第十九話 スキル習得
急に話が変わって俺は気を抜かれた。戦闘スキル? そう言えば
確かに俺は剣を力任せに振るっているだけだ。今までの戦闘を思い出しても洗練した技術を使って戦った覚えは無い。スキルを覚える、ということは何かしらの訓練をするのか。一朝一夕ではいかなそうだな。スキルを覚えている間に火吹き山の人々は全滅しちゃうんじゃないのか?
しかし、アリスは“ふふん“と得意顔で言葉を返す。
「ゴンスケ、まずは病院に行くわよ」
「はぁ? なんで病院なんだよ。戦闘スキルって言うなら、道場とかジムみたいな場所じゃないのか?」
「ちまちま訓練して技術を磨くなんてやってられないわよ。スキルを覚えるのもレベルアップもすべて病院から始まるのよ」
「えぇ〜?」
「ほらほら、さっさと行くわよ。善は急げよ」
「ああ、まだ黒銀茶が……」
アリスは強引に俺の手を引っ張る。コイツには散々ひどい目に遭わされたけど、俺を思っての行動が多い。俺がお人好しなのか、それとも俺がアリスに少なく無い感情を抱いているためなのか、どうにも彼女を憎めないでいる。……でも、火吹き山での一件は忘れないからな。
───
──
─
何も事情を説明されず、病院まで連れられた俺は、また美人の女医先生と対面することになった。相変わらず美人だ。ここに連れてこられた理由はいまだに説明されていないけど、女医先生に会えただけでも良しとしよう。
「なんだ、また来たのか。二日前に生き返ったばかりだろう?」
「ハハハハ、先生に会うためなら毎日来ますよ。ハハハハ」
「そうか。今日は頭の検査に来たのだな。脳内チップの調子が良くないのか? 生き返った際、ファームウェアをアップデートして、言語ズレは解消したつもりだったが、別の問題が生じたみたいだな」
む……。変に格好をつけたら頭の正常性を疑われたぞ。ひどい。
「先生、違うわ。今日はゴンスケのスキル習得に来たのよ」
「ほう……スキルか。クレジットはどれくらいあるんだ?」
女医先生に言われて端末を見る。火吹き山の動画でいくらかリワードをもらえたため、100万クレジットが表示されている。“
「100万です。もしかしてですけど、スキルって……レベルと同じく変な薬を飲めば覚えるんですか?」
「ん? まあ、似たようなものだ。細かなところは違うがな」
「げっ、じゃあ、今度は痛み止めを忘れないでくださいよ」
「痛み止めを飲まなかったのはキミの早とちりなのだが……まあ、いい。どのようなスキルを覚えたいかここから選んでくれ」
“ブン“という音と共に空間に
「選ぶ……って、これなんですか?」
「お嬢、また説明してないのか?」
「えへへ、ごめんなさい。あのね、スキルっていうのはね…」
「いや、私が説明しよう。お嬢が説明すると無茶苦茶になってしまう」
「えぇ〜」
アリスが不満げな表情を見せる。確かにアリスの説明だと妙ちくりんな内容になってしまう。レベルアップの時なんかまるで理解できなかった。
「ここで言う“スキル“というのは人が練習や経験を経て得る技能のことだ。この病院では、本来は長い時間と訓練を経て頭や体に覚えさせるところを、脳内にデータとして書き込ませることで即座に習得させることができる」
「なんと! それはすごい」
「まあ、如何にスキルを覚えても身体能力、精神力が追いつかなければ意味はないがな」
「そうなのですか。じゃあ、今の俺に合うスキルを選ばないといけないですね」
「そうだ。キミの場合は筋肉だけは凄いからな。戦闘系のスキルなら大方適正があると思うぞ」
「ヘェ〜」
俺はスキル一覧を見る。“
思ったより多数のスキルに俺は息が漏れる。うーん、多すぎる。一体どれを選べば良いのだ? そもそも、ツリー状になっているということは、スキルの上位を選べば下位のスキルも内包しているのだろうか。大体、このスキルを選べばどれくらいの技能を得られるんだ? もしかして一気に達人近くまでの能力を得られるのだろうか。よく分からん。
俺が悩んでいると、女医先生が肩越しに密着して
「どうした? 見方が分からないのか?」
「え、ええ。これ、ツリー状になっていますけど、上のスキルを選べば下のスキルも含まれるんですか?」
「そうだ。“剣術“を選べば配下のスキルもまとめて覚えることができる。しかし、その分高額だぞ。100万クレジットならこれくらいか」
女医先生は“剣術“スキルの下にある“和刀“を指差す。なんだ、100万じゃ最上位のスキルまでは覚えられないのか。
「そうがっかりするな。時間を金で買っているんだ。それくらいするものさ」
「うーん、納得はし難いけど……そこまで時間が無いからなぁ。そもそも、この“和刀“ってのはどれくらいの技能になるんですか?」
「スキルもレベルがあってな。100万なら“和刀レベル1“くらいか。ちょっと待ってろ」
女医先生は
「“和刀レベル1“……か。この程度なら日本で言う“剣道“とか言う武道の初段程度とあるな。剣道、か。キミ、知っているか」
「まあ、それなりに。でも初段って強いのかなぁ?」
「知らん。地球人、それも日本人のキミなら分かると思っていたが、知見が無いようだな。なら、このアイコンを押してみろ」
「これ?」
女医先生が“体験“のアイコンを指し示す。俺は言われるがままに押してみると、脳内に和刀レベル1の知識が流れ込んだ。おお……これが和刀レベル1か。剣道なんて習ったことが無いけど、知識として理解できる。
「これ! これがいいです!」
「ほう。納得したようだな。金額として60万クレジットだ」
あれ? 40万クレジット余るじゃないか。なら他のスキルも選べるな。よし、では魔法用のスキルを覚えよう。お、回復魔法適性とか言うスキルがあるな。回復魔法が使えれば傷を負っても少しは安心できるな。回復アンプルを使えばいいかもしれないけど、あれ、結構高いらしいし……。よし、回復魔法適性レベル1も買おう。
「先生、これ、このスキルもお願いします」
「……いいのか? まあ、構わないが…」
おや? 先生が少し眉根を寄せている。なんだろうか? 俺はまた大きな間違いをした気がしてきた。
「では、“和刀レベル1“と“回復魔法適性レベル1“の2点で100万クレジットだ。本来ならば、鎮痛施術分で20万必要なのだが……仕方があるまい」
「あ、ごめん。やっぱ回復魔法適性は……」
“無しで“と言おうとした時、アリスに肩をガシリと掴まれた。
「ゴンスケ、やるじゃない。鎮痛施術せずにスキル覚えるなんて、頭のおかしい奴しかやらないわよ。よし、動画撮影してMovieChに投稿するわよ。結構な視聴数を稼げるわよ〜」
「え? え? あ、あの、先生、俺は……」
「なるほど。キミも中々にこの星に染まってきたようだな。ならば遠慮はすまい。覚悟するんだな」
先生が謎の機械を取り出し、俺の耳に近づける。耳に機械が鳴らす“ギュイーーーーーン“といった音と風圧が迫り来る。俺は逃げようと咄嗟に体を動かすが、アリスにガシリと掴まれて動きを止められた。ギリギリと力比べをするがアリスを引き離すことができない。う、コイツ、ビッグ3が300オーバーの俺と対抗するなんて、恐るべき馬鹿力だ。
機械は徐々に俺の耳に迫り来る。あ、あ、あかん。助けて。誰か、誰か俺を助けてくれぇえええええ
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