第三十二話 熱狂的なファン
族長から量子ビットアーマーをもらった翌日、アマレに連れられてドラゴン退治に向かった。アマレは昨日の態度と比較して少しばかり軟化している。どことなく口調からトゲが無くなっている。
アマレは噴煙を吹き上げる山を指差し、口を開いた。
「トールマン共、ドラゴンはあの山の麓にいる。暫くするとドラゴンの熱波が襲ってくるはずだ」
「ムアニカ、そろそろ神器を使ってくれるかな」
「はい、ロビン様。"量子ビットアーマー、展開"」
ムアニカの一言で彼女の手の内にあった珠が微細な粒子に分解され、彼女の周囲に展開された。
「ムアニカ、量子ビットアーマーは防御範囲を君の周りから、みんなの周りに広げることもできるさ。でも、ここから先は人数を絞ろう。あまり守る対象が多いと、量子ビットアーマーの防御力が落ちちゃうからね」
防御力が落ちるのは、粒子が拡散して守る範囲が少なくなるからだろう。そうなると、誰がドラゴン退治に行くのだろうか。
ムアニカは当然として、クックロビンも当然行くだろう。案内役のアマレも必要だ。後は探索の魔法が使える副長のハネスか?
俺は……遠慮したい。ドラゴンこと自走式火炎放射砲台とか言う名前からして、強力な火を吐く兵器だと思われる。
炎は苦手だ。マグマに落ちた時の身を焦がす感触やアリスの火炎魔法の誤射で燃え上がった痛みが脳裏に過ぎり、全身に鳥肌が立った。
俺はそっとクックロビンに近づき耳打ちした。
「あのさ、クックロビン。俺は遠慮しておくよ」
「え? 何故だい?」
「正直、もう炎はコリゴリだよ。それに、原住民の剣しか持ってない俺では荷が勝ちすぎる」
「うーん、仕方ないね。惑星ネクロポリスに戻ったら、トラウマ除去の手術を受けるといいよ。あと、武装も強化した方がいいかもね」
「あ、ああ、そうするよ。う……なんか話してるだけで体が熱くなる気がしてきた」
「ははは、大丈夫かい? そうだ。体の調子が良くない時は回復アンプルがいいよ。はい、あげる」
「ああ、サンキュー」
「ま、仕方ないよね。気にしないで」
結果、俺の言葉を受けて、クックロビンとムアニカは人選から俺を外してくれた。ドラゴンとの戦闘はMovieCher的には、おいしい動画かもしれない。けど、これ以上のトラウマは避けたい。
結局、ドラゴン退治にはムアニカ、アマレ、ハネス、クックロビン、それに高度な回復魔法を使える兵士、盾役の兵士の六名となった。
「それでは行ってくる」
それだけ言うと、ムアニカ達は先に進んで行った。俺は旅立つ一行の背中を見送り、上手くドラゴンこと自走式火炎放射砲台を倒せるのを願った。
─
──
───
ムアニカ達かいつ戻ってくるかは分からない。そこで、残された俺と兵士たちは彼らと別れたこの場所でキャンプを張ることにした。本当はピクシムの村に戻りたかった。しかし、彼らが怪我して帰って来た場合、少しでも早く傷の治療を手当てするためにも、自走式火炎放射砲台の熱波が届かないギリギリの場所にキャンプを張ることにしたのだ。
最も、討伐に向かった中には、強力な回復魔法を使える兵士やクックロビンがいるので、杞憂になるかもしれない。しかし、万一の場合を考えるならば、一番の近場にキャンプを張る用心に越したことはない。
俺は兵士たちとキャンプを張り終え、一息つく。手近な岩に座り、手持ち無沙汰な俺は
機械に付けられたディスプレイに使える魔法の一覧が出てきた。王国にいた時、暇があれば見ていたので、どのような効果があるのか頭に入っている。その中でも、次の魔法が俺のお気に入りだ。
"
次に"
最後に、"
他にも回復魔法やら知覚強化魔法など色々ある。中でもアリスの趣味なのか攻撃特化の魔法は段違いに多い。相手を焼き尽くす魔法や体温を奪って凍死させる魔法などなど、だ。
「ねえ、ゴンスケ。何見てるの?」
突然の呼び掛けに釣られて顔を上げると、アジエが覗き込む様に立っていた。俺が持つ
「ねえ、ゴンスケ。さっきから何してるの?」
「ん……アジエか。いや、使える魔法を確認していただけだ」
「魔法!? ゴンスケも魔法を使えるの?」
「も……? なんだ、アジエ。お前も使えるのか?」
「へへへ、そうだよ〜。騎士団に入ると、回復魔法を習うんだ。まだ簡単な魔法しか使えないけど、効果には自信があるんだ」
「へぇ〜。回復魔法かぁ。俺も使えるみたいなんだけど、魔法触媒が無くてなぁ」
「変な言い方。使えるみたいってどういうこと?」
「え? だって、
「えぇ〜? そんなの無くても魔法は使えるよ〜。ゴンスケって変なの〜」
む、そうか。俺は
「ねぇねぇ、ゴンスケ。
「ああ、いいぜ。これが俺の使える魔法だ」
アジエは俺の使える魔法を感心した様子で見ていると、ある魔法を見て驚嘆の声を上げた。
「すごい! 上級魔法の"
「え? すごいのか、それ?」
「すごいよ! ズールー王国だと、魔法騎士団のシャカ団長しか使えないんだよ。うわぁ〜、さすがアーリス様の神使だね。他にも見たことない魔法がたくさんある。あ、極大核自爆魔法? これ凄そう! ねぇ、ゴンスケ、使ってみて」
アジエは目をキラキラしながら見ている。バカもん! そんなの使ったら大惨事だ。
他愛の無い話をしながら、俺たちがワイワイやっていると、何やらざわついた声が耳に入ってきた。
「おい……! なんだ、お前 ……!」
「応え……! それ以上……!」
なんだろう。もしかして早くもムアニカたちが帰ってきたのか? もしかして、忘れ物でもしたのか?
特に気にせず話をしていると、突然……
「ウワァぁぁあ!」
「キャアァア」
辺りを切り裂く悲鳴が聞こえてきた。な、なんだ!? 敵か? 敵が来たのか?
「ゴンスケ……」
「ああ、安心しろ。ちょっと見てくるよ」
アジエが不安そうな顔をして俺の袖を掴んできた。怯える少女の肩に手を置いて、騒ぎの元に足を運んだ。
嫌な予感がする。この感覚は火山洞窟で味わった感覚と同じだ。
俺が騒ぎの元に辿り着くと、凄惨な光景が広がっていた。
その場所は、辺り一面が炎で包まれており、多くの兵士たちが倒れている。一体何が起きたんだ?
俺は近場に倒れている兵士に駆け寄り声を掛けた。
「神獣……ゴンスケー…殿…」
「おい、一体何が起きたんだ? “
「は……はい。“
それだけ言うと、兵士はがくりと首を落として息絶えた。くそ!
他に生きている者はいないかと辺りを見渡すが、皆ピクリとも動かない。……代わりに、後方から俺と同じく、この場所に幾人かの兵士たちが集まってきた。
「一体何が……」
「ひどい。 “
「“
皆が俺に視線を送る。う……視線が痛い。未だに“
俺は弁明しようと騎士達に向き直る。しかし、その時、炎の揺らめきの中からシャナリシャナリと女性が歩いて来た。
女性は薄絹の様な透けて見える素材のローブを纏っている。ローブの中はゲームやアニメのキャラクターみたいな下着の様な格好をしており、正直恥ずかしくないのかと思った。女性は俺達を値踏みするかのように見渡した後、俺だけに視線を向けて、ニタニタと不快な笑みを浮かべながら口を開いた。
「あれあれ〜? お前、見たことあるわよ〜」
嫌な予感がする。
「もしかして、話題の地球人じゃな〜い? ふふふ、MovieChで間抜けな死に様を見たわよ〜。マグマで焼け死んだくせに、まぁ〜た懲りずに火吹き山に来たのぉ〜?」
こいつの言葉ではっきりした。やはり惑星ネクロポリスの住人、MovieCherだ。
マズい、マズいぞ。アリスやクックロビンがいないこの状況で、最新兵器を持つMovieCherを相手にするのは非常にマズい。勝てる気がしない。
騎士団の連中と協力すれば、と思ったが、辺りの被害状況を見る限り、勝算は薄いと感じた。
背筋に冷たい汗が流れる。くそ……どうする? どうしよう?
俺の混乱など
「“
「……だったら、帰ればいいじゃねぇか」
「嫌よ〜。憧れの“
「
「あらあら〜。そうかしら? とっても面白いのに〜」
「どこがだよ!」
俺は思わず声を上げた。無抵抗な人がたくさん死ぬ動画なんて、どこが面白いんだ。この異常者め!
激昂する俺に対して、女性は醒めた表情で視線を送る。
「ふぅ〜ん。まあ、いいわ。趣味の違いは誰にも分からないわね。本当はここに来て、伝説の自走式火炎放射砲台を動画にアップしようと思ったのだけど……。
でも、地球人、お前をいたぶって殺す動画の方が面白そうね」
「くっ」
「ふふふ、どうやって殺されたい? 一本一本、指を落としてあげましょうか? それとも生きたまま神経を抜き取ってあげましょうか?」
おおぅ。さらっとトンデモナイことを口走りやがる。冗談じゃない。
コイツは俺を使って
時間を稼げばクックロビンやムアニカたちが戻ってくる。あの二人がいれば、この
「みんな、聞いてくれ。少しでも時間を稼いでムアニカたちが戻ってくるのを待つんだ。ムアニカが持つ剣ならば、コイツを倒せるはずだ」
俺の言葉に騎士の面々が反応した。目の前の惨状と突如現れた“
「あらあら〜。私とやり合うつもりかしら〜。でもね、所詮は地球人と原住民でしょ? 私のこの子たちに敵うかしら?」
その言葉とともに、女の背後から四つの物体が宙を飛んで現れた。
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