。よく観察すると、言っていることと行動が違うモノだったりすることもある。あまり過度に話し込むと噛み殺される。

現在:身体的問題は一切無い。食事は3つの頭全て可能である。特別な理由がない限り、彼と直接会うことは出来ない。レネゲイドに感染した一般的なドックフードを食べる。それを供給システムとする。たまに殺した人も食べる。


シンドロームはただの犬のRBだったのを引き継いでいる。兄弟は全員キュマイラだったが4番目だけクローンであるためにサラマンダーの能力を持っていた。そのため、キュマイラ・サラマンダーのクロスブリードとして覚醒したと思われる。とても個々が別だとは思えないほどに素早い動きも出来る。暴走状態では絶対に近づかず、落ち着くまで監禁する必要がある。その時だけ4番目が出てくるらしい。耐えるには難しい、何処から来たのかも分からない感情が。


とても複雑な感覚である。体はある程度自由に動くというのに、左右にある頭は弟達のモノで、俺が長男として決定権を持っていることは変わらなかった。たまに体は弟達の言う通りに動くから急に動かれると少し驚くこともある。

変わったのは本当にそれだけだった。不思議なくらいに今までと変わらないんだ。誰かが死んだわけでもないし、ただくっついた。そんな感じだった。たまに兄弟達が居るかと問うと居るぞと甘える声が2つ、下を見れば嬉しそうに構える前足が見える。本当に全員ここにいる。だが、そう俺が望んだからこうなっているのではと思ってしまう。本当は全員死んでいるのではと。

体は自由に動く。たまに動けないのはそう俺がしているからではないだろうか?時間が経てば腹は減る。視界に移る餌の器が4つあるのだから、それを食う。たまに兄弟達が悪巧みして他の兄弟の餌を食べてしまう。やれやれと思っても仕方ないなぁと許している。食べ終わると4つの器は空になっている。腹も満腹だ。これらは、全て俺だけで食べたんじゃないか?

腹が満腹になれば眠くなってくる。お気に入りの寝床に入って体を寄せあって寝る。隣のいびきがうるさい。なので少し蹴る。驚いた様子をして、また寝た。やっぱりいびきがうるさい。だが、いびきが無くなると少し心配する。ふと起きて隣を見る。すやすや眠っているのを見て安心してまた眠る。寄せ合う体はどこにあった?いびきって、どの兄弟がしていた?蹴ったって、誰が誰にしたんだ?俺は・・・。


番犬”ヴォルフガング”に対し、兄弟の呼び名を使ってはならない。使うと他の兄弟はどこにいると問い始めて、最終的に兄弟の体と頭を探そうと殺戮を始める。自分が分からなくなり、自分はどこに行ったともうない屍を求めて殺すのだ。その兄弟と似ても似つかない屍が、どこか落ち着くのだ。血の香りが、肉の感触が。だが、時間が経つとその温かさもなくなってしまうし、それは兄弟ではないと気づいてまた殺し始める。兄弟と同じ温かさを持ち、血の香りがするその屍を求めて殺戮をする。


これに対し、他の11体のRBに危害を一切加えないことが分かった。むしろ、一部のRBは怖がっている。中でも尊敬しているのは黒竜”エリアス”である。基本的に「同士」と呼び、人知”エミール”に対しては会話するたびに「俺は誰だ?」と問う。その返答に「君はヴォルフガングだよ」と返す。これで暴走しないのが不思議だ。


これにより、度々自問自答で暴走を繰り返す。今まで殺した研究員や実験体はもう数えてられない。そのせいで死体の山が出来上がった。

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