第十五話 策の内
アリスの額に汗が流れる。呼吸も鼻から出なく口に変わっている。いつもは人を食う態度で相手を舐めまくってるアリスだけに、今の緊迫した状態は俺を不安にさせる。
「ア、アリス……」
「あ、ゴンスケ。大丈夫、大丈夫よ。少し想定から外れていただけ。すぐになんとかするから」
まるで自分に言い聞かせる口調で俺に言葉を返す。
“
アリスとは対照的に"
「ふははは、アリスよぉ〜。虎の子のエレニウムブレードを避けられて気分はどうだ? 顔色が悪いぜ、大丈夫かい?」
「うっさいわね! はぁっ!」
“
「無駄だぜ、
「座標をずらして」「刃を躱す」
「アリスさん、無駄ですよ〜」
"
振れば振る程、アリスの顔色が悪くなり、動きも鈍くなる。おかしい、アリスの顔色が悪いのは、"
俺は遅まきながらアリスの不調の原因に気付いた。しかし、時既に遅く、八度目の剣を振り終わった後、アリスは膝を突く。息は荒く、額からは滝の様な汗が流れている。体がぐらつき、今にも倒れんばかりだ。
焦った俺は、倒れ行く彼女の肩に手を伸ばそうとする。しかし、俺よりも早くクックロビンが走り込み、アリスを支える。
「アリス、あんなに長時間エレニウムブレードを使うなんて、無茶だよ。被曝死しちゃうよ」
「ふふ、ちょっとやり過ぎたかしら」
ぬぅ、クックロビンにお株を取られたか。しかし、被曝死だって?もしかして、あの剣は放射性物質で出来ているのか?
アリスはトロンとした目でクックロビンを見る。そして、若干惚けた表情を見せ、クックロビンの頬に手を寄せる。
「でも、クックロビンがいるから安心して無茶できるわ。早く……お願い」
「ああ、任せてよ」
な、なんだか怪しげな雰囲気だな……と、思っていたら、クックロビンはアリスの顎を軽く持ち上げ……そして口づけをした。
「な、な、な、な、な!?」
突然のことに俺は頭が真っ白になった。な、何をしてるんですか、お前たち!やっぱり、そう言う関係だったのか!?
俺がアワアワしている間にも口づけは続く。時間としては数秒の短い時間だったかも知れない。だが、置いてけぼりで二人の行為を見せつけられた俺は、数分、数十分にも感じた。
俺の混乱が収まらないまま、行為が終わった二人は、重ねた唇を離した。
「ふぅ。ありがとう、クックロビン。少しばかり楽になったわ」
「体内の
「へ?」
内部被曝?どう言うことだ?確かに先ほど被曝死についてクックロビンが言及していたけど、あの青白い剣から発せられる放射線についての話だったんじゃないのか?
俺が混乱していると、クックロビンがアリスに回復アンプルを渡した。
「はい、アリス。回復アンプルだよ。放射性物質は除去できたけど、被曝による細胞ダメージは残っているからね。回復アンプルを使って回復して」
「あ、あの〜……ちょっといい?」
アリスとクックロビンの会話に割り込み、俺は疑問を投げつける。一体どうなってるんだ。
「内部被曝って…どうしてそうなってるんだ? さっきの剣、“エレニウムブレード“って言ったっけ? あれが関係してるのか?」
「そうそう。私のエレニウムブレードはチョット特殊なの。切れ味と
「で、でも内部被曝ってなんでだ? 別に放射性物質を飲み込んだワケじゃないだろ? 一体何故……」
「そうだ。ゴンスケくんもアリスの近くにいたよね。念のためだから、君も
「え?」
クックロビンが俺に近づいてきた。え? なんで? 一体何をするつもりだ。まさか、まさか!
“ガシリ“
クックロビンが俺の手を掴む。俺は次に起こる状況を察してしまい、軽く“ヒッ“と声を挙げてしまった。
“ブチュウゥゥゥゥ“
ドイツの科学力が産んだ掃除機の如く、クックロビンが俺の唇を奪う。ウヒョォオオオ! や、止めてぇえええ!
「エレニウムブレードってのはね、“エレニウム456“って言う放射性物質の元素で形成した剣なの。
アリスは回復アンプルを打ちながら淡々と説明をし始める。俺はクックロビンとの熱い口づけに脳を溶かされながら、何故に内部被曝の話が出てきたのか理解した。
“剥離したエレニウム456“……目には見えなかったが、アリスの一振りで大気中に放射性物質がばら撒かれていたということだ。それに、時空魔法とさらっと言ったが、空間を飛び越えて剣が振るわれるなんて、すごい魔法を使えるものだな。
クックロビンは俺の体内からエレニウム456をすべて吸い尽くしたのか、唇を離す。うぅ……助かったけど、エレニウム456以外に俺は心の何かを吸い尽くされた感じがした。俺はいつしかクックロビンを乙女の表情で見つめていた。
「おい、お前ら。用事は済んだか?」
“
そう言えば、コイツらわざわざ俺たちが
「待たせてもらう間、いい
「げ!」
「何言ってるのよ、“
アリスさーーーーーん! フォローになってないよぉ! 確かに言い分はもっともだと思うけど、今回に限っては違うんだよ!
「ぅお……確かにアリスの言う通りだ。トップMovieCherである俺としたことが、恥じ入るばかりだ。地球人、頑張れよ」
なんでそんなところだけ理解が早くて優しいんだよ、“
あ、止めろクックロビン。うっとりした目で俺を見るな、止めて下さい。
「だが地球人……お前の愛は死んでから考えなぁ! 原住民、何している! 早く殺れ!」
“
「あれ? おかしいな。私たちの時空障壁への」「アクセス
その時、
「ふっふっふっ。“
突如、“
「作戦は既に終わって、アンタたちが嵌ってるからよ!」
アリスがビシリと指を“
「ぬぉおおおお!」
「はわわわ。“
「そうか、しまった。一部の剣撃の時間を変えてたのね」「おまけに私たちでなく、岩盤を狙うなんて、障壁の想定座標と違うわ」
時間?もしかして、アリスが振るった剣の幾つかは時間を超えて今出現したのか?時空魔法とはよく言ったものだ。空間と時間の両方に干渉出来るなんて、地球の科学では理解できない。
突如の出来事で回避できなかったのか“
「くそ! おい、
「わかった」「今やるよ」
彼らを押し包む岩が“ビュン“という音と共に目の前から消える。言葉の通り岩を何処かにテレポートしたと分かる。先ほどから見ていると、あの
“
「ぐくぅ、
「油断? 今は油断してないって言うの?」
「あん! ま、まさか!」
アリスの一言で“
「し、しまった。
「遅いわ!」
アリスの言葉通り、すべてが遅過ぎた。青白い剣先は“
「うおおおぉおおぉ!」
「うわーん、“
「どう? ゴンスケ。私の剣捌き。中々いい
アリスが笑みを向ける。俺はアリスの笑みに右手の親指を立て、“最高“を示すポーズで返した。
そして、俺たちの攻防を見て、盗賊たちの動きが止まる。アリスの一撃が場の情勢を一変させたのだ。
今、盗賊たちはこう思っているだろう。俺たちが“
最初はまったく信じてくれなかったが、“
盗賊たちは俺たちに恐る恐る話し掛ける。
「ほ、本当に助けてくれやがるのか? 凡骨」
う……助けて欲しい口調じゃないな。いや、俺は脳内チップのせいで丁寧な言葉が汚く変換されてしまうんだ。言い換えれば、この汚い言葉は、盗賊たちが俺を信じて丁寧な言葉遣いで話し掛けてきたことの証左だ。よし、いいぞ。これで哀れな盗賊たちと戦わなくて済む。
「お、俺はお前を信じるぞ、脳まで筋肉詰まってそうだが、お前なら信用できる」
う……結構傷つくなぁ。
俺の心のダメージは置いておいて、目の前にいる盗賊が斧をゆっくりと下げた。そして、そのまま静かに武器を地面に下ろし、両手を上げて無抵抗の態度を示す。
やった。まずは一人だ。暫くすれば、他のみんなも抵抗を止めてくれるはずだ。
だが……
「あぁ〜! それは契約違反ですよ、原住民さん。制裁発動です」
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