第四十七話 ElectroMagnetic Pulse Attack(電磁パルス攻撃)

 ──1958年八月一日の深夜──

 太平洋の環礁の一つ、ジョンストン島……日が変わるかと言う時刻、星以外照らすはずもない太平洋の小さな環礁は、漆黒の闇に包まれていた。そんな深き夜の帳は、はるか上空からもたらされる閃光により、一瞬で払われた。一体何が起きたのか。


 この日、環礁の上空ではアメリカ合衆国による高高度核爆発の実験が行われていた。時は冷戦真っ只中、ソ連とアメリカの核開発競争……今となっては、ただの昔話だ。この日も、そんな二大国間で行われる数多の核実験の一つに過ぎないはずだった。


 だが、この実験は後世にも伝わる事件の原因となった。この核実験でもたらされた光は、遥か千五百キロ先にあるハワイで大規模な停電を引き起こしたからだ。

 この停電の原因は、高高度核爆発で生じたガンマ線などの放射線が、成層圏で大量のコンプトン効果を発生させ、それに伴って発生した強力な電磁パルスが地上に降り注いだからだ。

 EMP(電磁パルス)攻撃……この攻撃は強力な電磁波である電磁パルスが、電子機器に影響を与え、そして破壊する攻撃手法だ。昨今では、北朝鮮がEMP攻撃用核弾頭の開発を秘密裏に手掛けている、とニュースになったことで、知っている人もいるだろう。


 アジエが先ほど使った黒い球体は電磁パルス爆弾だ。文明を破壊しかねない危険な兵器を何故アリスが持っていたのかは謎だ。大方、ブラックマーケット辺りで購入して隠し持っていたのだろう。バレたら大事だな。


 強力な電磁パルスは、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の武器を破壊し、脳内チップにも影響を与えている。苦しそうに頭を押さえて脂汗を流している。俺もそれなりにダメージを負っているが、骨の髄まで惑星ネクロポリスの科学兵器で覆った“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“程ではない。


 アジエを見ると、膝をついて、ガクリと地面に伏した。擬似脳内チップも電磁パルスでダメージを負ったのだから、無理もない。


 これからの戦いで、彼女を巻き込まないためにも、俺は倒れ伏すアジエを抱き抱え、物陰に寝かせる。アジエは息も絶え絶えで口を開く。


「ゴンスケ……」

「アジエ、よくやった。後は俺に任せろ」

「うん……ゴンスケ、お姉ちゃんの……皆んなの仇を取って……」


 俺は無言で親指を立てる。それを見て、アジエは安心した笑みを浮かべ、眠りについた。 


 振り返って、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“を見る。ヤツは荒い息を吐きながら、憎々しげに口を開く。


「原住民にEMP爆弾なんざ使わせやがって……何が真の冒険者リアルマン動画だ」

「何言ってるんだ、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“。俺たちはだ。アレをどう使おうが、この星の人の勝手だ」

「屁理屈をねやがって!」

「ま、そうだろうな。俺もアリスが同じことを言った時、そう思ったよ。確かに、このままだと、詭弁に過ぎないな。だが……」


 俺は指をバキバキと鳴らす。


「これで文句はないよなぁ!」


 俺は強い言葉で“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“を威嚇する。それと同時に、持っていた打撃・斬撃武器ミーリーウェポンを投げ捨てた。


 地面に落ちた打撃・斬撃武器ミーリーウェポンは“ガシャン“と金属音を鳴らした。


 突然のことに“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“は目を白黒させて落ちた打撃・斬撃武器ミーリーウェポンを見ている。面食らったヤツに向けて、俺はこう言い放つ。


「何もかも失ったテメェ相手に、打撃・斬撃武器ミーリーウェポンとはいえども、俺だけ武器を使ったんじゃあ、卑怯だよなぁ!? だが、これでお前と状況は同じだ」

「ぐ……ふざけるなよ! それくらいでテメェと同等だと!? どの口が言ってやがる、地球人が!」


 “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の言い分はもっともだ。正直なところ、アジエにEMP爆弾を使わせる案は、動画ポリシー的にかなりグレーだ。いや、どちらかと言うと、少しアウト側に足を踏み入れてる。


 クォンタムブレーカーVer12 Update5や量子ビットアーマーも中々に怪しかったが、効果と見た目のどちらかが打撃・斬撃武器ミーリーウェポン っぽく見えた。

 だからこそ、想像を絶する威力を持ちながら、神の武器として現地の人に授けることで、英雄譚リアルプレイ動画、間接的に真の冒険者リアルマン動画に成り得た。


 しかし、EMP兵器は科学技術的すぎる。


 電磁パルスで電子機器を破壊する武器は、現地の人が持つ打撃・斬撃武器ミーリーウェポン程度では、効果が無い。もっとも、武器には無影響だが、彼らの擬似脳内チップに多少のダメージは与えるかもしれない。しかし、その効果の程もを名乗る程の効果は無い。


 畢竟ひっきょう、惑星ダンジョンではそんな道具は真の冒険者リアルマンでもなく、英雄譚リアルロールプレイにもポリシー的には当てめるのは難しい。そんな武器を使えば、卑怯のそしりを受けても仕方がない。

 

 だが、この俺が打撃・斬撃武器ミーリーウェポンを投げ捨てたことで、状況は変わる。


 俺は今、真の冒険者リアルマン動画のポリシーである打撃・斬撃武器ミーリーウェポンを捨てたのだ。同じく超科学兵器を使えなくなった“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“と、になったのだ。


 これだけ聞くと、単なる詭弁だ。


 だが、詭弁だろうが何だろうが、見た目ばかりは対等だ。アリス曰く、惑星ネクロポリスの住人は細かいことより、即物的な感情で動画を評価するとのことだ。その中でも、真剣ガチンコファイトを好む。本質的な違いと意味を理解せずに、だ。


 俺たちは、それに乗っかって、自己を正当化しているのだ。

 

 ……惑星ネクロポリスの実態を述べたつもりだが、地球でも同じようなものだな。


 思わぬ相似点を見出し、俺は口の端を上げてニヤつく。その顔を見て、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“は口惜くちおしそうに睨め付ける。俺が勝ち誇ったかのように見えたのだろう。


 俺は指をボキボキ鳴らして言い放つ。


「地球でも惑星ネクロポリスでもなぁ〜、建前でもキレイゴトを言うヤツが好かれるんだ。それが本質的に正しいかどうかなんて関係なくなぁ! 喰らえ!」


 俺は左足を前に出し、そのまま軸にして素早く右下段蹴りを繰り出す。

 “バシィ“と乾いた音が“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の左腿から響いた。


「グォ……ぉ、地球人……この威力……」

「ああ、“東洋蹴拳道ムエタイ“スキルツリーの“ローキック“レベル6だ」

「レ…レベル6だと? トップMovieCherレベルじゃねぇか!」

「ご明察。残念ながら、“東洋蹴拳道ムエタイ“はローキック以外はスキル無しだ。しかし……」


 俺は左手と左足を少し前に出し、正中線を守る構えを取る。


「“西洋拳闘ボクシング“スキルツリーの“ワンツーパンチ“は同じくレベル6だ」

「な、なに!?」

「ワン」


 俺のジャブが“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の顎を捉える。“パシッ“と乾いた音がヤツの顎から響く。


「ツー!」

「ゴハッ!」


 “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“が俺の右ストレートを鼻っ柱に喰らい、膝を突く。鼻血を垂らしながら、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“は憎々しげに口を開いた。


「テメェ……地球人……。どマイナースキルの格闘術ファイティングスキル、さらに、特定ジャンルだけをそこまで極めるとは……」

「ああ、死ぬほど苦労したぜぇ……まさしく、死ぬほどな! なんてったって、泣け無しの一千万クレジットを全部スキルとレベルアップにぶち込んだからよ!」


 俺はボキボキを指を鳴らす。


「おかげ様で、借金を返す当ても無くなり、鎮痛施術や鎮痛アンプルも受けずにスキル習得やレベルアップするハメになっちまったけどな!」

「コ、コイツ……、痛み止めせずにスキル習得とレベルアップするなんざ……正気じゃねぇ」


 “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“が瞠目どうもくして俺を見据える。


「褒め言葉として受け取るぜ。今の俺は目を閉じると悪魔が脳内でザルそばをすする音が鳴り響くハメになっちまったけどな!」


 俺は拳を突き出して“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“を威嚇する。ヤツは俺のイカれっぷりに驚きを隠せないのか、少しばかり後ずさった。ヤツの額には脂汗が浮かんでいる。最悪な状況を理解したのだろう。


「ここから先は、底辺MovieCherとトップMovieCherとの真剣勝負リアルファイトだ。テメェをボコって、どっちの動画が優れているか……」


 ドスンと地面を強く踏み、力こぶを作って言い放つ。


「勝負だ! “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“!!」

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