Vol.3 前代未聞
「さぁ、今週も始まりましたー!”決めろ!推しアイドル!”略して”決め推し!”先月の熱き戦いを勝ち抜いて来たのはこの3組だ!!」
陽気な司会者が番組の挨拶を済ませ、先月の勝ち組を紹介していく。紅莉栖はスタジオ横で淡々と進んでいくその様に目を奪われていた。
「まずは先月第3位の羽川羽衣(ハネカワ ウイ)ちゃん!!」
「皆さんのお陰で残れました!ありがとウイング♪」
「出たー!ありがとウイング!!今回も頑張ってねー!!続いては第2位のヘドロドロップスの2人だ!」
「ドロップとー!」「ヘドロでー?」
「「ペドロドロップスです!」」
「貴方のハートに!」「ヘドロドキュン!」
「今回も見事に決まりましたー!果たして1位になる事は出来るのか!?そして前回1位に輝いたのはもちろんー?」
司会者もランキングが上がるにつれて、より一層熱を帯びていく。そしていよいよ先月1位の無敗の女王が登場する。
「無敗の女王、橅木恋(カブラギ レン)ちゃんだー!!」
「みんなー!!先月も応援ありがとうー!!今月もいーっぱい頑張るから……恋から離れちゃやだよ?」
「これは全国の恋ちゃんファンもメロメロだー!!」
橅木恋は番組初登場から5ヶ月連続で1位をキープし続けているが、毎回5割には満たず無敗の女王というキャッチコピーがついてしまっている。今回は何としてもテレビ出演権をゲットしたいようだ。
そして最後に登場する事になったのは……
「さあ!いよいよ最後の登場は今月の挑戦者だー!」
紅莉栖はマネージャーの餅川に無理やりステージ裏に連れられた。何が何だかよく分かっていない紅莉栖は抵抗をする。
「お、おい!何をするんだ貴様!」
「出番だからここでスタンバイしてて」
「ちょっと待つんだ!」
混乱してるうちにスタジオではどんどん話が進む。
紅莉栖の目の前は眩しいライトで真っ白になった。
「うぉ!?なんだこれはっ!?」
「おー!可愛いですねー!早速自己紹介をしてもらいましょー!」
「じ、自己紹介?私はマーダーク……ん?」
紅莉栖の向かい、カメラの裏にはマネージャーがスケッチブックを持って立っており、そして何やら必死に紅莉栖にアピールしている。
「(もっと可愛く!)」
「可愛くだと!?私はマーダークリス……が、頑張ります?」
「おっと、緊張してるのかな?けどこういう所がみんなの応援にも繋がるかもしれません!」
「(OK!OK!)」
前田紅莉栖は可愛さとは無縁の世界にいた。そんな彼女が突然可愛くなどと言われてもぎこちなくなるのも仕方がない。
いよいよ揃った4組のアイドル達、もう既に戦いは始まっている。その証拠に番組のコメント欄は少し荒れだした。
「なんか凄いコスプレwww」
「挑戦者の子めっちゃ可愛くね?」
「これが……恋か?」
「俺は決めた、今月はこの子に命かける」
今まで圧倒的王者が君臨していたこの番組は、いわばぬるま湯に浸かってのほほんとした番組だった。
挑戦者はどうせ勝てない、負けなきゃいい。そんな程度の気持ちにまで落ち込んでいた。王者は王者で、この小さい村で満足してしまっているのだ。
そこに現れた一筋の光。今少し、歪みが生じた。
「それでは今週のテーマは特技!皆さんには特技を使ってアピールしてもらいます!」
まずは先月3位の羽川羽衣の出番だ。
彼女はモノマネを披露する。これが何とも似ていない。
「それじゃあ猫ちゃんの真似しまーす♪にゃおにゃおー」
「んー、似てない!けどそこが可愛い!」
司会者はこのアイドルと付き合ってるんじゃないかというぐらいノリが良い。
この流れに続くのは先月2位のヘドロドロップスだ。彼女達は二人羽織を披露する……が、言ってしまえばやってる事はタレントに近いだろう。アイドルのかけらもない。
「じゃあヘドロが前ね?」
「えー、やだやだー」
「じゃあ熱々おでん食べまーす」
「ちょ、、右右!ちがーう!もうちょい下……そうそう……あっづ!!」
「ごめーん!」
スタッフの笑いも愛想笑いが響き地獄の様な状況だが、きっとネットならこのぐらいが丁度いいのかもしれない。
何よりもこのヘドロドロップスが強いところは2人だという事だ。
2人分の票が入るため比較的安定して順位を維持することができている。そしていよいよ王者のお出ましだ。
「さて、皆さんお待ちかねの恋ちゃんは何を披露してくれるのかなー?」
「恋はー、何しよっかなー?んー……そうだ!マシュマロを早く食べれますっ!」
「おー、じゃあ早速披露してもらおうかな?」
「いただきまーす!もぐもぐっ!もぐもぐっ!」
地獄が3連続も続くとそれがあたかも、これでいいんだと錯覚してしまう。
それに恋は普通に食べてるだけにしか見えないが、これが刺さる人も多いようだ。それは順位が示している。
しかし、番組のコメント欄は徐々に現実が見えて来る。
「またこれかよー」
「もう飽きたわ」
「恋ちゃん好きだけど他のもみたいなー」
「恋ちゃんを貶すのは僕が許さないぞ!」
マンネリといったところか?徐々に飽きがきているのが如実に伝わる。
この流れ幸か不幸か、いよいよ紅莉栖の出番だ。
流れに乗ってしまえば1位の座も難しくはないが、紅莉栖は一体何の特技を披露するのだろうか?
「さあお待たせしました!挑戦者の紅莉栖ちゃんは何の特技を披露してくれるんですか?」
「特技か…………演武だな」
「え、演武……?」
「そうだ、少し場所を開けて欲しい」
「あぁ、すいません」
「では行くぞ……はっ!!」
紅莉栖はこの場の空気を一変させる。と言っても、それは別の意味でだ。本気度は高くそれはそれは凄い演武だった。
これには番組のコメント欄はこれには大盛り上がり。
「何だこれすげぇwww」
「これが”本物”ってやつか……」
「その為のコスプレだったのか!」
「真剣な顔も可愛い〜」
華麗な演武が終わりスタジオは謎の拍手で包まれた。
ある意味で、一番このコーナーに趣旨に合ったものである。
思わず見惚れていた司会者は慌てて進行に戻った。
「それでは今日の……投票開始〜!!」
視聴者が投票を開始する。紅莉栖以外のアイドル達は面食らったような顔をしていたが、その中で王者は余裕の表情を見せる。あくまでも可愛いのは自分だと思っているからだ。
受付時間の5分が過ぎ、いよいよ発表の時間……
「終了〜!さあ、結果を発表するぜ〜!」
息を飲むこの状況。
しかし紅莉栖はあまりよく分かっていない。マネージャーからもカンペで指示が飛ぶ。
「(祈って祈って!)」
「(ん?祈る?)」
紅莉栖は跪き天に祈る。周りは少しドン引きしたがお構い無しに結果が発表された。
「1位は2248票獲得した……前田紅莉栖ちゃんだー!」
なんと紅莉栖は1位になってしまった。
まさかと、他のアイドル達は更に面食らった。
しかし精神集中していた紅莉栖はこの大事態に気付いていない。
「おめでとう、紅莉栖ちゃん!!」
「……ん?何がだ?」
「1位だよ!しかも初登場で最多得点!!」
「1位?私がか?」
訳も分からない紅莉栖はマネージャーを見る。そのマネージャーは大喜びでカンペを向ける。
「(喜んで!!)」
「ん?この勝利、私にはありがたき幸せ!!」
この結果は前代未聞である。何故なら過去最多得点を記録してしまったからだ。
このままいけば紅莉栖はテレビ出演権を獲得出来るが、これに納得していないのが1人……
それは橅木恋だった……彼女の反撃がここから始まる。
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