第9話 5月16日
私は動物が好きだ。
特に犬が大好きだ。
と、いうことを例の彼はすでに知っている。
もともと彼も犬が好きでそれで盛り上がったという場面があった。
お互い犬の写真を送りあって可愛いと連呼し、
たまに出てくる面白い写真を送ったりしていた。
「うーん・・・。」
しかしこれがきっかけでまた悩むことになっている。
前にも述べたように、私の答えはまだ出していないものの連絡は続いている。
その流れで【犬】というワードが私を苦しめるとは思わなかった。
たまたまだったがある番組で犬猫特集をやっていたようで
彼がリアルタイムにそのことを教えてくれ、早速見ていたのである。
流石に私も可愛い犬が大量に出てくるので盛り上がっていた。
番組を見ながら連絡を取り、ここが可愛い、これは面白い、など話す。
ここでおさらい。
数日前、この自粛中に会いに行きたいと彼に言われ私は叱ったという過去がある。
その時は私はまだ答えは出せないと言っており、
冷静に考えてもその理由で外出するのはおかしいと。
会いに来るのを断っているのだ。私は正しいことをしたと信じているが・・・。
つまるところ彼は会いたい気持ちを押さえつけている状態である。
私が流石に怒った為か、その文面には情勢のことも考えた痕跡もあった。
落ち着いたら、犬カフェ、行きませんか?
猫も大好きなのだが、悲しいかな猫アレルギーを抱えている。
なので犬カフェに行ってみたいと言ったらこう返事が返ってきたというわけだ。
犬カフェは一人で行くのも気が引けて、行ってみたい場所の一つであった。
「行きたいけど。」
けど、という言葉がどうしても付いてくる。
私達は付き合っていない。私の答えがいつ出るのか分からない。
待ってもらっているのにデートにはほいほい行くのか?
出かけたときに彼はどう思うの?私は?
そもそもこの事態が落ち着いてすぐに外で遊べるの?危険は?
「ぐるぐるする・・・。」
私も夢を追いかける身。この事態が開けた瞬間に忙しくする予定だ。
もともと恋愛は夢に比べたらもうどうでもよかった。
興味もないし諦めもあったし、優先度はとても低くなっていた。
それは今も変わらない。
変わらないのに、一人の男性によってこうも自分のペースが乱れるとは。
まだまだ自分の弱さを感じる。
「でも犬なんだよなぁ。」
もう一度言うが、犬が大好きだ。
それまでテンポよく続けていたLINEも、この返事にだいぶ時間がかかっている。
行きましょう、と打って消し、予定が合えばいいですね、と打っては消し・・・。
まあでもこんな我慢ばかりの日々から解放された時、
楽しみは多めに作っておくべきなのかもしれない。
人は関係ない、私は【犬】に会いに行きたいのだ。
いいですね!落ち着いた時の楽しみにします。
いつになるかは分からない。
犬に会いに行くとは言え、彼と会う事にも変わりない。
きっと日にちが決まっても前日までうじうじするのが目に見えている。
本当に人誑し・・・。
そうこうしていたらまた夜中の3時になってしまっている。
一度悩みだすとなかなか寝付けない。
「頭が疲れた。・・・甘やかすかな。」
定期的に自分を甘やかさないと不安で押しつぶされてしまう。
犬もいいが、温かい飲み物が今は現実的かな。
牛乳をそろそろ飲み切りたいので、今日はホットミルクにする。
牛乳250mlを小さな鍋に入れて弱火でゆっくり熱していく。
沸騰はさせない。人肌より少し温かくするだけ。
温まったらいつもより小さめのグレーのマグカップに注ぐ。
今日は特別だから。大きめのスプーンにはちみつを潜らせて。
カップの縁についても大丈夫。
飲むときにはちみつも味わえる。
ゆっくり溶かしながら、ゆっくり体温を足すように飲む。
甘くて温かくて、簡単な幸せが手に入る。
すぐに眠くなる魔法の飲み物ではないけれど、
さっきまで胸をぎゅうっと締め付けていたこの不安にはとてもよく効く。
どうでもいいやとまでは思えなくても、【大丈夫】を飲んでるみたいに。
この飲み物に名前をつけるなら【大丈夫】かな。
「ダサいなあ笑」
この一杯のおかげで牛乳を使い切ることができた。
明日新しい牛乳を買いに行こう。
いつかまた【大丈夫】が必要になる未来の自分の為に。
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