第7話 5月11日
時が止まったかと思った。
というより自分のすべての思考が一瞬止まったというべきか。
それは夜中の2時35分のこと。
昼間の暑さが夜にまで手を伸ばして、なかなか寝付けなかった。
暑さのせいにしているが実際は昼夜逆転しているため今が活動時間である。
家にいる時間がとても長いので、
この際はと普段目を背けていたところが気になり始めた。
その中の一つに服の修理や整理が含まれていた。
普段アイロンがけは時間のある時か皺が目立つ時しかやらない。
そうだ、今がまさにやるべき時ではないかと重い腰が上がったのである。
「そろそろ衣替えだし、片っ端からやろう。」
私は服が好きだ。
古着も大好きだ。
なので必然的に服の量は多くなる。
アイロンも最初は怪我などしないように動作を丁寧にしていたが
慣れてくれば考え事も始まる。
例の彼のこと。いつまで家にいなければならないのか。明日のご飯。
手を動かしながら考え事をすると頭が整理されて良い。
集中力の配分が5対5になると丁度良いのだ。
しかし
人間ずっとは続けられないのがその名も集中力というもの。
アイロンをかけながら、集中力の比率が6対4になった瞬間があった。
本当に一瞬だった。
左の人差し指に衝撃が走って、全ての動作が強制終了した。
考え事も、アイロンをかける手も。
こんなに格好よく書いているが、
まあ要は・・・火傷をしたのだ。
「こういう時は、何するんだっけ・・・あ、冷やすのか。」
あまりの衝撃と、火傷など久しぶりに負ったので
何をしたらいいのかということ、指の現状把握に必死だった。
まったくこれではゲームができないではないか。
「これ結構長い間冷やすんだよね。」
キッチンの流れる水道を眺めながら、
面倒くさいことになったもんだとやっと冷静な思考になった。
5分ほど冷水にあてたところでやめてみる。
薬やガーゼがあったか確認しよう。
蛇口をひねり救急箱を取りに行こうと思ったのだがまた衝撃が走った。
「え、痛。」
火傷特有のひりひりした刺すような痛みが止まらない。
冷水から指を外すと常に痛い。
結果、いつまでも冷水から離れられなくなってしまった。
「氷、は確かあったよね。はぁ・・・あー。」
小さなグラスに氷をたくさん入れて水も入れる。
そして人差し指を突っ込み、ほかの指でグラスを持つ。
とりあえず自由は利くようになった。
痕にならないといいな。
悩みごとのせいで外傷まで負うのは気にくわない。
自分のせいではあるのだが、なんだか腹立たしい。
きっと早く寝ないから神様の罰が当たった。そう思うことにする。
時刻は3時26分。
まだ暗いうちに寝られるのは良かった。
薬を塗りガーゼで覆い、
包帯で寝袋をまとった人差し指はいつまでも痛みで起きているつもりのようだ。
あまりの痛みに、私が寝たのは5時頃。
指の寝相も悪い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます