1-6

 驚愕と同時に外を見る。油断するのはいけない。だが、外を見たところで変化は無かった。安心して、チャーハンのレンゲを皿に置いて、メールを開く。

 月城からのメールには鳩島への大型船の来航についてのニュースだった。鳩島には企業都市的な側面があり、工場や港がある。下の方には情報が書かれていた。

『どうも一週間前から検査の方が止まっているらしい

理由は発表されてないが、調べたところによると下ろした荷物の一部に違法薬物が含まれているようだ

体が健康であると誤認させる薬らしい

付近で売買が行われているようだが、真偽の確認のためには能力者が力を使うのが一番手っ取り早いようだ

ナノマシンの励起状態が一番わかりやすいのが能力使用時だからだ

SNSでは隠語で流通している

本土の方でも流通していることを考えると、そのあたりで質の確認をしてから本土に運搬されている

推測だが、そこの路地で取引が行われている可能性がある

今日とは言わない、今すぐ引け

下手すれば目の前の海に沈められる可能性がある

警察や特捜の方も巡回を強めているとの噂もあり、お前が動く必要がない』

 以上だった。本人の真面目な性格もあり、警告のような文章だ。

 眉間に皺を寄せる。月城は仕事の上で嘘をついたことは無い。中身も非現実的なものもなかった。健康誤認薬物も社会問題の一つだ。

 ナノマシンによって体調管理される現代においても、麻薬や電子ドラッグなど異常な快楽を求める人々は残っている。当然そんな薬物を体に取り入れれば、強制的に警察に通報されて病院送りである。しかし悪知恵を働かせる人々はどこにでもいる。その一つが健康誤認薬物だ。ナノマシンの周囲に特殊な物質で取り囲み、どんな体調である一定の数値に保つというものだ。勿論一時的なものである。麻薬と同時に継続的に摂取させることで、さらなる利益を得る。というのが最近の社会問題になっている。

 困ったことに結構需要はあるようで、大企業の幹部の大半が摂取していたという話題もある。健康であることに価値がある社会において、健康でない人間は自己管理不足であるとみなされて社会的な価値が下がる一側面がある。嬉しいことも悲しいこともあり、大事故大事件に遭えば気分が落ちるのはどうしようもない。波があるのは当然、しかし信頼に関わる、二律背反に苦しんで摂取する一般人も少なくない。

 そんな薬物がこの街に蔓延していてもおかしくない。確かに俺が関係すべきでない。特別捜査隊へのつてはあるが、金衛さんを守ってくれるものではない。此処からは警察の仕事だ。放っておいて変な事件に関わっても困るから今日の夜に帰ることに決めた。金枝さんにもこのことを軽く伝えて、場合によっては器物破損の方で警察の方に相談するように勧めよう。

 これからの行動を決め、レンゲを持ち上げて食事に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る