転性聖女の子育て旅路~無駄に強い自称娘との異世界ライフ~

ねこありすと

1.転性聖女の波乱の幕開け

「かーさま、会いたかった」


 周囲を見渡しても目に入るのは生い茂る木々と6歳程度の少女一人のみ。

 川のせせらぎと鳥の泣き声しか聞こえない。

 一体全体このシチュエーションは何なのだろうか。

 周囲に人どころか動物も見当たらないことから察するに、

どうやらこの少女の言う"かーさま"とは私のことらしい。


 私の様な11歳の若輩には少々理解し難い状況だ。

 そもそもこの年齢で子供とか色々と無理が無いだろうか……

 半ば現実逃避気味に、少しでも心当たりが無いかと

空を見上げつつ自分の過去について思考を巡らせた。



 私の名前はハル、11歳。

 ストレートに伸びたブロンドのロングヘア、

ちょっとつり眼の碧い瞳を持つ、そこそこ可愛い少女である。

 もちろん独身ですとも。

 生まれてこの方、お付き合いすらしたこと御座いません。


 私は、物心ついた時には孤児院で生活していた。

 魔物の跋扈するこの世界、親を失う子供も珍しくなく、

私もその一人だったのだろう。

 貧乏孤児院の生活はなかなか大変で、

毎日、細工や裁縫といった内職で孤児院の家計を支える日々。

 それでも仲間たちとの生活は充実していたと思う。


 だけど、11才の時に転機が訪れた。

 呪いに端を発する流行病を患って死の淵をさまよった時に

ある才能(タレント)に目覚めたのだ。


 タレントとは、訓練や生まれつきなど様々な切っ掛けで

得られる技能の種の様なもので、

努力して技術を伸ばすための起点ともいえるものだ。


 目覚めた<フルコントロール>という全てのマナを

知覚・生成・制御可能なタレント。

 この世界は物質だけでなく呪いといった形のない物まで全てマナで出来ており、

マナをコントロールする事で魔法が行使されている

と言えばそのポテンシャルは伝わるだろうか。


 マナが制御出来るようになったとは言え、

マナの識別も出来ず、何をどう制御すれば良いのかも分からない状況ではあったが、

人間、必死になれば驚くほどの力が発揮されるとはよく言ったもので

文字通り死に物狂いでマナを制御し治癒、浄化を使う事で

町の医者が匙を投げた流行病を癒し、一命を取り留めることが出来た。

 そしてその力を使って町を救う事となったのだ。


 人の噂は速いもので、治癒だけでなく呪いの解呪まで

出来る子供が現れたという話は直ぐに広まり教会の耳に届いた様だ。

 直ぐに聖女として迎え入れたいということで、

教会本部に招かれる運びとなった。


 と思っていたら、連れて来られたのは魔物が押し寄せ、血が香る戦場。

どうしてこうなった。


 どうやら、同時期に貴族出身の可愛い聖女様が見出され、

孤児出身の頬がこけた聖女はお呼びじゃなくなったらしい。

 でも、折角なので教会が国防に貢献しているという

アピールに使おうと送り込まれたらしい。


 戦場での生活は酷いもので、人間不信に陥るには十分なものだった。

 回復薬を節約したい傭兵や、物資を横流ししていた指揮官に

無料の回復手段として酷使される日々。

 労働基準法や児童福祉法とか何とか無いんですか、この世界には!!


 そんな生活の中、戦闘は泥沼化し1年を超え、

余りに多くの人と魔物の血が流れたためか、

呪いの瘴気が立ち込める血の海まで出来上がった。

 そこは人は10分も耐えられない過酷な環境だけれども、

その先に魔物の親玉が居るとかで、

呪いの中和役として決死隊に組み込まれる始末。

 睡眠薬で眠らされている間に連行されるとは……戦場は地獄だぜ。


 そうこうして親玉に辛勝するも足を滑らせて血の海にダイブ。

 折角親玉を倒したんだし、他の人はなんとか無事に帰還してて欲しいなぁ……

 呪いに飲み込まれない様に浄化魔法を最大出力で放出しながら

何とか血の海から脱出しようともがいていたけど、息が続かず意識を消失。

 何処かで血の海と川が合流したのか密林の川辺で意識を取り戻して今に至る。


 本当にろくな事が無い人生だな。

 でも死ななくて良かった。

 また苦しんで死ぬのは御免こうむりたい。

 ん?また?あれ、私って、男?

 なんか、変な記憶が混ざっていませんか!?

 なにこれなにこれ!?


 閑話休題――


 どうやら、前世は別の世界で男性だったみたいですねー……

 現実逃避してたら、現状が更によく分からない事に……


 「かーさま、大丈夫?お疲れ?」


 心配そうに小首を傾げる少女の声で意識が現実に呼び戻される。

 取り合えず言える事は、この少女に全く心当たりが無いと言う事。


 これからどうしよう。

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