1-13

 猫が機械であると認識し、俺は何事もなかったように歩き出した。遅れて少女が追う。

「どうしました?」

「猫が動くかと」

 適当にはぐらかす。夏目の話からして辺りは付けているだろう。なら、下手に動けば邪魔になる。猫が居なくなって交番の付近になれば話そう。

 だが放っておかなかった。淡々と歩みを進めると、猫が近寄ってきた。猫は少女の足元に近寄り、足に擦り着く。

「うわっ、どうしたの?」

 少女は足を止めた。猫の扱いを困ったように足元を見つめている。何らかの意図があるに違いないと思い、俺は足元の猫を取り上げた。首元を持つとにゃーんとこちらを見つめて鳴いた。

「どうしたんですか!?」

「踏んだら危ない」

 そう言って少し歩き、路地の方に置いた。少女は不審な人を見る目つきだった。

「放っておいても良かったのに」

「でも危ないですよ」

「……そうですか?」

「……はい」

 じとっと睨まれた。今の俺は不審人物一歩手前だろう。だが説得するわけにも行かない。

「さっさと行きましょう」

 俺は歩き出す。このままでは勝手に行動しかねない。だから割り切ってさっさと歩き始めた。

 少女も不信な様子だが、俺の半歩後ろについてきた。すまない。内心謝罪して、無言で進む。目の前の道にはもう猫は居ない。このまま何も起きなければいいが。祈りはモーター音にかき消された。ると認識し、俺は何事もなかったように歩き出した。遅れて少女が追う。

「どうしました?」

「猫が動くかと」

 適当にはぐらかす。夏目の話からして辺りは付けているだろう。なら、下手に動けば邪魔になる。猫が居なくなって交番の付近になれば話そう。

 だが放っておかなかった。淡々と歩みを進めると、猫が近寄ってきた。猫は少女の足元に近寄り、足に擦り着く。

「うわっ、どうしたの?」

 少女は足を止めた。猫の扱いを困ったように足元を見つめている。何らかの意図があるに違いないと思い、俺は足元の猫を取り上げた。首元を持つとにゃーんとこちらを見つめて鳴いた。

「どうしたんですか!?」

「踏んだら危ない」

 そう言って少し歩き、路地の方に置いた。少女は不審な人を見る目つきだった。

「放っておいても良かったのに」

「でも危ないですよ」

「……そうですか?」

「……はい」

 じとっと睨まれた。今の俺は不審人物一歩手前だろう。だが説得するわけにも行かない。

「さっさと行きましょう」

 俺は歩き出す。このままでは勝手に行動しかねない。だから割り切ってさっさと歩き始めた。

 少女も不信な様子だが、俺の半歩後ろについてきた。すまない。内心謝罪して、無言で進む。目の前の道にはもう猫は居ない。このまま何も起きなければいいが。祈りはすぐにかき消された。

 交差点を曲がると、商店街の裏路地から男が現われた。十代後半あたりの青年だ。黒の短髪に赤のパーカー、ダメージジーンズと藍色のスニーカーを履いている。どこにでも居そうな青年は、突然俺たちの数メートル前で立ち止まる。こちらも立ち止まり、少女の前に腕を出し抑える。理解したのか強張った顔で少女は直立した。

 青年は何ともせず直立していた。一旦引くべきか。一歩引くと、青年は逃げ道をふさぐように言葉を投げかけた。

「あんた、猫、気づいてるだろ?」

「猫?さっきのあなたの飼い猫ですか?」

「違うだろ。猫の正体に気づいただろう」

「ただ持ち上げて横に寄せただけですよ。というよりも、猫に何かあるんですか?」

「あのですね、ひったくり警戒地域だからといって、警戒して、猫をどかす人はいますか?」

「踏んだら危ないじゃないですか」

「……わかった」

 大げさにため息をつく。話が通じないな、といった風に。顔を伏せて、体が光る。

「なら、忘れろ」

 青年は走り出した。横を見ると少女は驚愕で硬直していた。俺は少女の前に立ち、腰を落として左足を引き、構えを取った。

 相手が伸ばした右腕の手首を掴む。右手の方は妙に輝き、能力がここから発現すると理解した。左手も伸ばしたから左の手首をつかみ、固まる。殺気だった目で男はこちらを見据えている。無表情なのが余裕を感じさせられる。能力かわからないが、他の手がある可能性が感じられた。

「えっ……えっ?」

 少女が現実を理解したのか、困惑した声が震えていた。これなら走れる。俺は期待して叫んだ。

「逃げろ!」

「え?」

「そこのコンビニに、入れ!」

 交差点手前には黄色い看板のコンビニがあった。交番へはまだ距離がある。戻る危険はあったが、ここに居るよりはましだ。

 青年の目が見開かれる。すると遠くからバイクの音がした。こちらに近づいてくる。おそらくひったくりのバイクだ。

「すまんな。逃げたところで仲間が襲う予定だ」

「仲間を捨てるのか」

「仲間じゃない。金を払った部下だ」

「逮捕されればお前も」

「それは無い。顔を合わせたこともない、そしてお前もすぐに忘れる」

 手が光る。同時に肩にしびれが走った。やばい、瞬時に男を横に投げて離す。目の前が少し揺らぐ。同時に『危険 生体に影響のある電気です!プログラムに影響があります!すぐに離れてください!』と出た。理解した。こいつが例の犯人だ。おそらくあの能力で電気を盗んだりしていたのだろう。電気ショックで記憶を曖昧にさせるだけでなく視界記録や、音声記録をクラッシュさせたのだろう。

 理解し、一歩引く。倒れた青年は不思議そうに手を見つめていた。

「……結構強い電撃だったけど……?」

 困惑しているようでこちらから注意を外している。

 今だ。背後に頭を回すと、少女は泣きそうな顔で震えていた。どうしたらいいのかわからないようだ。背後に逃げられない。なら。

「えっ!?」

 俺はいわゆるお姫様抱っこをした。荷物を腹の上に置かせて前へ走り出す。少女は驚いたまま固まっている。巻き込んでしまったのか元々カモとして狙ったのかわからない。もう逃げられないなら、最後まで面倒見る以外なかった。正直ひ弱な少女が無傷でいられるとは思えなかった。

「逃がすか!」

 青年が叫ぶ。振り向くと、腰から金属棒を取り出し伸ばす。一メートルほどの長さの棒を持って必死に走る。だが俺よりもずっと遅い。何かに気づいたのか青年は眉をひそめた。届かないと思い、俺は正面を向いて走り出す。だが、すぐにバイクの音が大きくなる。少女が顔を上げて後ろを確認する。

「バイクです!」

「丁度いい!」

 悲鳴のような少女の声と反して、青年の嬉しそうな声だった。自転車くらいの速さの俺も、流石にバイクよりは遅かった。

 どうすればいい。背中が冷える。緊張が増すにつれて、青芝の公園が近づいていた。

 




 

 



 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る