第18話


「慕う……ってことは、やっぱり恋じゃなかったのね」


「いや、恋とも言えるよ」


「言えるの?」


「もうほぼ一緒。とにかく僕は慕うって気持ちを盗んだけど、それが愛を手に入れたことにならないのは、なんとなく分かるだろう?」


 腕の中で、テディーは頭を垂らしていた。ぬいぐるみにも睡眠が必要なのか疑問だけど、眠っているようだった。


「感情ってさ、多岐に渡るだろう? そのそれぞれが、喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲のどこに分類されるか、考えたことある? たとえば勇気。勇気はどこに分類される?」


 なかなか難しい質問をする。あたしは少し考えたのち、「……分からない」と正直に答えた。


「そうなんだ。感情は難しい。勇気は人を奮い立たせる強い感情であるはずなのに、どこにも属さないように見える。でも、勇気が発生する原因によっては、どこにでも属すると言えるんだ。怒りによって奮い立つ勇気、哀しみによる勇気、愛を守るための勇気。勇気には必ず相棒がいる。このように、感情ってやつは連動していて奥深い。この水晶の中で色となるのは、その色に分類される感情を一定以上集めた時なんだ」


 思わず、ぽかんとしてしまう。「……よく考えてるのね」


「君を探しながら、いろいろ考えたよ」


「あなたも、私を探してたの?」


「あの時、君が家族と会えたあと、すぐに追いかければ良かったんだけど。あの時は、浮かれ気分っていうのかな、どこまでも飛んでいけそうな気がして、ずいぶん遠くまで行ってしまったから」


 コルロルは照れたように、視線を外す。


 あたしは内心、戸惑っていた。コルロルに会った時から、昔のことを聞いた時から。憎み続けてきたその怪物は、あまりにも人間らしかった。あたしよりもよっぽど。


 やつが憎い。それは変わらない。でも、本当に殺してしまっていいの? この怪物を。人間のように笑い、喜びを知るこの怪物を。無機質で恐ろしい怪物を殺すのと、心を持つ怪物を殺すのでは、あたしの中に生まれる後味が、全く違ってくる気がする。


 やつを殺せば、やつが感じている喜びや楽しみは、途絶えてしまう。それはひどく、罪深いことに思えた。


 葛藤を伏せるように、あたしは目を閉じた。リースス。口の中で呼んでみる。彼女は今、どうしているだろう。どんな気持ちで、この山を彷徨っているんだろう。リーススは、今も泣いているんだろうか。どうか、無事でいてくれたら……もう一度会えたなら、彼女を思い切り抱きしめたい。


「おやすみ、レーニス」、コルロルの声。あたしはまじないをかけられたみたいに、意識を手放した。




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