第二十話 クォンタムブレイカーVer12 Update5
ひどい目にあった。気を抜くと施術中の光景が思い出されて脳内に妙な痛みが走る。ああ、またとんでもない
俺は頭を振り嫌な記憶を振り払う。傍にいるアリスは俺の苦悶の表情が流れる動画を見てニコニコしている。そんなに俺の不幸を見たいのか、惑星ネクロポリスの連中は!
俺はいつものカフェで黒銀茶を頼むが、疲れ切って手が伸びない。ああ、今日はゆっくり休みたい。
だが、事態は俺の思いを待ってくれない。カフェの扉が開く音がして、クックロビンが入ってきたのだ。クックロビンは手に何やら縦長のケースを持っており、重そうに床へ置く。そして、俺とアリスが座る席に着いて話し掛けてきた。
「やあ、ゴンスケくん。スキルを覚えたんだって? 調子はどうだい?」
「う……止めて。脳が痛い」
「おかしいな。脳には痛覚が無いはずだよ。なにかの病気かい?」
病気なのは惑星ネクロポリスの連中だ、と言いたくなった。だが、クックロビンに言ってもただの八つ当たりだ。それよりも、コイツが来たのは理由があるはずだ。そう、惑星ダンジョン“火吹き山“で“
俺は気怠さと脳の痛みを抑えながら黒銀茶に手を伸ばし、軽く啜る。少しばかり力が戻る感覚がした。よし、気を取り直してクックロビンの話を聞こう。
俺が落ち着いた様子を見て、クックロビンは持ってきたケースを指差し、話し始める。
「アリス、言われた武器を買ってきたよ」
「オッケー、クックロビン。後で経費で落としておいて」
「アリス、なんだよそれ?」
「ふふん。これはねぇ、惑星ネクロポリスで最近売り出された超ハイスペックソード“クォンタムブレイカーVer12 Update5“よ」
「なんだそりゃ」
「今見せてあげるわ。クックロビン、ケースから出して」
アリスに言われるままクックロビンがケースから“クォンタムブレイカーVer12 Update5“なる武器を取り出す。刀身はサイバーな鞘に包まれており、切れ味の程は窺い知れない。しかし、鞘がゲーミングPCみたいに光るのは悪趣味だ。もしかして、ゲーミングソードか?
「これってお前が言う“
「ちょっと微妙な範囲ね。剣には変わりないけど、この剣は最新技術の塊なの。人によっては賛否が分かれるわ」
「ふーん。動画的には、この剣ありなのか?」
「ありと言えばありだけど、積極的に使いたい物じゃないわね。それに、今回は私が使うんじゃないわ。別の人が使うの」
別の人……? それって俺のことか? じゃあ、アリスは俺にこの剣を使えって言ってるのか。確かに俺は“和刀レベル1“のスキルを得たばかりだ。なるほど、中々気が効くじゃないか。
と思って、剣に手を触れようとした時、アリスが口を開いた。
「言っておくけど、この剣はゴンスケの物じゃないわ」
「え? そうなの?」
「そうよ。この剣は謂わば反則級の武器なのよ。これで私たちが“
「面白くって言われてもなぁ。じゃあ、誰がこれを持つんだよ」
「ふふ、ゴンスケくん。この武器は火吹き山の原住民にあげるのさ。さ、この動画を見てごらん」
クックロビンがMovieChを展開して、動画を映し出す。そこには火吹き山の惨状が映し出されていた。
「これは最近火吹き山に行ったMovieCherの動画だよ。この人は“
「なんだそりゃ。模倣犯じゃねぇか!」
「別に犯罪ではないけどねぇ。あ、火吹き山の法では犯罪かな」
クックロビンの悪気がない言葉は俺には受け入れ難かった。彼の発言は、無意識で惑星ネクロポリスの住人は“火吹き山“の住人を何とも思っていない、と感じさせる。少しばかりのわだかまりを感じながら、動画を見ることにした。
それよりも、この動画にはMovieCherの悪逆非道が収められていると思うと、不愉快さが先に出た。俺は拳を強く握りしめ、憎々しげに動画を見つめる。
クックロビンは動画を早送りして、該当シーンまで進める。早送りしながら、脳内には“火吹き山“に住む人々の絶望の光景が流れ込んだ。
「でね、この辺りなんだけど……ほら、見てごらん。この原住民を」
そこには金髪で綺麗な髪を
彼女は自身の青い瞳でMovieCherと睨み合いを繰り広げ、一歩も引かずに対峙している。その瞳には、強い意志を感じられ、騎士としての矜持を感じられた。
対するMovieCherは妙ちくりんな形の銃と銀色のキラキラした宇宙服みたいな服装、それにスパイクのついたヘルメットを被っている。口元は相手を侮っているのかヘラヘラと笑っている。
二人の対峙するシーンを指差し、クックロビンが口を開く。
「この原住民、すごく強いんだ。ほら、ここ」
「うぉ、すごい!」
動画の中では、MovieCherが手に持った武器から怪光線を放った。しかし、女騎士は寸でのところで
「強いなぁ……あの変な銃の光線を
俺の感嘆を聞き、アリスが嬉しそうに声を上げる。
「でしょ、でしょ? でね、今回の作戦はこの原住民に“クォンタムブレイカーVer12 Update5“をあげるの。でね、彼女に“
「そう上手くいくかぁ? 相手はあの“
「ゴンスケ、アンタはこの武器を甘く見てるわ。“クォンタムブレイカーVer12 Update5“は惑星ネクロポリスの科学力が産んだ最強の剣なのよ。これがあれば、ブサイクゴリラチキン野郎の“
「本当かよ?」
「ふん、疑ってるのね、ゴンスケ。後で吠え面かいても知らないから」
「あ、そう」
どんなに力説されても近接武器で“
そんな俺を放っておいてアリスは話を続けた。
「私たちは正体を隠して、彼女をサポートする役を演じるわ。じゃあ、みんなの役を伝えるわね。私の役は、女騎士に聖剣“クォンタムブレイカーVer12 Update5“を与える"女神アーリス"の役目よ。クックロビンは女騎士を助ける神の使い"ロビン"という役目ね。あと、ゴンスケは魔獣"ゴンスケー"ね」
「ブフォあ!」
俺は黒銀茶を盛大に吹き出してむせ返る。なんで俺が魔獣役なんだよ。アリスやクックロビンと雲泥の違いじゃないか。
「汚ったないなぁ。何するのよ、魔獣“ゴンスケー“」
「誰が魔獣“ゴンスケー“だ! なんで俺が魔獣役なんだよ。俺も、もっといい役が欲しい!」
「なによ、さっきまでやる気なかったくせに。それに、この役目は重要な役目なのよ?」
なに? 重要な役目だと? 魔獣とかいう役がどう重要な役になるんだ?
もっともな俺の疑問にクックロビンが代わりに答えてきた。
「ゴンスケくん。キミは僕と女騎士の出会いのきっかけになるのさ」
「出会い?」
「そうさ。女神アーリスから聖剣“クォンタムブレイカーVer12 Update5“を受け取った彼女の最初の敵がキミだ。キミは“
「全然俺のいいところが無いんだけど」
「そうでもない。キミは彼女に倒され、改心して聖獣"ゴンスケー"になるんだ。そこから、キミと僕、それに彼女と共に“
「安っぽい話だなぁ。それよりも、俺があの女騎士と戦うの?」
先程の動画を思い出す。あの女騎士はかなりの手練れだ。そんな奴が惑星ネクロポリスの最強の剣なんか手にしたら、俺は改心する前に昇天するんじゃないか?
俺が浮かべる疑いの表情を察したのか、アリスが親指を立てる。何やら策があるようだ。
「大丈夫よ。ゴンスケ。アンタにはパワードスーツを用意しておくわ。如何にもな見た目のゴツい奴よ。魔獣“ゴンスケー“にぴったりね」
「パ、パワードスーツ? そんなの
「パワードスーツは演出のための小道具よ。別にメイン武器じゃないからいいのよ」
「そうなの? 最終的に剣とか盾で戦えばOKということか?」
「そうよ。むしろパワードスーツを着た相手を圧倒する女騎士なんて、絶対にいい
「なんだかムチャクチャな気がするが……パワードスーツを倒せるくらいまでにクォンタムブレイカー Ver 12 Update5は強いのか?」
「もちろんよ。パワードスーツもすごいけど、この剣はもっとスゴイんだから。“
「……わかったよ。この作戦で“
「よし、それでこそゴンスケよ。じゃあ、注文したパワードスーツが来るまで軽く冒険に行きましょう。スキルを覚えてお金もないだろうし、レベルアップもしなくちゃいけないから簡単な惑星ダンジョンに行きましょう!」
「おし、やるか!」
俺はかったるい体を起こして二人と共にゴブリンたちが巣食う惑星ダンジョンに向かうこととなった。……この冒険の結果は推して知るべしなのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます