2.転性聖女の養子縁組
「かーさま、認知して」
「ににににに、認知!?え?え?」
この少女、微笑みながら急に凄い事を言い出した。
母親に自身を認知しろと言う子供とか聞いた事が無い。
前世の倫理観や性別に引きずられているのか、肝が冷えるような感覚に陥る。
ドラマでしか見た事が無かったが、覚えの無い子供ができると
こんな気持ちになるのだろうか。
「今なら、私の宝物もおまけにつける。お得」
少女は何処から取り出したのか綺麗な赤い宝石を掲げた。
いやいや、お得って何ですか。
余計に怪しさが増してますよ。
この少女は本当に一体何者なのだろうか。
少し眠そうな目つきの赤い瞳、
肩にかかるくらいの綺麗なプラチナブロンドの髪、
中々に可愛らしい顔をしている。
瞳や髪色が違うからそこまでではないが、
血縁と言われればそう思えるくらいには私に似ている……かも知れない。
しげしげと少女の顔を観察していると不意に眼が合う。
「かーさまとお揃い」
此方の視線に気が付いた少女はふふっと笑みを浮かべて
嬉しそうに片手で髪の毛を弄りはじめた。
ん?お揃い?何処にお揃いの要素があるというのだろうか。
流石に眼と鼻と口の数とかでは無いだろうけれど。
そう言えば、眼を覚ましてから外傷の確認をしていなかったな。
もしかしたら先の戦闘で自慢の髪がバッサリと切れて
お揃いのヘアスタイルにでもなっているのだろうか。
丁度、自分が流されてきた川があることだし、
傷の確認がてらお揃いの部分があるという自分の姿を見ようと川の水面を覗き込む。
「え…なんですか、これ…」
そこには見慣れた顔が映っていた。
自分で言うのも何ですが、なかなか可愛い顔である。
孤児院の子供たちにもカワイイって褒められたことあるし!
犬猫の話をしている時に引き合いに出されていただのが気にはなるが。
とにかく、傷も見当たらない。そこは素直に喜ばしい。
しかし、そこまでは良かったのだが、
ブロンドの髪は色が抜けてしまったのかプラチナブロンドに、
碧色をしていた瞳は赤く染まっていた。
一体何が起こったているのだろうか。
心当たりと言えば呪いの立ち込める血の海に落ちたことしかない。
見るからにヤバイ感じでしたしね。アレ。
もてる限りの治癒・浄化魔法を自分に使ってみるも変化なし。
私の手に余る強力な呪いに侵されているのではと心配になる。
でも、前世の自分の感性が混ざった所為か、この見た目の方が好みかも…
ポジティブに考えると害が出るまでは問題ないかな。
あ、そうでした、前世の記憶のことを忘れていました。
ここでついでに整理しておこう。
私は前世では四季 春彦という男性だったようだ。
運よく望んだ研究職に就けた、オタク趣味を持つ平凡な男だ。
気の合うお嫁さんも見つかって
そこそこ恵まれた人生を送っていたと思う。
婚姻届を出す直前の旅行で死ぬまでは…
最後に残る記憶は、一面の火の海。
ビル火災に巻き込まれたのだ。
倒れてきた棚から彼女を庇い潰された自分。
嫌がる彼女を説得して送り出した後、
前世の自分は炎に包まれて……
「おえええええええええええええええ」
自身が炎に包まれて体が焼けていく感覚を
鮮明に思い出してしまった。
思考が脱線した所為でとんでもない地雷を踏んでしまった。
直ぐに違うことを考えるのは私の悪い癖だな。
今はこの少女のことに集中しよう。
「かーさま、大丈夫?」
心配そうに少女がトコトコと近づいてきて私の横にしゃがみこむ。
水面に並んで映る顔は、造りから色まで似た仲の良い姉妹の様だった。
「か、髪色も目の色もお揃いですね」
「ねー」
頬を染めながら相槌を打ってくるこの子は、
恐らく人間では無いと私は考えている。
色々と気が動転していて気が付けなかったが、
こんな人の生活圏から離れた密林で迷子など普通は在りえない。
それに、泣き喚きもせず、落ち着き過ぎている。
何より、"変質してしまった私の姿"に瓜二つであることが
たとえ血縁だとしてもおかしいのだ。
前世の知識で言う所の吸血鬼やドッペルゲンガーに類する
人の姿を取る魔物と考えた方がまだ自然では無いだろうか。
まぁ、色々とおかしな点を挙げたが、私はこの子を受け入れてもいいと思っている。
前世を思い出す事でその倫理観に引きずられているのもあるが、
自分をこんなにも慕っている子を無碍には出来まい。
こんなに似ているからか、何かしらの自分との繋がりも感じている。
多少危険かも知れないが、私を害する気があるなら、既に私は死んでいるはずだ。
私はそこ等の小動物にも狩られるくらいひ弱な自信がありますからね!
あと、色々あったせいで思考から抜けていたけれど、
この子、裸なのである。
繰り返す、裸なのである!
自分に瓜二つなな少女が裸で歩き回っているのを
放って置くのは非常にバツが悪い。
何か自分も恥ずかしいし、色々と噂になってしまう。
私がそういう趣味だと勘違いされそうだ。
今自分が着ている教会支給の白いロングワンピースタイプのシスター服。
血の海に落ちた所為で血染めの褐色をしているこれ一着しか持ち合わせがない。
袖やスカート部分を魔法を利用して裁断して布を作り、
この子用の丈の短いタンクトップとパレオの様な服に設える。
今はこんな物しか用意できないが我慢してもらおう。
針でなく魔法で糸を動かすので勝手は少し違うが、
孤児院での仕事がこんな所で生きるとは思わなかった。
「取り合えず、これから家族と言う事でよろしくお願いしますね」
そう言って、丁度服を身に着け終わった少女に手を差し出す。
親子関係は別として、他人とも思えないこの子を家族として迎えよう。
「よろしく、かーさま。おまけも渡す」
フフフと微笑みながら宝石を無理やり渡してきた。
本人がこうしたいなら素直に受け取っておこう。
無くさない様に大切にしなくては。
「私の名前はハル、あなたは?」
気を取り直して名前を聞こう。コミュニケーションの基本ですよね。
「かーさま、お名前つけて」
いきなりコミュニケーションで躓いてしまった……
この子は6歳くらいに見えるが、こんな年齢になるまで
名前が無いなんてあるのだろうか。
いや、変な勘ぐりは止めよう。
受け入れると決めたのだ。
「では、私の名前にちなんで"アキ"にしましょうか。」
「ありがとう、かーさま。センスある。よくわからないけど」
アキは眠そうな眼を少しだけキリッとさせながら小さくガッツポーズをしている。
気に入ってくれた様で良かった。
色んな意味で不思議な子ではあるが、とってもいい子だ。
さて、この子を受け入れたからには出来る限りの事をしないと。
まずは生き延びるためにも人里を目指そう。
年端もいかない少女二人、無事に着けると良いのだけれど。
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