Vol.2 ネット番組
「お、おい!これはなんだ!!」
「ほらほら、早く車に乗って」
マーダークリスは車を知らない。
だが、前田紅莉栖ならば車を知らなければならない。
謎の鉄の塊に乗せられた前田紅莉栖は、高速で過ぎゆく景色に目を奪われながらもその速さを実感する事はない。
車の中に乗っていれば速さを感じる事はあまりないが、そうではない。オーク2人に挟まれあまり景色が見えないからだ。
しばらく走ると、ある小さなビルの前に着いた。
「さあ、降りて紅莉栖ちゃん」
「くっ……ここが私の死場所か」
小太り3人に連れられて入った先は小さなスタジオだった。
スタジオと言っても、少し大きめの会議室に防音設備を付け足したようなものだ。
中ではスタッフと思しき数人がわちゃわちゃと準備をしている。そのわちゃわちゃしている中で唯一1人だけ、その様子を眺めている男がいた。その男の元へ小太りのうちの1人が興奮気味に話しかけた。
「新川さん!逸材見つけましたよ!!」
「なにぃ?お前いつもそう言ってるだろ?」
新川と呼ばれる男はネット番組「決めろ!推しアイドル!〜ネット出張版〜」と言う番組のプロデューサーだ。
先ほど前田紅莉栖が受けたオーディションは、この番組の挑戦者を決めるものだった。
しかし、最近はどの挑戦者も王者に勝てずに潰えていく。
その現状に少しイライラしている。
「今回ばかりは大当たりですよ!!」
「もう俺は騙されないからな!麦山!!」
そしてイライラをぶつけられているのが、小太り3人組の1人、麦山だ。彼はこの番組のディレクターでしばらくオーディションを任されていた。だが、幾度となく見つけてくるのはダメな娘ばかり……
麦山のセンスが無いのか、はたまた可愛い娘がオーディションに来ていないのかは定かではないが今回ばっかりは自信満々だ。
ここで小太り3人組の他の2人を紹介しておこう。
1人は餅山、彼は芸能事務所”佐堂プロダクション”のマネージャーだ。もう1人は米原、彼はその社長だ。
そして、これから前田紅莉栖が出演するこの番組も説明しておこう。
毎週末放送されるこの番組では、3組のアイドルと1組の挑戦者が視聴者投票で戦う。
これを1ヶ月行い、優勝且つ全体の5割の票を集めた場合にテレビ版への挑戦権が与えられる。
しかし、未だ優勝者は出れどテレビ版への挑戦権を獲得をする者は現れていない。
「ほら、紅莉栖ちゃん挨拶して」
「よ、よろしく頼む」
「はいはい、どうせ今回も……」
この時新川は紅莉栖が眩い光に包まれて凝視できなかった。
「うぉっ!!眩しいっっ!!」
「どうですかこの輝き!?」
「こんな輝きを放つ女性がいるなんてっ……!!」
まるで後光が差している様に見えている紅莉栖。
ここで番組の準備をしているスタッフの怒号が飛ぶ。
「おい!ここの照明どうなってんだ!!」
「はい!すいません!気をつけます!!」
「気をつけますじゃねぇんだよ!どうなってんのか聞いてんだよ!」
「すいません!!違うとこ置いてました!!」
「しっかりしろボケェ!!」
紅莉栖の後ろに置いてあった照明がどけられる。
どうやら後光ではなかったようだ。
「って照明があっただけじゃねぇか!」
「それでも輝いてるでしょ!」
「ん〜……確かにな……」
新川は思った。これは確かに上物だと。
今はまだ荒削りも荒削り。
ただの原石だが、これは相当な逸材だと。
「よし!お前らさっさと終わらせろ!本番始まるぞ!!」
新川はここが勝負だと踏んだようだ。
いつもよりも語気が強い。
それとは対照的に尻込みしているのは紅莉栖だった。
周りの照明やキビキビ動くスタッフにビビっている紅莉栖。
普段の強く気高さからは想像も出来ない小声で餅川に話しかけた。
「お、おいここは何なんだ」
「紅莉栖ちゃん、ここはスタジオだよ」
「スタ……ジオ?」
「そう、ここでネット番組を配信しているんだ」
「ネット……はいしん……?」
「まあ最初は誰でも不安だよね、でも安心して!僕がカンペを出すからその通り読んでくれれば大丈夫だから!」
「私は殺される事も許されないのか……」
紅莉栖は絶望した。
戦士にとって死ぬ事よりも相手に生かされている方が恥だ。
これこそまさに生き地獄。かつては一国をも陥れる強さを持った女戦士が、このような場所で労働させられる事になるとは……と考えていた。
労働というのはあながち間違ってはいないが、果たして紅莉栖に耐えられるのだろうか?
この血湧き肉躍る戦場での戦いに。
「よーし、本番始めるぞ!3、2、1、スタート!!」
今、戦いの火蓋が切って落とされた。
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