1-4

 裏口の横に腿の半分ほどの高さの室外機があった。ほの暗く表通りよりも汚れの残る裏路地にしては妙に綺麗だった。一週間の間に何度も作業したからだろう。

 前回修理した時は、フィルターのごみの掃除を一時間ほどしたら直った。単に掃除が足りなかったという結論で終わったのだが、月一の掃除で十分なものがまた壊れるのはそれ以外に問題点がある筈だ。

 室外機の正面に立ち、外装の負傷を確認する。一週間前と同じようにへこみやこじ開けたような跡はない。

「メーカーの人はどういう修理をしました?」

「掃除して、それで終わった」

「それだけですか?」

「ああ。あっちの方も顔を見合わせてた」

 となると、

「何か破壊音とかありませんでした?」

 一応確認のため問いかける。数秒の沈黙の後、

「全く無い。本当困るわ」

 不満げに顔を歪ませて答えた。予想通りのものだった。あれば警察を呼んでいるだろう。

 工具を使って分解し、蓋を取る。配線や基盤など中身一連を見る。切れたものや破損は無い。見た目には異常はない。試しに中でエアコンの電気を入れてもらう。動かない。しゃがみ込み室外機をじっと見る。どこも故障は無さそうに見えるが、動く気配はない。

 金衛さんが裏口を半開きに体を出す。

「つけっぱなしにしておいた方がいい?」

「そうですね、これから流れを見るので、周囲の警戒お願いします」

「はいよ」

 頷き、すっと息を吸い、室外機に意識を集中させる。

「いきます」

 頭の中のスイッチを押すように目を見開く。すると、室外機全体をめぐる白い線が見えた。電気の流れだ。それがファンの上の配線で切れている。そこに右手で軽く触れ、右から左に押す。すると、白い塊の欠片が少しづつ流れ始める。同時にファンが断続的に動き始める。よし。心持ちうまくいったと高揚感が増す。何度か撫でているうちに塊は小さくなっていき、ついに白い線がファンに繋がる。同時に勢いよくファンが周り始めた。ふうと息をついて、右手を離す。金衛さんの方を見ると、嬉しさと困惑の混じった複雑な表情をしていた。

「直ったか?」

「ええ、はい」

「ありがとう。ってことは、能力者の仕業か」

「おそらくは」

 結論ははぐらかしたが内心確信があった。外傷のない電流の停滞。物理的にありえない現象である。つまり、超能力の仕業だった。

 金衛さんは安堵した表情を浮かべる。

「桜庭呼んでよかった。今日一日監視頼むよ、探偵」

 副業もどきで呼ばれた。信頼によるものだろうが、少し恥ずかしさがあった。

「頑張ります」

 早口で会話を切り上げる。これからやらなければならないことを頭の中で羅列する。多少の情報収集は必要あるかもしれない。こちらは動けないため、家主兼情報屋と連絡を取る必要がある。

 早く家主が起きることを祈りつつ、俺は立ち上がった。

 

 

 

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