Vol.11 料理対決・前半戦


 羽川羽衣の料理が始まる。


「さて、羽衣ちゃん。何を作ってくれるのかな?」

「今日はオムライスを作りまーす!」

「おー、アイドルらしいですねー!」


 オムライスを作るという羽川羽衣、まずはケチャップライスから手をつける。

 ご飯を炊くために米を研ぎだすが、なんとその手には洗剤が……


「おっと!その洗剤をどうするんだー!?」

「え?お米を洗うんです♪」

「おー……なんという事でしょう……」


 羽川羽衣は手にとった洗剤でお米を”洗う”。

 これには番組のコメント欄も荒れる。


「うわぁ……まじかよ……」

「食べ物を無駄にするな」

「洗うってマジかよwww」

「食いたくねぇー」


 しかしそんな事もつゆ知らず、羽川羽衣は料理を進めていく。

 洗剤で綺麗に洗った米を炊いている間に、鶏肉を切る。

 

「ニワトリさん、ごめんなさい!!」


 そう言っておどろおどろしく鶏肉を切る。

 しかしこれにもコメント欄は荒れる。


「なーにがニワトリさんだよ」

「私怖いアピールかよwww」

「他で普通に触ってただろ」

「え、マジで?」


 羽川羽衣の化けの皮が少しずつ剥がれ始めた時、ご飯が炊ける。

 蓋を開けると湯気と共に洗剤の匂いが立ちのぼる。

 その匂いを顔に浴び、少し苦い顔をするが構わずに料理を進める。

 次は鶏肉を炒めてその間に取り掛かるのは野菜を切る作業。

 玉ねぎを切る時に、わざとらしくオーバーにリアクションを取ったりとみているのも苦しくなる状態だ。

 同じ事の繰り返しに、次第にスタジオの空気もうんざりしてる事を肌で感じたのだろうか。所々で細かいミスが目立ち始める。

 卵を割るときに殻が少し入ってしまったり、鶏肉を焦がしてしまったり徐々にイライラがピークに近づいてくる。

 そして卵を焼く作業に入りフライパンに流し入れたのだが、火の強さを間違えたのかぽろぽろの炒り卵になってしまった。

 ここで羽川羽衣が本性を見せてしまう。


「チッ……んだよ……」

「……え、羽衣ちゃん……?」


 思わず舌打ちをしてしまう羽川羽衣と、それを見て少し引いてしまった司会者。


「そ、そんなおっちょこちょいの羽衣ちゃんもみんな可愛いよねー?」

「……はぁ」


 必死のフォローを入れるもこれは羽川羽衣の耳には入らなかったようだ。

 しかし、司会者どうにか進行をこなす。


「さ、さあ!美味しそうなオムライスが出来ましたねー!見ている皆さんも食べたいと思いますが残念!私がいただきます!!」


 盛り上げつつもオムライスを食べた顔はどこか引きつっている。きっと美味しくないのだろう。

 少し苦笑いをしながら次のアイドルを紹介する。


「次はヘドロドロップスだー!!さあ、何を作ってくれるのかな?」

「えーと、私達はハンバーグを」

「え、餃子じゃないの?」

「違うってさっき決めたじゃん」

「私聞いてなんだけど」

「まあまあ、ここはジャンケンで決めようね、ね?」


 明らかに悪い空気を引きずっている2人を少しなだめるように運勝負を促す。

 結果、ハンバーグとなった。


「それでは料理スタート!!」


 ハンバーグとはわざわざ2人で分担するほどの料理ではない。

 簡単に言ってしまえば、玉ねぎを切って繋ぎを入れて挽肉をこねて、焼くだけだ。

 こんな作業で2人もいたら邪魔でしかない。


「ちょっとあれとってあれ」

「あれってなによ」

「ハンバーグ作ってるんだからあれしかないじゃん」

「えー、これ?」

「違うってば!なんでわかんないの!」

「何でってわかるわけないじゃん」


 ヘドロドロップスは仲が良く、お互いに好き同士かも?というような百合営業をしているアイドルユニットだが、こうもギスギスしていてはこの売り方も通じなくなるだろう。


「もう私1人で作るからドロップは寝てなよ」

「あっそ」

「ちょっとちょっと!さすがに寝るのはあれだからなんか最近あった事聴きたいなー?」


 今日の司会者は大立ち回りだ。

 まるでボーイがキャパ嬢の機嫌をとるかのように優しく扱う。


「最近あったこと……同じ本を2冊買っちゃいました!」

「……つまんな」

「あ、あるあるだよねー!そういう経験あるある!」


 いったい2人に何があったのか?

 そんな事は何も分からない司会者だが、強引に進める。


「さて、そろそろ完成かな?」

「完成しましたー!!」

「おー!美味しそうですねー、いただきます!」


 味も見た目もいたって普通のハンバーグ。

 普通の人が作るには充分だが、タレントに近いヘドロドロップスが作るハンバーグとしては不正解だ。

 ここで作るべきハンバーグはめちゃくちゃ上手いか、めちゃくちゃ下手かの二択でしかない。


「うん、美味しい!見てるみなさんも食べたいですかー?」

「じゃあドロップが食べさせてあげまーす!!」

「じゃあじゃあ私も!!」


 司会者のお世辞の感想にさも満足な表情のヘドロドロップスは、ウキウキでアイドルを演じる滑稽な姿が目立つ。

 コメント欄はどうなっているのだろうか?


「つまんねー」

「お前らネタ枠だろうが」

「なんか仲悪そう……」

「必死にアイドルしてるよw」


 やはり視聴者には全て丸見えのようだ。


 最低、最悪な2組にかき乱された料理対決。

 いよいよ後半戦に突入……

 残るは紅莉栖と恋、果たしてどちらが良いアピールをしてこの週を制するのだろうか……

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