第四十一話 宴の後
結局、俺たちは街の中央まで転移して逃れられた。“
らしいと言ったのは、この辺りから記憶がないからだ。転移後、俺はバッタリと倒れてしまった。クックロビン曰く、転移魔法は脳に大きな負担を掛けるため、一日にそう何度も使う魔法では無いとのことだ。それなのに、俺はこの日だけで三回も使っており、頭のリミッターが飛んで、気を失ってしまったとのことだ。
クックロビンは国王をピクシムの村まで送り届けた後、惑星ネクロポリスまで俺を連れて行ってくれた。そこから、俺が意識を取り戻すまで、三日掛かった。
その後、どうなったのか。
“
彼らの話は、自分たちが殺した人々のことなど眼中になく、ただ動画の失敗だけを悔いているのみだった。非常に不愉快な連中だ。
動画の評価を見てみると、コラボ失敗のせいなのか、“低評価“が結構ついている。ムカつくから俺も低評価に入れておいた。
「あ〜あ。結局、失敗かぁ。
「……アリス、クックロビン。あの後、ムアニカはどうなったんだ?」
“
「ああ、それなら別の動画があるわよ」
「いや、現地に行きたい」
「……そうだね。アリス、火吹き山に行こう」
そうなのだ。俺は現地で彼女の最後を知りたかった。ズールー王国はどうなったのか、皆はどうなったのか。この目で見ておきたかった。
───
──
─
ズールー王国の首都に入ると、そこには人々が街の復興に励んでいた。“
荒廃した街を抜け、戦場となった建物に辿り着いた。そこには、幾人かの見知った騎士たちが建物の復旧にあたっていた。そして、その中にいた一人の少女が俺を見て、駆けてくる。
「ゴンスケ!? 大丈夫だったの? 心配したんだよ」
「ああ、アジエか。心配掛けたな。それより、あの後、どうなったんだ?」
「うん、あのね……」
アジエから俺が気を失った後のこと、各騎士団の崩壊、王都の現状、そして火吹き山の今の現状を聞いた。
少女が訥々と語る内容を俺は拳を握り締めながら聞いていた。アジエが話を終えると、王国の現状を見せると王都の中を案内してくれた。
崩壊した街中では、生き残った人々が復旧作業にあたっている。彼らは疲れた表情をしているが、目の奥は死んでいない。まだ王国の……そして、火吹き山の明日を夢見ているのだと分かる。
「みんな……強いんだな」
「うん。だって、私たちの世界なんだもん。それに、国王陛下も、まずは国の復旧が第一ということで、先頭切って働いてるわ。だから、皆んなも頑張ってるのよ。ほら、あそこ」
指差した先に、人々を指揮する初老の男性がいる。国王自ら陣頭指揮とは、一体どうしてだろうか。
「王様が自ら指揮してるのか? なんでだ?」
「……たくさんの人が死んじゃったからね。国王陛下自らが働かないと、人手が足りないの…」
「……そうか……」
「騎士団もハネス副団長を中心に再編しているところよ。もしかしたら、私も騎士に推薦してもらえるかも」
「おお、それはよかったな、アジエ」
「……うん。騎士団も人手不足だからね」
重い沈黙が流れる。俺の一言一言が王国の現状をズレて捉えてしまっている。無事なアジエを見て、嬉しいはずなのに、モヤモヤした気持ちになってしまった。
ふと離れた先に腕を無くしたハネスが
「……ゴンスケ。まだ時間がある? ちょっと来て欲しいところがあるんだ」
「うん? あ、ああ。構わないけど……どこだ?」
「……墓地だよ」
それだけ聞いて、胸が締め付けられる。そんな俺の肩にポンと手が乗せられる。
「ゴンスケ。アンタ、また地球の、それも日本とかの論理で考えてるんじゃない?」
「う……」
「いい? 街の人が死んだのは、ブサイクゴリラチキン野郎のせいよ。アンタは悪くないわ」
「で、でも。アイツが来たのは俺を追いかけてきたからで……」
「だからって、アンタのせいじゃないでしょ。悪いのは“
確かにそうかもしれない。だが、俺にはどうしても割り切れなかった。惑星ネクロポリスの住人みたいにバッサリとできれば、なんと気が楽なことだろう。
俺は言い知れない責任感を感じ、墓地に向かう。墓地に着き、アジエが指差す先には火成岩でできた小さな墓石がいくつもあった。
「ここが騎士団の共同墓地だよ。騎士団は壊滅し、残っているのは一部だけ。これが魔法騎士団のお墓、槍騎士団はこっち、これが弓騎士団、でね、こちらが斧騎士団……」
歩きながら、次々と墓石群を指差して語るアジエ。その口調は淡々としており、義務的な話振りに聞こえる。そして、いくつかの墓石と眠る人を語ってくれた後、一つの墓前でぴたりと止まる。
「これが剣騎士団団長、ムアニカのお墓……お墓、と言っても、結局、
「アジエ……」
掛ける言葉が見当たらない。だが、アジエは俺の心配を他所に平気な顔をしている。そうか、思いの外、強い娘なんだな……。
しばしの沈黙の後、アジエはゆっくりと口を開いた。
「……アーリス様、ロビン様。ちょっとゴンスケと二人で話したいので、外していただけますか?」
アジエの言葉に二人はゆっくりと頷く。そして、無言のままその場を離れた。
アリスは去り際、先ほどの話を言い含めるかのように、俺に視線を送る。分かってはいるが、そう割り切れるものではなかった。
二人だけになった墓地で、俺たちは無言で立ち尽くす。アジエは墓石を見つめ、俺に背を向けたままだ。
空からポツポツと雨が降ってくる。
雨粒が奏でるリズムに釣られたのか、アジエもポツリポツリと口を開く。
「ムアニカ団長は……“騎士になるならば、人前で涙を見せるな!“って……」
「……そうか」
「“騎士は、体だけでなく、心も強くならなくちゃいけないんだ“ってね。だから、どんなに辛くて悲しいことがあっても、泣いちゃダメなんだって……」
「………」
「でも……でも……」
くるりと振り向いた少女の瞳には大粒の涙に溢れていた。
「……ゴンスケの前なら……泣いてもいいよね?」
少女の慟哭は勢いを増す雨足にかき消された。俺は何も言えず、自分の力の無さに只々、無力感を感じた。それと同時に、心の奥底から、強い怒りが湧き上がってくるのを感じた。
“
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