第5話 5月8日

明後日会いたいんだけど、そちらの情勢はどう?


・・・さて、一回落ち着こう。

今日も今日とてお昼過ぎの2時に起きる。

天気が良くて雨戸もすでに温まっており入ってくる日差しが痛い。

洗濯物をしようと思ったが夜から雨らしいのでやめておく。


まだ半分夢の中で上半身を起こしたまま手元に布団を寄せて考える。

今はみんな自粛しなきゃいけない時。例外はない。

不必要な外出はほかの人を苦しめることになり得る。

そんな中携帯にはこんなメッセージが来ていた。


頭がまだ起きてないし、のどもカラカラだ。

布団を手放しキッチンへ。

昨日の夜洗った透明なグラスを取り、一度沸騰させて冷やした水を注ぐ。

できるだけグラスに一杯並々注ぐ。


そして息継ぎせず、一気に、全部、飲む。


さながら水を得た魚だ。

頭が起きて指先から足先まで水の冷たさが行き渡る。

思考が始まって、魚は水の中を泳ぐ。


もう一度考えよう。

会いたいという気持ちは汲む。

好きな女の子にはそりゃ会いたいであろう。

前回初めて会った時、また会いに来たいといわれて、


「その時、世の中の様子を私が冷静に考えます。話はそれからです。」


このように言った。

前にも述べたように情勢は変わらない。

みんな一生懸命に我慢をしている。

会いに来てもらったとしてリスクは何倍にも跳ね上がり

その際私にも、彼にもリスクは振りかかるどころか

関係の無い人も巻き込むことになる。

それは私的に本当に許しがたい、正義感が黙ってられない。


だんだん怒りも湧いてくる。

できるだけ冷静に考えを纏めて携帯を手に取り既読をつけ文字を打つ。


会いたいとのことでしたが、この事態が世間的に収まるまで待てませんか?

この中で家から出て働かなければならない人もいるのです。

私達のせいでその人を危険に晒すべきではありませんし、

冷静考えても会うのは今ではないと思います。


・・・うん、いいんだ、これが私の思いだもの。

この緊急事態でなければ、こんな気持ちにはならなかったのだろうか。

私は普通に恋愛ができて、この人を困らせることはなかったのだろうか。

【たられば】ばかりになる。


既読はついた。でも、しばらく返事は見たくない。

待つって言ったのはあなただ。

でも待てないと送ってきたのもあなただ。


せっかく水を得たのに、変な色を混ぜないで。





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