第四十五話 信仰の真相
「かかったわね! “
アリスが勢いよく空間から飛び出し、“
「アリス、残念だね。空間操作で君の蹴りは」「ベクトルを変えさせてもらった。しかし、卑怯だね」
「アリスさ〜ん、卑怯ですよ〜」
「なーに言ってるのよ。馬鹿正直に反応する奴がバカなのよ。昔からよく言うでしょ? “正直者がバカを見る“って」
「ふん、またお得意の挑発か?」
「挑発? 何言ってるのよ。地球の
やれやれ、アリスのセリフは卑怯な悪役が使うセリフだ。相変わらず地球の
俺とクックロビンはアリスに加勢するため、次々と空間から飛び出した。俺たちの姿を見た“
「性懲りもなく、また来やがったな、テメェら。せっかくクソ森さん主催のファンの集いで動画映えすると思ったのによ〜」
「“
俺の一言に“
「地球人よ〜。お前らの動画ポリシーは
「だからなんだ! そんなの動画のポリシーの話だろ!?」
「分かってねぇなぁ。お前たちは
“
「俺は最新の兵器が使えるんだぜ? これがどう言う意味か分かるか?」
「うっ、そう言うことか」
「どう足掻いても、俺たちには勝てねぇってことだ! さあ、消し飛べ、地球人!」
“
「世界の理に掛けて……
迫り来る空間の歪みを強力な重力が更に空間を捻じ曲げる。俺たちを中心に光をも呑み込む特異点が産まれ、“
ふとアリスの表情を見ると、苦痛に顔を歪ませていた。余程この魔法は負担が大きいのだと分かる。何もできない自分に歯噛みする。
永遠とも感じられる時間の中、闇が徐々に晴れ、視界がクリアになる。そこには俺たちを中心に半径10メーター近い空間が抉り取られ、ポッカリと穴が空いていた。
「はぁ……はぁ…、どうよ…… “
「負け惜しみか、アリス? お前、もうボロボロじゃないか」
「く……」
アリスが悔しそうな表情を浮かべる。対して、“
「だがよぉ……? お前は油断がならねぇ。策も無しに俺の前にくるなんざ、あり得ねぇ……だからよ、こうするぜ?」
“
「なんだい?」「“
「お呼びですかぁ〜?」
「ああ。お前らでアリスの能力を封じて、どこかへ吹っ飛ばせ」
「えぇ〜? “
「ああ、そうだ。別に楽勝だろうが」
「ですよねぇ〜。“
「アリスさーん。また契約魔法で魔法を防がせてもらいますよ〜」
「その後は僕たちとまた別の惑星に行こう」「今度はもっと危険な所に飛ばしてあげる」
「ふ……ふふ…」
だが、それよりも早く、アリスは手にもった回復アンプルをドスリと首筋に打ち、シャキッと姿勢を正し、
(火吹き山の人々よ! 女神アーリスです。私たちは魔王“
突如として脳内にアリスの声がこだまする。対象を絞らず、火吹き山の全生命体にアリスの思念が一斉に伝わる。
その思いは言語を超え、感情を超え、ただ信仰を持つ者全てに働きかける。絶望の淵に打ち
この一瞬のためだけに、俺たちはハネスやその騎士団の人々に“女神アーリス“の布教をお願いした。
“女神アーリス“はこの火吹き山では知名度はほぼ無い。と言うより、一部の人を除き全く無い。そりゃそうだ。適当に作ったインチキ女神だからな。
そんな奴にいきなり“女神だ〜“って突然言われても、多くの人は疑問に思うだろう。
しかし、ハネスたちはインチキ女神のために、熱心な布教を各地で行った。彼らの想いと人々の明日への希望が、人々の中に“女神アーリス“の思いを萌芽させた。そして、アリスの
人々の切なる思いがアリスに届く。それは失った明日を取り戻す、未来への希望だ。
見た限りは何も分からない。だが、俺の脳内チップが妙なうねりを上げているのが分かる。
「ふ……ふふふふ……これはこれは……最ッ高ッにッ! 力が
“
「テメェ、アリス! この星の信仰を書き換えやがったな!?」
「ははははは! これよ、これ! “世界の理“システムの意思が、全て私に
───
──
─
「信仰を書き換えるって、なんでそんなことするんだ?」
「そりゃ、
「? なんでそれが信仰と関係あるんだよ」
「そりゃ、強力な魔法であの三人を“
「あん? 益々わからん」
俺は首を傾げる。一体全体、なんで信仰と魔法が関係あるんだ? それに書き換えるって、書き換えてどうするんだ?
俺の疑問にクックロビンが答えてくれた。フンワリとした雰囲気は俺の荒ぶりを抑えてくれる。
「ゴンスケくん。僕たちが使う“魔法“は本当の魔法じゃないのは分かるよね?」
「ああ、“超意識科学“……だったか? それがどうしたんだ?」
「正解さ。“超意識科学“は人の思いを物理現象に変換し、様々な事象を起こすのさ。分かるかい? “人の思い“、さ」
「思い、ねぇ……」
「そうさ。不思議だと思わないかい? ただの“人の思い“が現実世界に干渉するなんて」
言われてみれば、そうだな。そもそも、頭で念じてモノが動くワケがない、と地球にいた頃は思っていた。テレビに出てきた超能力者を見ても“嘘っぱち“としか思っていなかった。
しかし、現に自分が魔法を使ってみて、“人の思い“が現実に影響を与えることを身を持って知った。だが、地球にいた頃はできなかったのに、なんでココに来てから出来るようになったのか、さっぱり分からない。
俺の疑問を察したのか、クックロビンが話を続ける。
「魔法を行使するシステム……そう、“世界の理“システムは、人々の脳内チップを相互接続して“人の思い“を増幅しているのさ」
「……惑星ダンジョンの人たちの擬似脳内チップも同じ働きしているのか?」
「そういうこと。“世界の理“システムは数千、数万、数億の脳内チップが連結した超巨大なクラウド型グリッドシステムなのさ。人々がいる限り、思いが続く限り、魔法の力は絶えないのさ」
壮大な話だ。俺が想像していたシステムって言うと、デッカいコンピューターみたいなモノがあるのかと思っていた。でも、実態は小さなシステムの塊なのか。
俺やアジエ、ハネス、国王、街の人々……生きとし生ける者が“世界の理“システムを構築し、“人々の思い“を繋いでいるのだ。
これだけ聞いて、俺は分かり始めた。“信仰を書き換える“とは、どういう意味かと。
「信仰とは、人々の意識が神と呼ばれる形而上の存在に集中する思いの流れを作るのさ。だから、同じ神を信仰する人は同じ思いを共有して強い魔法を使えるようになる」
クックロビンは両手を広げて笑みを浮かべる。ここからが、話の本題だと言わんばかりだ。
「さて、ここで最初の問いに戻ろうか。同じ神を信仰する人々の思いが魔法を強くするならば、信仰の対象はどうだと思う?」
「……とてつもない思いが集まり、魔法が尋常じゃないくらい強化される、ってことか?」
クックロビンが“パチン“と指を鳴らす。
「ご明察。
「超越……魔法? なんだそれ?」
だが、クックロビンは最後まで答えてくれなかった。“後は実際に見てね♪“だとさ。やれやれ、何を勿体ぶってるのだか……だが、俺はこのクックロビンの思わせ振りの態度の意味を真に知ることになるのであった。
─
──
───
「くくく……くく、くくくく! はははは、これが“神“の力ってことね。さあ、“
「ク、クソが! 超越魔法“
“
アリスが指を“パチン“と大きく鳴らす。……何も起きない。何が起きたんだ? アリスは相変わらず両手を広げて狂笑している。何かをしようとしているとは思えない。
と、その時、視界の端に
「いかぬ、いかぬ。遅参してしまう」
白い人は“ダリ“の絵画に出てくるようなグニャグニャになった懐中時計を取り出して時間を気にしている。頭には飛行機の羽根みたいな物が突き刺さっている。
あまりの奇妙な状況に、俺は言葉を忘れて立ち尽くした。
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