第3話 衝動:飢餓

次に作られたのは前回の問題になっていた死体処理が絡んでいた。死体をただ廃棄すると腐敗やら海の汚染となって世界的にこの場所がバレてしまうことになりかねない。かといって毎回焼却処分するのも時間がかかる。そういうことで死体を処分する行動をするRBを作ることに。


依頼主の組織から一頭の白鯨を受け取った。その鯨を育てて、餌を実験で死んだ死体にした。鯨は問題なく死体を食べ続け大きくなっていた。この死体には人形”リア”のように死体にレネゲイドを濃く感染させて与えた。死体を食べることがレネゲイドの摂取方法になった。死体処理も出来てRBの制作実験も出来る点としてとても役に立っている。


ただし、元から鯨という生き物であるために自我はあれど言語による意思疎通は出来なかった。鯨特有の行動を見定めて判断するしかない。これではただの鯨を育てているだけに過ぎない。シンドロームも分かっていない。ただこの食欲からするに推測では「飢餓」になるだろうとされた。


餌のプログラムを組ませていた人知”エミール”から今後の餌量について報告がされた。体が大きくなるように餌の量も倍以上に変わるという事だった。今は死体が山ほどあるためにペースは大丈夫だが、時期に餌の為に死体を用意することになると。そこまで行きつく予測を計算したところ20年から50年の間とされた。まだそれならば対処の使用はあるとされ、推定年数を踏まえて餌の供給機関を設けた。白鯨の為に作られた海水室に直結していて、不要になった実験体やミスで死んだ研究者などをまとめて流し込んだ。そしてその供給ペースが間に合うように人工的に作ったクローン生物を餌にすることに。この場所では人工的に肉体を作ることは1日もいらないのだ。


そのまま死体処理からクローンによる餌の供給に変わった訳だが、5mほどしかなかった白鯨はいつしか30mにまで成長した。体重も約80tと桁外れである。この巨大化には専用の海水室も3回ほど改装した。改装準備をしていた職員はもう二度としたくないとぼやいていた。


白鯨は死体を食べ続けていたため研究者すべてが餌に見えている状態。なので1年もすればダイバーが目の前にいることは出来なくなった。ダイバーが2人食べられている。その次にアンドロイドを用いて検査が行われたがアンドロイドも食べられた。さすがに腹を壊したみたいでその後、泣きわめいていた。しかし、鉄の塊であるアンドロイドすら噛み砕いたのだ。以後、アンドロイドも使用しない外部からのプログラム改装と専用スキャナーでの検査が行われるようになった。


巨大な白鯨で一日に食べる餌の量は死体をわざと作るようにまでなった。実験で出来てしまった失敗作も鯨に食べさせた。その一方レネゲイドによる覚醒は一切見られなかった。体が巨大化しただけかと思っていた。

海水室の一部の壁が海水の供給の為外と繋がっていた。その開閉スイッチが勝手に動作し、白鯨が脱走違反した。その後、行方不明のままだった。製作者が依頼主の組織に白鯨の捕獲を依頼し、果てには詳細を改ざんした上で一般の捕鯨職にまで依頼をして探しだした。その時の詳細が下記になる。


種:マッコウクジラ

性別:オス

体長:約30m

特徴:白い鯨で、深い潜水を始める際に約6mの尾ひれが水面から現れる。

依頼内容:白鯨の発見。殺した際にはその体を渡してもらう。


鯨から取れる油で栄えていた一般人からすればハイリスク、ハイリターンなモノだった。それでも名のある捕鯨をするモノは犬の如く白鯨を探した。いつしかその白鯨は伝説となって一般人から「モービー・ディック」と呼ばれていた。


ある程度の月日を経てて、白鯨はこの場所に自ら帰ってきた。その時は体長50mになり、こちらに向かって話し始めたのだ。第一声に言った言葉で研究者は驚愕した。

「ただいま。もう外に出るのはやめるよ」


白鯨の背中には無数の捕鯨用の槍が刺さっており、ロープが何重にも絡んでいて、その中に片足が鯨の骨で作られた義肢の男性の死体が巻き込まれていた。白鯨が動くたびにその死体の右手が手招きしているように見えた。

その背中の槍を全て抜き、男性の死体は鯨が食べた。鯨は外での話をしてくれた。


外ではとりあえず目の前にいたお魚をたくさん食べていた。たまに上に上がるとちゅんちゅんと音がした。それが鳥というモノだと初めて知った。鳥とお話もしたよ。そしたら餌が欲しいって。自分も食べるモノが欲しかったから鳥と協力したんだ。


上に自分よりも小さな、けどもお魚とは違うモノがあった。鳥に聞いたらあれは船だよって教えてもらった。船には人が乗ってるって。そっか、それじゃぁその船を壊して人を食べようと鳥と話した。一気に海の下に潜って、鳥がその間船のある場所でたくさん鳴いてくれる。自分は横向きでなければ見れないから、その音を頼りに頭で突進したり、下から背中で押してみたりして船を壊した。小さい船はそのまま食べちゃった。


鳥と協力しながらたくさん食べた。けどもたくさん食べているうちにだんだん疲れてきた。音が聞こえづらくなる事もあった。気が付いたら背中がとっても痛かった。鳥の声も分からなくなってきた。だから帰ってきた。


このことから白鯨は捕鯨によって何度も殺されようとしたがその巨体故、全員海に沈めて来たのだろう。背中にいた男性もその一人か。捕鯨で手に入る油は価値が高い。そして鯨の肉も美味い。その体を回収するはずだったがはやり捕まえた自分達が活用したいと考えるか。まぁ、その体を持っていたら即組織に協力してもらって運んでもらっていたが。

これらの件をふまえ、製作者が白鯨に名前を与えた。シンドローム検査もしなければと準備をしつつ、鯨は人を餌としか思っていないため餌をくれる餌という解釈で理解してもらった。これで研究者は多分食べれらない。


衝動:飢餓

名前:白鯨”フェリックス”

シンドローム:ハヌマーン

性別:オス

暴走:一度も暴走したことは無い。だが、それは食欲が満たされているからだと判断。通常通り餌の供給システムが作動していれば心配はないだろう。しかし、過去の一件から人だけではなく船なども食べられると判断。前のアンドロイドを食べた時よりも胃酸が強くなっていることが判明。暴走した時を備え、海水室は衝撃吸収、防壁、伸縮、といった改変を行うことで暴走に備えた。

現在:レネゲイドウイルスに感染させた死体を餌とし、1500㎏の餌を1日5回与えることにする。


シンドローム検査の結果、ハヌマーンの能力が発見された。以前の脱走違反は振動を利用して外壁の扉のスイッチを入れたという事だ。彼からの話で鳥と会話が出来るのもRBとしてか、ハヌマーンとしての能力だろうと考えられる。それを踏まえて行われたテストでは彼を中心とした2㎞の範囲で聴覚を持つことが分かった。彼自身、目はそこまで良くなく、ほとんど音を利用して周りを把握しているとのこと。


そして彼の話から少々餌に文句を付け初めた。あまりにも古い死体はやめてとのこと。お腹壊すと言っている。これを承諾し、死後2日以内の死体を餌にすることにした。そしてたまには生き餌も欲しいとのことで。1週間に1回、クローンとして作成したサメやシャチを水槽室に入れた。満足して食べていた。お腹いっぱいで満足すると温厚な性格が伺える。言葉はハヌマーンの振動を利用した範囲内の限られたモノにしか聞こえない仕組みだ。


他11体のRBとの会話では相性がいい。他RBの事を「同士」と呼ぶ。温厚な性格が現れ、とりあえずお腹いっぱいまで食べられればいいとのこと。その中でも死蝋”モーリッツ”はあまり食べたくないとのこと。だって食べた感じしなさそうだし、お腹絶対に壊しそうだから。やはりある意味最強だと思われる死蝋”モーリッツ”だった。これには研究者も納得する。


しかし、研究者が驚いたのはそこだけではない。このRB達12体は全員レネゲイドウイルスを供給され続けなければ生命を維持できない。RBとして活動することが出来ないのだ。その点、この白鯨”フェリックス”だけは元から生きている状態でRB化された為か、RBとしての能力を失う程度で帰ってこれたのかもしれない。しかし、現在ではその巨体と生命維持にレネゲイドは関わっている。無いとは思うがまた脱走違反を起こした時には消滅するだろう。


自分は実験でこうなったと理解しているが、別にこのまま食べ続けられるならいいやと軽視している。食欲が全て過ぎる。しかし、いつか同じRBである黒竜”エリアス”を食べたいとか思ってるらしい。だって大きいから食べ応えありそう。


追記:幽霊”マリー”の領域制御の為、彼に協力してもらっている。その為、実験を行う際には事前に幽霊”マリー”を無力化してから行うこととする。そして彼自身にレネゲイドによる攻撃能力は一切ない。故に支援型であると判断した。

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