1-15
青年の起き抜けに一歩引く。俺に襲い掛かる青年は拍子抜けに空に空振りした。そのままたたらを踏んだ。
間抜けな姿から目を外さず、ヘルメットの下まで引き、蹴り飛ばす。
体勢を整えようと必死な青年は対応できず、一直線に青年の腹へ打ち込まれた。
「うっ……」
青年は短い悲鳴を上げ、倒れた。口から唾液を垂らしたまま荒く息を吐いている。
あれでは暫く動けないだろう。青年の顔が真っ赤になっているのを確認し、背後へ体を向ける。ライダースーツの男は体を起こそうとしているが肘を地面につけたまま動かない。これなら二人とも動けないだろう。あっけない終わりだった。自分の能力だけを過信した結果かもしれない。
安どのため息をつくと、背後から声が聞こえた。門の方から男性警官がこちらに向かって走っていた。転がる二人を見て顔を険しくした。
「そこで止まれ!」
俺に向って叫ぶ。もしかして勘違いしてるか?疑念はあるものの、真面目そうな警官に後を任せてもいいだろう。
だが、俺に向って叫んだわけじゃないらしい。
「ふざけるなよ!」
青年が立ち上がる。正気を捨てた顔で唾液を垂らしながらこちらに飛び掛かる。とっさに振り向くものの、青年は目前に居た。一歩引くものの、青年が手を伸ばす方が早い。咄嗟に下から蹴り上げるものの、足を掴まれた。
「今度こそ……!」
手が光り、電撃が走る。ただ、それは微弱なものだった。付け根が軽くしびれる程度だった。電気の向きを反対に向けたがそこまで強いものじゃない。人の体のような電気の通りやすいものに利くだけで、あまり電撃は強くないようだ。
片足で軽く青年を持ち上げ、ボールの要領で空に蹴り上げる。そして悲痛な表情に変わる青年を軸足を切り替え蹴り飛ばした。十数メートル向こうの警官の足元に転がる青年。そのまま警官に取り押さえられ、手錠をかけられナノマシンの機能抑制薬を打ち込まれた。青年はぐったりした様子で動く気配は今度こそなかった。
「流石に義足とは思わないか……」
一人ごちると青年の驚く顔がよぎった。
おかげで倒せたようなものだが、なんというか、存在を認知されていないようで傷つく。いや、知ってたら倒されてたかもしれないが。
平穏を取り戻したはずが段々落ち込んできた。人助けをしたはずなのになぜ隠し事を暴露された気分になってんだ。ただ手足が義肢で、ここ八年間の記憶がないだけなのに。ああでもそんなにいないのか……?
陰鬱に沈む俺の気分とは裏腹に、太陽はさんさんと地に這う人々を隈なく照らしていた。
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