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 公園の中入る、だが振り向くとバイクはまだ追ってきている。広い青芝の中には人が居なかった。交番は見えるが距離は二百メートルほどある。バイクの音に気付いてこっちに来るかもしれないが、その前にぼこぼこにされるのが落ちだろう。

 時々背後を見るものの、丘があり高低差のある地形でも平然と距離を縮めて来ていた。少女は顔を恐怖に染めていた。このままでは追い付かれるのも時間の問題だった。一方、先程の男は足が遅いのか様子を伺っているのか路地を歩いている。こちらへ距離を縮められ、仲間と距離を離す今が仕掛けるタイミングだった。

 平坦な中心広場に出ると同時に目元に意識を集中する。男の体は一般人の明るさであり、能力者ではない。体の下は電動バイクであり、モーターに電気が集中している。あいつはただのバイク乗りだ。そうとわかれば狙う場所は決まった。

 正門が見えたところで足を止め、少女を下ろす。足が震えているのか心配だったが、普通に立った。現状を把握できないのか

「歩けるか?」

「はい……」

「ならあそこの門へ走れ、右に行けばすぐに交番が見える」

「……でもあなたは」

「俺は大丈夫だ。さっさと倒せる」

「……わかりました」

 不承不承といった様子で走り出した。ここに居ても足手まといだと把握したのだろう。理解が早くて助かる。

 真っすぐに出口に向かう背中を確かめ、俺はバイクに向き合う。

 フルフェイスヘルメットに中肉中背の体格。ライダージャケットを着た男は身体的特徴を平均化していた。だが今は関係ない。警察の仕事だ。俺はこいつの足を止めればいい。

 左足を一歩引き、腕を上げ、構えを取る。バイクの男は頭を上げたが、方向転換はしない。俺の方に正面から突っ込む気らしい。唾を呑み、目視二十メートルの辺りを見る。ライン超えたら行動開始だ。頭の中で組み立て、能力で電気の線を見て、ただ待つ。

 男が頭を下げ、バイクのスピードを増す。加速度的に距離を縮め、ラインを超えた。

 俺は横に一歩ずれ、体を回しつつ前方に跳ねた。男が顔をはっと上げる。驚愕が見て取れた。流石に十メートルの距離を一歩で縮められたら驚くか。

 男の真横に至ると同時にバイクを回し蹴る。心臓部を蹴り飛ばすとバイクは横に倒れ、男が受け身を取りつつ芝生の上に投げ出される。バイクの方は滑り、回転し、止まった。電気の線が消えている。エラーか致命傷か、復帰には時間がかかりそうだった。

 男の方を見ると、ゆっくり立ち上がっていた。腰の鞄からナイフを取り出した。満身創痍かふらふらしていたが殺気だけは増している。右手のナイフを引き、雄叫びを上げて俺へ襲い掛かる。ナイフを使い慣れてない動きだった。だから突き出したナイフを持った腕を上に押すだけで簡単に逸れた。そして勢いをぶつけるように、左手で拳を作り、腹に一撃を加えた。

 ご、鈍いうめき声を上げて男は力を失った。そのまま右横に倒れ、ナイフを手から落とした。生きてる?腰を下ろしてヘルメットを取る。二十代ほどの男が顔を真っ赤にして苦痛に歯を食いしばっていた。生きてるな、良かった。場にそぐわず安堵で力が少し抜けた。ただ、人影が俺に重なった瞬間体が引き締まる。振り向くと先程の青年がナイフを両手で持ち、振り下げた。

「おああああ!」

 絶叫と共に下ろした。だから俺は腕に刺した。左腕の半ばに刺し、右手で手首を持ち支える。青年が狂気じみた表情を浮かべる、だが、すぐに困惑に変わる。そしてはっとした。

「義手か!」

 力を失った瞬間、俺は右手で青年の手首を掴み、足を蹴り自分の体を沈める。巴投げの要領でバランスを崩し俺の背後に倒れ込む。俺は立ち上がり、ナイフを遠くに投げ飛ばす。ナイフは数十メートル先の芝生の上に真っすぐ刺さった。

 青年はナイフと呻きを上げるバイク男を見て悲痛な顔になる。だがすぐに無表情に変わり、芝生を掴む手に光が集まる。電撃だ。先程よりも光が強く、威力を増している。俺を見、立ち上がる機会を伺いつつ能力を待っていた。義手と理解して威力を増した。近寄ったら食らわせるつもりだ。だから構えを取り、俺は考える。このまま警察を待つべきか。だがその前に電撃を食らわせて逃げる可能性が高い。ならどうする。答えが出ないまま数秒のにらみ合いが続く。目だけで辺りを見回す。芝生、壊れたバイク、ぜいぜいあえぐバイク男、ヘルメット、ナイフ。……決めた。方針が見えたと同時、青年が飛び起きた。


 

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