第四十二話 リベンジ

「ああ、もう! “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の奴! 本当にムカつくわね!」

「アリス、少し落ち着きなよ」

「クックロビン、アンタこそ落ち着きすぎよ!」


 今日は久しぶりに事務所で作戦会議だ。と、言ったが、憂さ晴らしの意味合いが強い。アリスのイライラ度合いが酷すぎて、流石にカフェでは会議が出来ないと思ったからだ。


「アイツのせいで、どれくらいクレジットを突っ込んだと思うのよ! こうなったら、惑星型高圧縮レーザー砲台をレンタルして、火吹き山ごと吹き飛ばしてやろうかしら!」

「何だそれ?」

「“なんでも貸します“で有名なヒッタイト産興がレンタルしてる移動惑星型レーザービーム砲台よ。数千億ギガワットのエネルギーで、どんな物質も蒸発よ」


 おいおい、どこのイゼルローン要塞だよ。それに、火吹き山を消し飛ばすとか正気の沙汰じゃないぞ。そもそも、俺たちは打撃・斬撃武器ミーリーウェポンや魔法を使う真の冒険者リアルマン動画が売りだろうが。


 呆れる俺を他所にクックロビンがアリスを嗜める。


「僕だって“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“には思うところがあるさ。だからといって、動画のポリシーを歪めるのは賛成しかねるよ」

「むぅ。そりゃ、私だってポリシー破ってまで、やりたくないわよ。でも、あのブサイクゴリラチキン野郎に一泡吹かせるには、これくらいやってもいいでしょ?」


 俺とクックロビン、二人とも首を横に振る。


「ぐぬぬぬぬ」

「おいおい、アリス。お前怒り過ぎだぞ。もうちょっと冷静になれよ」

「そうだよ、アリス。如何に“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“だとしても、冷静にならなきゃ、いい案も出ないよ」

「いい案なんて決まってるわよ。そんなの私の優秀な脳内アルゴリズムが答えを出してるわ。惑星型高圧縮レーザー砲台がダメなら、核ミサイルの飽和攻撃で火吹き山ごと“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“を攻撃すればいいのよ」

「「却下」」


 おいおい、手段が変わっただけで、ポリシー違反は変わってないぞ。しかも核攻撃なんて、最もダメな手法じゃないのか。俺とクックロビンは口を揃えてアリスの案を取り下げた。


「じゃあ、どうするのよ。アイツは腐ってもトップMovieCherよ。クォンタムブレーカーの策が破られたのなら、もう手が無いわよ」

「だからと言って、手段は選べよなぁ」

「そうだ、極大核自爆魔法を唱えるゴンスケを、私の転移魔法で超長距離から“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“にぶつけるのはどう? これなら、魔法を使った擬似核ミサイルよ。文句ないでしょ?」


 俺が文句大ありだ。ふざけんじゃねぇ!


「うーん、そうだねぇ。でも、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“も量子ビットアーマーを持ってるんだよ。ゴンスケ君一人の核爆発では、彼の防壁を破れないよ」


 クックロビンがアリス案の穴を突いて説得する。なんか、説得の方向性がズレてるけど、この際仕方がない。

 だが、アリスは未だに諦めない。新たなる愚策を述べ始めた。


「じゃあ、ゴンスケのクローンをたくさん作って、核爆弾化して送り込めば良いのよ。はい、解決!」

「解決じゃねえ! 俺を核爆弾にする案から離れろよ!」

「じゃあ、どうすれば良いのよ」

「うーん、なんとか彼の武器や防具を無効化できれば、手があるかも知れないけど……」

「無効化、か」


 クックロビンの言葉に俺は呟きで返す。うーん、何か心に引っ掛かるなぁ。

 

「無効化、無効化……うーん?」

「何よ、ゴンスケ。さっきから壊れたロボットみたいに」

「いや、なーんか、忘れてるんだよなぁ」

「何を?」

「いや、無効化って聞いてさ。なんだったかなぁ?」

「ふーん、ま、いいわ。何か策があるなら言ってちょうだい」

「うーん、何か引っかかるんだよなぁ」


 アリスとクックロビンが喧々諤々と意見を交わす。その横で、俺は腕組しながら考えていた。

 

 無効化かぁ。確かに、それができれば、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“に敵うかも知れない。だけど、最新の超科学兵器を無効化って、どうすれば……


 その時、ふと、部屋の隅の段ボールに目が行く。そのダンボールを見て俄かに思い出した。


そうだよ、だ。アレを使えば、行けるんじゃないか?


 俺は勢いよく立ち上がり、段ボールを漁り始める。先日、アリスの掃除セクシーな物を探して時に見つけたアレなら行けるはずだ。

 突然の俺の行動に、二人はポカンとして眺めている。俺は、段ボールから例の物を取り出して、ドン、と二人の前に置いた。


「これだ! これなら“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“にも効くだろ!?」

「! これは……アレね? なるほど、これならばイケるわね」

「そうか。これならば、彼の装備を完全無効化できる。良い案だよ、ゴンスケ君」


 俺の取り出した物に二人は賛同の意を唱える。へへん、どうだ。俺でもたまには良い案出すだろ?


「でも、何でゴンスケがコレの場所を知ってるのよ」

「う」

「そう言えば、この前、掃除とか何か言って散らかしてたわね」

「うう……」

「大方、私の下着とか探してて、偶然見つけたんじゃないの?」

「ううう!」

「止めるんだ、アリス。ゴンスケ君は三十歳で魔法使いになるため、性欲を物で発散するしかないんだよ。だから、キミの下着を探しても不思議じゃない」

「うううう!!」


 アリスからの疑いの目に、クックロビンがいらん解釈をして弁護する。いや、これは弁護じゃない。横からの追撃だ。くそ!


「と、とにかく! コレを使った案で行こう!」

「そうね、オッケーよ。乗ったわ」

「うん、僕も同感だ。素晴らしいよ、ゴンスケ君」

「でも、コレを“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“に当てるのは至難の技よ。帽子屋ハッターダムディーの邪魔も入るし、一筋縄ではいかないわ」

「ああ、それなら、こんな策はどうだ?」


 俺は二人に自分の考えを述べる。俺の案を聞き、二人は納得したのか、ポンと手を叩く。


「いいじゃない! 流石、ゴンスケ。MovieCherとしての素質はバッチリね!」

「いやぁ、ははは」

「だから、私の下着を探していたことは不問にしてあげる」

「あ、あ、アリス君、な、な、何を言うのかなぁ! さっきから。あは、あは、あはは」


 二人から刺すような視線を向けられる。うう、しまった。下手な言い訳して余計に疑われてしまった。


 冷たい視線の中、俺の苦笑いだけが虚しくこだました……

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