第2話 衝動:吸血

2体目のRB制作で使ったのは球体関節人形だった。

普通の人よりも少し大きい約170㎝の身長を持つ女性型人形で、白いワンピースを着せてた。だがRBとして覚醒させる上で何かを加えなくてはならなかった。レネゲイドを入れるための何かを。


結論から言うと人形の中に血肉を入れたのだ。実験で死亡した死体の処理ペースが間に合わなくなってきたのでレネゲイド感染した死体を細かくし、人形の胴体や足、頭、指先にまで詰め込んだ。中身が空洞で軽かった体は血肉が詰まって重さ70キロ前後になった。血肉を詰め込んだせいで白いワンピースは真っ赤になったので服を新しく着せた。赤茶色のワンピースにした。


血肉を詰め込んで1週間が経過したが人形が動く気配は全くなかった。まだ命としてレネゲイドが活性化していなかった。それどころか死体の腐敗によって異臭が強くなってしまった。そのためただの血肉ではなく防腐を施した死体を用意し、血を少なくした。3日に1回、体内の血肉を新しいものと交換することにした。


防腐を施して3日に1回の交換を回していたら制作から3ヶ月で覚醒が見られた。人形が一人で立ち上がったのだ。こちらから会話を仕掛けて見るが返答はなかった。ただずっと目の前にいる人を眺め続けていた。表情は無であり、読み取りは不可能である。


しばらくそのまま観察していると自分で指を噛んで血を流してその血で壁に模様を描き始めた。字とはとてもいい難い、子供の描く絵のようだった。このことから知能がないために会話が出来なかったという結論に至った。それから絵本を10冊部屋に置いてみると人形は次々に読み始めた。たまに研究員が入り、読み聞かせと言う方法を取って発音、言語を教えた。のちにまた指を噛んで壁に字を書き始めた。綺麗とは言えないが読める程度の英文を書いた。ちなみに初めて書いた文字は『Blood』だった。


人形が自分から会話するようになった。声は中にある血肉を動かして発音していると自分で説明した。そして真似をしたがるようになり、研究員と同じ服装をし始めた。絵本から文章のみの小説も読むようになった。記録によれば推定年齢12歳だとされる。並みの知識が備わった後には能力テストと実験を実行することになった。


知識テストでは高校生並みの学力をつけた。だが、人並な時間を必要とするあたり、ノイマンの覚醒は見られない。その反面、一人でいる時に人形を壊し、その中に自分の血を入れたことが分かった。その人形を調べると従者化していた。これを見るにブラム=ストーカーの従者使いの能力が着いたと判断した。その後、人形は勝手に動いて本を抑える係として動いていた。座って読むだけでなく寝っ転がって読むことを始めたあたり、人らしさがどこか出てきた様子。これを期に制作者が人形に名前を与えた。未だ衝動は分かっていないが、能力と自我が見えるところから命あるモノとして扱うことをここで決定。その前から研究員で我が子のように育てていたために愛着があるモノが何人かいたが。


衝動:不明

名前:人形”リア”

シンドローム:ブラム=ストーカー

性別:女性 ※体が女性型であり、口調が女性であるための判断

暴走:現在は無し。


他のRBの実験中、リアが親同然の研究員2人を殺した。監視カメラの記録によれば、リアが研究員に対して質問を行い、その返答によって行動をしたとされる。研究員はリアが作り出した従者によって銃殺、殺傷されていた。従者は人形から作られるのではなく、リアの血肉から生成されるようになり、かなり攻撃的な従者を1体だけ作成する。見た目はリアそっくりで、全身赤色で服装はズボンに白衣と研究者と同じ格好をし、右手に剣、左手に拳銃を握ったスタイルだった。剣の形状と銃の形状からして絵本にあった中世のモノだと判断。約30分でその形状は崩れて消滅する。それかリアからの指示で武装が解除される。


私は研究者さんに聞きました。

「人になるにはどうしたらいいですか」

少し困った顔をして返事をしてくれました。

「人の心でもあればいいかなぁ。ほら、笑ったりとか!」

私は考えました。笑うのは口が横向きの三日月の様になる事。人の心は笑うことになるのでしょうか。

「・・・・・」

私は口に力を入れて笑いました。

「笑ってるね!可愛い可愛い♪」

研究者さんは私の頭を優しく撫でました。ふっと笑うのをやめました。目の前の研究者さんは自然に笑えています。眼が輝いています。顔がとても柔らかいです。手もとても暖かいです。ですが私の体は固くて冷たくてそのように笑えません。

「心はもらえますか」

研究者さんはまた困った顔をして返事をしてくれました。

「心はあげられるものではない。いつかリアちゃんの中に生まれてくるから」

私は研究者さんの肩を掴んで言いました。

「いつかではありません。今欲しいと私は言っています」

研究者さんはびっくりした顔をしていました。私はそのままどうしたら今もらえるのかを問い続けました。

研究者さんはびっくりした顔から怖い顔になっていきました。もう一人の研究者さんが止めに間に入りました。

「リアちゃんはあまりにも言葉に色が無いからね。疑問形なのかどうか分かりずらいんだよ。仕方ない。」

言葉に色が無いとは何でしょうか。暖かさとは何でしょうか。心とは何でしょうか。感情とは何でしょうか。私はただ欲しいだけです。

「まぁ、この調子で色々覚えていけば備わる事なんだよ。そう言った疑問が成長へ繋がるからさ」

そう言われて手を離しました。今得られるものではなかったのです。ですが今知りたいのです。今欲しいのです。

『リア、欲しいなら奪ってみれば?目の前の人には心があるだろう?』

機械の声。エミールの声が聞こえました。欲しいなら奪う。・・・そういうことでしたか。答えは目の前にあったのですね。


リアは自分の関節から血液を大量に出し、その血で両手に武器を持つ従者を作り、研究者2人を殺害。従者に手伝わせながら研究者の死体を解剖していた。心が体内にあるモノだと思ったらしく、心臓を手にして違うと捨てていた。そのまま死体をひっくり返すようにして肉塊にしてしまった。心は手に入らなかった。リアは新しい足と手があればまた返事をしてくれますかと、異変に駆け付けた研究者に言った。人を殺したという自覚すらなかったし、死んだという自覚も無かった。


上の暴走以来、リアを可愛がっていた研究者達は一斉にリアの育成と対話を拒むようになった。それっきり実験の説明、対話は全て人知”エミール”が行うことになった。


エミールの言った言葉は何も間違えていない。欲しかったら奪う。何しろ、リアの衝動は「吸血」だったのだから。自分の欲しいと思った、自分も同じになりたいという理想からこの衝動が出てきた。その時に手に入らなければ許せないのだ。耐えられないのだ。それが自分の体に宿って実感できるまで。またはこれは自分には絶対に手に入らないモノだと諦めるまで。


以後、リアと直接会って話が出来るのは同じRBの11体だけとなった。通信越しであれば研究者も話している。だが、リアの危険性に伴い、自分の命を守るにはこうする他ないのだ。いつ死んだっておかしくない場所なのだから。リアは他RBの事を「同士様」という。基本は”さん”付けだったが、親しくなると”様”になるようだ。

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