第6話 5月9日
現在朝5時32分。
寒い。
「足が凶器。」
私はもともと冷え性で、特に末端が冷える。
指先をはじめ首の後ろ、お尻、足首、足先。
昼間ももちろん冷えているのだが特にひどいのは寝る時だ。
そしてまさに今自分の足先によって眠れなくなってしまっている。
「靴下の感覚もないや。」
女の子である以上ある程度の装備がある。
着圧タイツにレッグウォーマー、ふわふわの靴下。
これだけやっていても冷えるものは冷えるのだ。
とてもじゃないがこれでは安らかに眠ることはできない。
「・・・足湯。」
そうだ、足湯しようかな。
こんだけ履いても暖かくならないのであれば内側を温めなければ。
前に古道具店で買ったホーローの洗面器がある。
下北沢の駅から徒歩で5分ほどのところにある古道具のお店。
いつも行くのだがお店の名前をどうも忘れてしまう。
でも場所だけは絶対に間違えない大好きなお店。
この家に引っ越した時どうしても欲しかった・・・救ってくれたのもこのお店。
牛乳のような色身の白で、縁は濃いめの青。
感性にどんぴしゃなホーローの洗面器。
ついに使う時が来た。
キッチンへ行きお湯を沸かす。
ホーローには蛇口からぬるま湯を10センチほど入れておく。
お湯が沸くのには時間がまだ必要なので、今のうちに運んでおこう。
「この際だから入浴剤入れようかな。」
時間は朝の6時前。
小さな窓からはカーテン越しに朝日が透け始めていて、
普段寝ていては見られない暖かそうな光。
この時間を特別にしたい。自分だけの為に。
ブランケットを側に引っ張って来て、床にはホーローを。
赤い薬缶も鍋敷きの上に置き、ハンドタオルも畳んで置く。
私が大好きなミルクの香りの入浴剤を降りかけて。
軽く手でかき回してから少しだけ薬缶のお湯を注げば・・・。
部屋いっぱいに幸せの香りが広がってゆく。
「最高。」
さあ本番。足を失礼して。
「・・・最高すぎる。」
一気に足先に感覚を取り戻す。
ミルクの香りと足に伝わる温かさ。
これ以上の幸せは今現在暫定的に、ない。
いや、あるのだろうが思いつかない。
申し訳ないが、6時07分、この時間の王様は私。
「毎日やりたい。かも。」
やらないのは目に見えているが、最高だったという思い出は残ることが大切。
面倒くさがってやらない事の方が多いけれど。
この面倒くさいが私の幸せをどれだけ奪っていたのかを少し理解した。
足湯の辞め時が分からないな。
冷めたら薬缶のお湯を注げばいい。
この薬缶のお湯がなくなるまでは王様でいることにしよう。
―――――――――――――――――――――
:肌荒れは良くなってきた
:お湯を沸かすときはいつも赤い薬缶
:コンロはちなみに二口
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