6.転性聖女の薬草採取

「ハルママ、こっちだよ。早く早く」

「かーさま、早く」


 あれからベルとも大分打ち解けた気がする。

 私の呼称はハルママで定着してしまった様だが、

まぁ、本人が楽しそうだし良いだろう。


 焼き肉パーティーの翌朝、私達は森の入り口に向かいつつ

ベルの目的であった薬草取りをしていた。

 町まで半日程度なら、昼前に森を出発すれば日没までに到着するだろう。

 既に私だけバテているのが懸念ですけど。


 目的の収穫物は3種類。回復ポーションの材料のヤスラ草、風邪薬の材料のコル草、

殺鼠剤の材料のマイテタケだ。

 町で買い取って貰って収入にしているらしい。

 見たところどれも食べた覚えがあるな。こんな名前なんですね。

 マイテタケに関しては味は良かったがとても苦しんだ記憶があるけど、

殺鼠剤の原料だったのか。

 

 一緒に採取していて気づいたが、素手で採取しているせいか

ベルの手は草の葉で切れしまっていて少し痛々しい。

 ナイフの一本でも在れば多少は改善するだろうか。

 ベルには色々教えて貰ったお礼も兼ねて、

水のスキルを付与した水晶ナイフをプレゼントしてもいいかな。

 今なら腰に着けるホルダーもセットだ。


「ベルちゃん、このナイフを差し上げるので使ってください。」

「わ、綺麗!本当に貰っていいの?大切にするね!」


 水晶ナイフ天に掲げて、光を反射する様を目を輝かせながら見ている。

 やっぱり女の子は宝石や綺麗なものが好きですよね。

 でも手を切らないように気をつけてね。

 後は、アイテムスキルについてのレクチャーだ。


「切っ先に力を注ぐ感じで念じたりしてみて下さい。できます?」


 よくよく考えるとマナの制御を分からない人に教えるのは

どうすれば良いのだろうか。

 搾り出した言葉は酷く漠然とした表現になってしまった。

 やっぱり数値化や明文化できないものの説明は苦手だ。

 生前に上司からお前の説明は分かりにくいと言われた嫌な記憶が蘇る。


 私が過去のトラウマに顔をしかめる横で、

しばらくベルは唸っていたが、ようやくコツを掴めたのか、

剣先から水がチョロチョロ出始めた。


「わー、凄い凄い!」


 大喜びではしゃいでいる。

 水道の代わりにでも使ってくれれば生活水準が上がるだろう。

 それに、綺麗な水は衛生面でも大事ですしね。


 さて、皆の鞄が一杯になったし、そろそろ切り上げて町に向かいましょうか。

 そう思いアキのリュックを見てみると、その多くがマイテタケで埋まっている。

 アキ、マイテタケ多過ぎない?


「かーさまが前に美味しいって食べてたからキノコいっぱい取った」

「え、マイテタケ食べたんですか!?よく無事でしたね」


 ベルは驚きのあまり、目を白黒させている。

 アキは褒めてくれと言わんばかりに此方を見つめてくるが……

 アキ、食べた後に私が乙女が見せてはいけない醜態を

晒していたことを忘れてませんか?

 まあ、町で買い取って貰えるならいいか。


 それからベルの案内のもと森を進んでいると、

段々と明るくなったと言うべきか、木の密度が薄くなってきた気がする。

 地面に目をやると、踏み固められ草木がほぼ無い道が出来ている。

 草だけでなく木まで退けられている事から、

獣道でなく人の手が入っていることがわかる。


「ハルママ、もう出口だよ!」


 ベルとアキが森の出口に向かって駆けて行った。

 私も久々の森の中以外の景色に期待が膨らむ。

 このワクワクを原動力に私も駆け出そうとするが、

即行で前のめりに倒れてしまった。

 ぐぬぬ、やっぱ無理!リュック一杯の荷物背負って走るとか、軍隊ですか。

 私は、か弱い乙女ですから!

 はやる気持ちを抑えつつ一歩一歩前に進み、漸く出口だ。


「わっ、眩しい。」


 長い間、森の薄暗い中で過ごしていた私は、

遮るもののない日の光に目がくらんでしまった。

 目がなれてくるとそこには、雄大に広がる平野があった。

 森のなかでは感じることの出来なかった心地よい風が吹いている。


「かーさま」


 ベルとアキが待っていたとばかりに此方に走ってくる。

 この二人はどこにこんな体力があるのだろうか。


「あっちがエイスの町だよ。」


 ベルの指し示す方を見ると、遠くに壁、恐らく石垣だろうそれが並んでおり、

その周囲に家が点在しているのが見える。

 石垣の中にメインの町、石垣の周囲に場所を取る農地が広がっているのだろう。

 魔物との争いが多い地域なだけあって石垣が立派だ。


 エイスの町に関しては、世間知らずの私が知る事は少ない。

 戦場で負傷者を治療しているときに出身者が結構いて、

戦場からそんなに離れていないから、自分の家族を守るために来たとか

言ってる人が多かったと言うくらいしか知らない。

 だが、町ならば森の中よりは住み心地は良いに違いない。


日が暮れる前に到着したいですし、

最後に一踏ん張り、町まであと半日頑張りましょうか。

私は旅の仲間である二人に声を掛ける。


「二人とも、少しだけ私の荷物も持って下さい……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る