Vol.10 温度差


 紅莉栖のダンスレッスンは4日続いた。

 紅莉栖はみるみる成長し、ダンス中級者ぐらいのレベルになっただろう。

 パワーアップし、万全な状態で挑む第2週目の”決め推し”

 今回は最初から参加する紅莉栖だが、先週の影響のせいかアイドル達はピリピリしながら出番を待っている。


「紅莉栖ちゃん、アイドルは挨拶が大事だから。元気よくね!」

「アイドルだろうが何だろうが、人として挨拶は大事だ。任せておけ!」


 スタジオに入る前に餅川からアイドルの基本を教わるが、紅莉栖には当たり前のことだった様だ。

 そして、この空気感に気圧される事なく紅莉栖はスタジオに入る。


「おはようございます!!」

「「「…………」」」

「おー、おはよう紅莉栖ちゃん。今週も楽しみにしてるよ〜!」


 挨拶を返したのはプロデューサーの新川だけ。

 アイドル達はスマホをいじったり、メイクしたり紅莉栖の事は完全に無視していた。


「餅川よ、私は何かしてしまったか?」

「いや……したっちゃしたね……多分、紅莉栖ちゃんが1位を取ったことが原因じゃないかな?」

「そうか、勝負の世界であるからな……」


 紅莉栖はこの世界に来る前に嫌と言うほどこの感覚を味わっていた。

 制圧した領地に暮らしていた人を、自国に連れていき働かせていた時もこの様な感じだったという。

 少し感慨深く思いながらも、この戦いで人は死なない。ならば全力で戦おうと気合いを入れる。


 そうこうしてる内にいよいよ本番が始まる。

 今週もまた陽気な司会者が番組を進めていく。


「さあ!今週もやって来た”決め推し”!先週は大波乱が起きましたが、今週はどうなるか!?」


 司会者が盛り上げ、アイドル達が登場する。


「じゃあ早速!まずは先週は残念ながら4位に終わった羽川羽衣ちゃんだー!」

「みんなー投票ありがとウイングーもっと応援してねー」

「いやー、今週も可愛いなぁー!!さあ、続いては3位のヘドロドロップスだー!」

「今週もー!」

「あなたのハートにー?」

「へドロドキュン♪」「……ドロドキュン♪」

「ちょっとズレてるじゃん!」

「えー……私が悪いの?」

「ま、まあ2人ともここは仲良くね!」


 露骨にやる気を失っている羽川羽衣となかなか結果が出ずにイライラしているヘドロドロップス。

 ようやく安定したぬるま湯を見つけた2組だが、そのぬるま湯も冷め出してきた様だ。

 この態度が更なる悪循環を生む。

 ネットでのコメントも2人のアンチコメントが増え出した。


「こいつらヤル気ねーwww」

「めっちゃ不貞腐れてるじゃん」

「ヘドロドロップス解散か!?」

「よく見たら可愛くなくね?」


 アイドルとして人前に出る時は完璧ではならない。

 決してファンの前で裏切る様な事をしてはならない。

 それをしてしまうと、もうそのファンは戻らないという事は彼女達は知らない。

 少し悪くなった場の雰囲気を司会者は一掃する様に、前チャンピオンを呼び出す。


「そしてそして、2位は橅木 恋ちゃんだー!」

「みんな!恋が2位でいいのー?このままだと泣いちゃうぞー!」

「これには恋ちゃんファンもメロメロだー!」


 橅木 恋はアイドルとして徹底している。媚び方も、そしてファンを扇動するやり方も熟知している。

 計算といえばそれまでだが、それを見せないのもひとつの技術だ。

 だが、それは見えていなければの話だ。

 ネットの反応は正直だ。


「いつまでぶりっ子キャラなんだよ」

「恋ちゃん応援するよー!!」

「熱心な応援乙www」

「恋ちゃんは俺が守る!!」


 熱心なファンの影に隠れて正直者が顔を出す。

 少しの揺らぎだけでどちらにも勝機はあるだろう。


 そして1位の紹介と共に満を辞して登場するのは紅莉栖。

 その顔はどこか少し誇らしそうにしている。


「番組始まって以来の番狂わせだけど、今の心境はどう?」

「私はいつでも全力で戦うだけだ」

「なるほど〜、このままの勢いで頑張ってください!」


 全員が登場し、票獲得の為にアピールするコーナーが始まる。


「さあ!今週は料理でアピールしてもらいます!!」


 今週のテーマは料理だ。

 ここで大事になってくるのは、完璧に料理を作らなくても良いという所。

 料理の過程でどれだけ可愛さや魅力を伝えられるかだ。


「それじゃあまずは羽川羽衣ちゃんからのクッキング……スタート!!」


 こうして”決め推し”第2週目の料理対決が火蓋を切った……

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