Vol.9 ダンスレッスン
紅莉栖と餅川は事務所内にあるレッスン場へと着いた。
「おぉ、外から見た大きさに比べれば十分ではないか」
「そう?これでも小さい方だよ」
そこは10畳ほどの部屋で壁の一面が鏡張りになっている。
しかし、隣にあるジュエリープロダクションはこの倍もあるレッスン場が5つほどあり、さらにレコーディングスタジオなどもあるという。
だが、そんな事もつゆ知らず紅莉栖は健気に演舞の型を鏡の前でチェックしている。
「餅川!見てみろこの型を!素晴らしいだろ〜」
「紅莉栖ちゃん?言いにくいんだけど、ここで練習するのはそういうのじゃないんだよ……」
「ん!?この演舞が意味を持たないと言うのか!?」
「んー……特技としてはアリだと思うけどアイドルとしてはちょっとね……」
「では何を特訓したら良いのだ?」
「ダンスさ!」
アイドルとして必要なのは歌唱力、表現力、そして運。
このうちの表現力をダンスで補うという。
「だんす……とな?それは舞とは違うのか?」
「え、えーと……それは……」
餅川はダンスと舞の違い聞かれて困ってしまった。
大きな括りで考えれば舞もダンスも同じだろう。
「そ、そう!アイドルはダンスって決まってるんだよ!」
「そうなのか……ならば仕方ない」
餅川は適当な理由をつけて紅莉栖を丸め込める事が、思いの外上手くいって少しホッとする。
「先生呼んでくるからちょっと待ってて」
餅川はそう言ってレッスン場を出た。
しばらく待つと餅川はある人物と共に帰ってきた。
「紅莉栖ちゃん、紹介するよ。ダンスの先生の黒川さん」
「はーい、紅莉栖ちゃ〜ん!あなたの噂は聞いてるわよ〜」
紅莉栖の前に現れたのは黒川というダンスの先生だ。
この先生、少し中性的ではあるがれっきとした男性だ。
「ぜひ私をトップアイドルにして頂きたい故、早くそのダンスとやらをご教授願いたい」
「聞いてた通りね、餅川くん」
「少し扱いづらいとは思いますが、よろしくお願いします」
そう言って餅川は他の仕事がある為、席を外した。
「じゃあ紅莉栖ちゃん、早速ダンスといきたいところだけどあなたの実力を見たいわ。今から曲をかけるから思いのままに踊ってみせて」
「なに!?いきなり実技とな!?」
黒川はパソコンから適当なBGMを見つけ流す。
紅莉栖はダンスとは何なのか分からないが、音楽が鳴るならば踊った方が良いという事は分かった。
きっちり型にはめて舞う演舞とは対照的に、型にはまらないダンスは紅莉栖には厳しかった。
とりあえず演舞の型を使い何とか乗り切ろうとするが、見るに耐えかねた黒川はBGMを止めた。
「紅莉栖ちゃん全然ダメ」
「そ、そうか……」
「いい?ダンスっていうのは自分を表現する方法のひとつなの。考える前に動いてみて」
「考える前に動く……か」
どうしても紅莉栖はどう踊るか考えて踊ってしまっている。
あくまでもこれは表現力を高める為のレッスンだ。
完璧にダンスをこなす事が目的ではない。
「それじゃあもう一度行くわよ」
黒川は再びBGMを鳴らす。
紅莉栖は今の思いの丈をダンスにぶつけた。
「はっ!はっ!おおおお!私は!トップアイドルに!なる!!」
「はいはいストーップ」
「やはり……ダメか?」
「ダンスは0点」
黒川は紅莉栖に厳しい評価を下し、それを受けた紅莉栖はショックを受けた。
「でも、あなたの気持ちは100点よ!」
「……本当か!?」
「ええ、あなたのその気持ちがあればもっともっと成長出来るわ」
「ならばもう少し基礎的な事から教えて欲しい!」
「良いわよ良いわよ〜!久しぶりにやる気出てきちゃったわ〜」
こうして本格的に紅莉栖のダンスレッスンは始まる。
向上心と物覚えは良い紅莉栖はみるみる成長していく。ヘタクソから普通の人ぐらいまではこの日のうちに成長出来た。
レッスンも3時間ほど過ぎた辺りで餅川が戻ってきた。
「紅莉栖ちゃんどうかなー?」
「おう、餅川か!ダンスとは楽しいものだな!」
「餅川くん、この娘最初はどうなるかと思ったけど意外とやるわよ」
「へぇ〜、やるじゃん紅莉栖ちゃん!黒川さんに褒めて貰えるなんて滅多にない事だぞ」
この黒川という先生は、佐堂プロダクションに古くから関わっている先生だ。
佐堂プロの鬼の風神黒川と呼ばれており、鬼の雷神白崎と共に対鬼(ツイオニ)としてとても恐れられていた。
そんな黒川に気に入られるとは珍しい事であり、これには餅川も喜んだ。
「はい、今日はレッスン終わり!」
「ふぅ〜……これで半分ぐらいは習得出来たか……」
「何言ってるのよ紅莉栖ちゃん、まだまだ百の内のひとつぐらいよ」
「な、なにぃ!?それは本当か!?」
「まあ百は言い過ぎたけど10%ぐらいかしらね」
「くそぉ、まだまだ道のりは長いの……」
紅莉栖の初ダンスレッスンは順調?に終わり、ネット番組に向けて着々と準備が進められていく……
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