Vol.4 宣戦布告?
見事に1週目の勝利を収めた紅莉栖を他所に、メラメラと闘志を燃やしている人がいた。
それは橅木恋だ。
本番が終わり紅莉栖の元へとやってきた。
「あなた、最初だっていうのに凄いじゃない」
「ん?私のことか?」
「貴方しかいないでしょ!」
「そうか、それはすまない」
紅莉栖は謎の高揚感と共に、自分が今置かれている状況に未だ納得できていなかった。
恋はあまりにも温度差のある紅莉栖に、少し嫌味ったらしい態度をとる。
「あなた、アイドルとはどういうものか分かってるわけ?」
「あいどる……?」
「そうよ、それは私みたいな人を指すの」
「じゃあ他の者たちはアイドルではないのか?」
そう言った紅莉栖の先には、司会者とイチャイチャしてる羽川羽衣や、マネージャーを通してお互いの悪口を言うヘドロドロップスがいた。
「あんなのはアイドルじゃないの。いい?今週だけだからね、良い思いするのは」
「そうか、それは残念だ。しかし勝負の世界ともなれば私は本気で戦うぞ」
「そういうの良いから、あなた負けてね」
何か微妙に話の論点がずれている気がするが、この重い空気を察したのかマネージャーの餅川が急いで駆け寄ってきた。
「紅莉栖ちゃん!そろそろ帰るから送ってくよ」
「そうか、それはかたじけない」
「じゃ、そういうことで〜」
橅木恋の別れも程々にし、餅川は紅莉栖がどういう会話をしていたのか聞いてみたくなった。
「さっき恋ちゃんとどういう話ししてたの?」
「わざと負けて欲しいと言っていたな」
「えぇ……噂には聞いてたけど本当だったんだ」
「そんな事より私はどこへ運ばれているのだ……」
「あー、そうそう。寮が空いてたからそこに住んでもらうことになったんだよ」
「なに!?領だと?こやつらここまで勢力を拡大していたとは……」
紅莉栖は自分が今までいた世界とは別の世界にいることを理解出来ていないが故に、会話に矛盾が生じる。
食い違いのまま紅莉栖は車へと乗せられ寮へと運ばれる。
「着いたよ紅莉栖ちゃん」
「これが領だと……?」
「ここの304だから」
紅莉栖の目の前には5階建てのマンションが建っていた。入り口はオートロックでセキュリティは万全、部屋は築浅の1Rで少し狭いが1人なら十分だろう。
しかし、紅莉栖はなぜか怒っていた、
「(なるほどな、私はこの牢獄に入れられるというわけか)」
「さあ入って入って」
玄関を開けたその光景に紅莉栖は目を丸くした。
「な、なんだこの部屋は……」
牢獄にぶち込まれると想像していた紅莉栖はその部屋の綺麗さに驚いた。
そして、目にした事のない家電にさらに驚く。
「水道も通ってるし、電気も……ちゃんと通ってるね」
「な、なんだこれは?」
「えー、冷蔵庫だよ。天然だな紅莉栖ちゃんは」
「れいぞうこ?じゃ、じゃあこれは何だ?」
「それはテレビでしょ」
「て、てれび……?」
「あ、そうだ。今川口桃子出てるんだ!ちょっとリモコン借りるね!」
そう言ってリモコンを拝借した餅川は、テレビをつける。するとテレビには歌番組が流れていた。
その番組で歌を歌っている女性、それが餅川が言っていた川口桃子だ。川口桃子はこの日本で1番人気のアイドル……いや、トップアイドルだ。ひとたびその姿を見ればその可愛さに圧倒され、歌を歌えばその心地よさにうっとりしてしまう。
それに、トップにいるからと決して思いあがる様な所もなく、まさに完璧なアイドルだ。
「こ、これがアイドルというものか……」
「そうだよ、紅莉栖ちゃんの目指す場所はここだからね」
「何と可愛い女性なのだ……」
紅莉栖はテレビに映る川口桃子に思わず見入ってしまった。こんなに可愛い女性がいるのかと、そしてアイドルとはこういうものなのだと今ハッキリと分かったようだ。
川口桃子の出番は終わった、それは夢の様な時間だった。
「じゃあ紅莉栖ちゃん、そろそろ帰るね。何かあったらこれで連絡して」
「これは何だ?」
「スマホだよ、緊張して疲れちゃった?」
「そうだな……今日は色々ありすぎたな」
「また色々決まったら連絡するから、じゃあねー」
餅川は帰ってしまった。
部屋に1人残された紅莉栖はまだ川口桃子の事を考えていた。自分がいた世界とは明らかに違う今の世界。
しかし、そんな事も忘れさせてくれるその存在に心を奪われていた。
きっとこれは夢だ……だとするならばもう少しこの夢を楽しんでみよう、そう思ったのだ。
それにしても沢山のことが起こりすぎた紅莉栖は疲れていた。
けれども、用意されていたベッドに腰を掛けるとそれはそれはテンションが上がる。
「何だこの寝床は!?物凄いフカフカではないかっ!!」
辺りを見渡し人がいない事を確認した紅莉栖は、ベッドの上を跳ねて、跳ねて、跳ねて……
意外と乙女なところが多い最強女戦士は、そのまま疲れて寝てしまった。
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