最強女戦士がトップアイドル目指すって変ですか?

鈴本 龍之介

Vol.1 私はマーダークリスだ


 オークに人の心は無いのだろうか?

 不意打ちで狙った女を捕まえて、張りつけにしている。

 不敵な笑みを浮かべ、口の中を涎で満たし足跡のように跡がつくほど垂らしながら興奮するオークはその女にある薬を飲ませた。


「くっ……な、なにを飲ませたっ!!」

「ひっひっひ……言わなくてもわかる体になるんだよぉ〜?」


 どこか森の奥にある謎の実と、どこに居るかわからない謎の生き物の臓物を、オークの中でしか伝わっていない方法で精製されたその薬は次第に女の身体を熱くする……


「くそっ……わ、私はこんな奴らに……!!」

「そのうち好きでも欲しくなっちゃうよぉ〜?」

「早く、早く私を殺してくれ!!」

「充分に楽しんでから……ね?」

「やめろおおおおおおおおおお!!!」


 その時強い光に包まれた……


 この世にはあり得ないなんてことはない。

 宇宙人だっていないとは言い切れない。

 地底人だっているかもしれない。

 タイムマシンだって出来るかもしれないし、どこでもドアだって出来るかもしれない。

 何なら、壁だって擦り抜ける可能性があるとまで言う。

 この薬も、飲めばどこかにワープする可能性だってある。

 いや、もうすでに起こっているんだ……




「大丈夫ですかー?」

「……んっ、ここは……はっ!……き、貴様は何者だ!?」

「次なんで移動してください」

「何者だと聞いているんだ!!」

「あ、俺ただの係なんでそういうのはまだ大丈夫っすよ」

「係……だと?」

「ほら、行きますよ」


 女戦士はこの世界に飛ばされた時に力を失ってしまった。

 軽い炎を出せるぐらいに力はあったが、そんな戦士もここでは無力。今時男子に腕を引っ張られ軽々と連れて行かれてしまう。


「じゃあここで待っててください、お姉さんは15番なんで呼ばれたら入ってください」

「(そうか、私は捕まり牢屋にぶち込まれるんだ……その為の番号か、なら仕方ない潔く受け入れよう)」


 全てを諦め受け入れる事を決めた女戦士は廊下に並べられた椅子に座った。


「ありがとうございましたー♪」


 近い扉から女性が出てくる。

 が、扉を境にして雰囲気がガラリと変わった。

 まるで菩薩像から般若の面に変わるかのように。

 般若になったその女性は、戦士の前でこんな暴言を吐いていった。


「えー!?おばさんがコスプレー??ちょっとは歳考えたらー?」


 おばさんという言葉気軽に使ってはいけない、ましてや同性同士で使うとなるとそれはもはや煽りでしかない。

 しかし、相手が女戦士ならどうだろうか?

 女戦士は俯いたまま動かない。

 やはり、女戦士もおばさんと言われたら傷ついてしまうようだ……


 っと思ったが、よく見てみよう。

 これは…………瞑想だ。

 自らの状況を受け入れ、己がした失態を反省しつつ心を落ち着かせていたのだ。


「ちょっとおばさん!この世界一プリティな私のこと無視するの?」


 しかし、反応はない。

 女戦士の意識はもう深い深い沼の底に落ち、”15番”という言葉しか通さないようになってしまった。


「あ、そうか!私が可愛すぎるからショックを受けてるのね!!元気出してね”おばさん”……じゃーねー♪」


 般若は菩薩像を見せずにそのまま帰って行った。

 再び1人残された女戦士……

 だが、その時はすぐに訪れた……


「15番の方、お入りください!」

「はいっ!!」


 待ってましたと言わんばかりに立ち上がり元気よく返事をし、部屋の中へと入っていく。

 なぜ牢屋に入れられるという予想のもと、こんなに元気に返事が出来るのかは定かではない。

 部屋に入ると小太りな人が3人、長机に向かい腰掛けている。

 その前には椅子がひとつ。


「それでは名前を言ってからお座りください」


 1人が席に着くように促した……が、女戦士の表情が変わった。


「そう易々と捕らえられると思うなよオーク共!!」


 小太りな男性3人をオークだと勘違いしているようだ。

 しかし、よく見て欲しい。

 小太りな男性3人はしっかりと服を着ている。

 ボロボロの布切れを纏ってはいないし、不敵な笑みを浮かべてはいない。涎をダラダラ流しているわけでもないのに、なぜ勘違いするのか?

 深い瞑想が招いた悲劇!!

 しかし、小太り3人組は特段驚く様子はなかった。


「おぉ、迫力あるねぇ」

「キャラが強いってのはひとつの魅力だねぇ」

「うんうん、掴みはOK……と」


 評価は上々、しかしまだまだ2組はすれ違っている。

 だが、なぜか両者ともに白熱していく。


「あのような恥辱を……生きていられると思うなよ!!」


 戦士としてのプライドをズタズタにされてしまうと、もう手がつけられない。

 ましてや目の前には小太りオークが3匹、負けるはずがない。


「ほぅ、中々だ」

「下ネタへと対応力もありそうだねぇ」

「うんうん、下ネタOK……と」


 なぜかタレント性としての評価も少し上がってしまったが、女戦士には関係ない。

 一歩大きく踏み出して、小太り3人組の前へと加速する。

渾身の一振りをお見舞いしようとしたその時……


「「「か、可愛い……!!!」」」


 その瞬間、ピタッと動きが止まってしまった……


「い、今なんと言った……」


 女戦士は思わず聞き返してしまった……


「君可愛いよ〜」

「いやぁ、こりゃ逸材だ」

「もうこの娘で決まりでしょ」


 その場にうずくまり、顔を隠す女戦士。

 隠れた顔の奥は真っ赤に紅潮し、思考は停止してしまっていた。


「(わ、私が可愛いだと……!?気が狂ったのかこのオーク共は??)」


 オークは人を見下している。

 故に、オークに捕らえられる人間は物として扱われる事が多い。そんな話を聞いていたからか、少しのツンデレで戦意喪失してしまった。


「ふん……戦士としての自分を一瞬忘れてしまった私の負けだ、好きにしろ」


 大人しくオークに捕らえられる事を決意した女戦士。

 これは戦士として最後のプライドだった。


「いやいや!君の勝ちだ!」

「さっそくデビューの日程の調整をしなければ……」

「今日のネット番組で初お披露目はどうだ?」


 しっくりきていない女戦士は事が進んでいく様を、ただ見ているだけしかできなかった。


「君、名前は?」

「わ、私か?私は沢山の人を殺してきた、故に人からは”マーダークリス”と呼ばれている」

「前田紅莉栖ちゃん?可愛い名前だねぇ」

「ちゃ、ちゃん付などで呼ばれる歳ではない!」

「よし、じゃあ早速スタジオに向かうよ」

「人の話を聞けー!!」


 全てがキャラで通されてしまったマーダークリスこと前田紅莉栖……

 小太り3人に車に乗せられ、とあるスタジオに連れて行かれてしまうのだった……

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