第十四話 説得
「死んでくださいぃ!」
俺が
「おわ!」
俺は慌てて盾で庇う。“ガツン“と鈍い音がして、剣を受け止めた。だが、ヌーマは攻撃を止まない。ギリギリと剣を押しつけ、金属が擦り合う音が盾から聞こえた。どうやら力任せに押し切ろうと考えているみたいだ。だが、甘い。
「パワー!」
「ぐあっ!」
俺は盾を力任せに押しやりヌーマを弾き飛ばした。ふん、ビッグ3の合計が400に達する俺に、力で対抗するなど十年早い。
「地球人、やるじゃねぇか。おい、原住民ども。あの筋肉バカを殺れ。アイツ一人を殺したら全員助けてやる」
おーーーーーい! 待ってくれ、話が違う! 俺たちの内、誰かを殺せば一人解放するって話だったろ。これでは、盗賊たちの狙う先がアリスやクックロビンに分散してくれず、俺へ集中しちゃうじゃないか。
“
盗賊たちは血走った目で俺を見る。荒い息づかいからは、強い命への欲求が感じられた。そんな彼らを嘲笑うかの如く、“
「オラァ、早く行けよ、原住民!」
“
くそ、こんな相手を殺すのか! なんてことだ。
いや、待てよ。殺す……? 俺はコイツらを殺さなくてはいけないのか? 俺は頭の中で流れる考えが、現状の最適解なのか疑問に思った。
今、盗賊たちは俺を殺そうとにじり寄って来ている。この状況ならば“相手を殺さなくては、己が命は助からない“と誰しもが思うに違いない。
しかし、相手を殺すこと以外に道はないのか? 本当に殺すことが正しい考えなのだろうか。当然、アリスならば
今更何を言うと思う者もいるだろう。そもそも、俺は人殺しをするために、盗賊たちのアジトである火山洞窟に来たのではないか。正義感ぶる偽善者め、となじる者もいるに違いない。
確かに、俺は人を殺すために盗賊たちのアジトに来たのだ。しかも“動画撮影のため“という迷惑系Youtuberも真っ青な理由だ。
ついさっきまでの俺は、嫌々ながら盗賊たちを殺すことは正しい行為だと思っていた。治安を荒らし、人々に危害を与える盗賊ならば、殺すのも仕方が無いと自己欺瞞で己を隠していた。
だが、目の前にいるのは圧倒的強者により虫ケラの如く殺され、怯える人だ。如何に悪人だろうと、戦意が無く絶望した相手を殺すなんて、殺人鬼のすることだ。
俺はこれからもMovieCherとして活動する限り、生命を殺す。殺すに違いない。だが、無闇に殺しなどしたくない。俺は殺しを楽しまない。生きるために仕方なく殺すのだ……と思いたい。
自分の考えと行動にギャップを感じた俺は、思わず盗賊たちに向かって大きな声を上げた。
「おい、お前ら聞いてくれ! 俺たちは後ろの奴を倒しにきたんだ。武器を下ろしてくれ。お前たちに危害を加えるつもりはない」
「うぅぅ、う、う、う、うるさいです! あ、あ、あ、あなたを殺さなければ、私たちが殺されるのです!」
ガタガタと膝を鳴らしながら、斧を持つ男が
だが、諦めてはいけない。ここで諦めれば、盗賊たちを全員殺す羽目になってしまう。俺は惑星ネクロポリスのクレイジーな奴らと違うんだ。
「頼む! 本当だ。信じてくれ。俺とアイツらのやりとりを見てれば分かるだろう!? 俺たちの本当の敵はアンタらじゃないんだ。殺す気はない!」
「し、し、信じるものですか! そそそそれに、わ、わ、私たちはあなたを殺せば助かるんです! ぶぶぶぶ、ぶっ殺して差し上げます!」
だめだ。全然話にならない。どうしようか……どうすればいい?
その時、アリスが声を掛けてきた。なんだ?何かいい案があるのか? 俺は期待を持ってアリスの言葉に耳を傾けた。
「ゴンスケ、いい調子ね。相手を油断させて一気にやるつもりね?」
「バ、バカやろう! そんなワケないだろう?」
なんて言う奴だ。この状況を見てもなんとも思わないのか!
いや、違う。相手に殺意を向けられているのに、相手を
だが、この場は違う。俺は生き物の本能より俺の道理に従うんだ。
「アリス、俺はどうしたらいい? アイツらは脅されているだけなんだ。あんなに怯えている人を殺すなんて、俺にはできない」
「ふぅーん」
「頼む、アリス。何か方法ないか? 俺たちが“
「あんな奴らを助けてどうするの? また地球の理屈ね」
アリスは半ば呆れた表情を見せる。アリスの言う事も分かる。この盗賊たちを助けて、彼らが改心するとは限らない。結果として、俺の自己満足にしかならない可能性は否定できない。
アリスは軽く息を吐いて言葉を続ける。
「ま、オークランドでは結果として、いい動画を撮れたしね。また何か起こるかもしれないし、協力してあげる」
「本当か!」
「このアリス様にまかせて」
アリスは謎空間を出現させ、手に持った剣を放り込んだ。そして、代わりに別の剣を取り出した。新しく取り出した剣は青白い光を放ち、どことなく荘厳さを感じさせる。
アリスは新しい剣を“
「“
「ぐ……テメェ、アリス! それを使うつもりか」
「わ、わ、わ、“
“
「“
「くっ……原住民! そいつを止めろ!」
“
その時、後方から矢が飛んできた。矢は盗賊たちの足元の岩盤を貫き、強い光と音を鳴り響かせた。
「うォォ!?」
「ぐぁあ!」
盗賊たちから声が上がる。強烈な光と音で盗賊たちは視力と聴覚を失い、平衡感覚がおかしくなって倒れ込んだ。
「アリス。今のうちだよ」
俺の少し後ろからクックロビンらしき声が聞こえる。どうやら彼が何かをしたと分かる。おそらくだが、クックロビンが放った矢にスタングレネードのような効果があったみたいだ。
「ナイスよ、クックロビン。さあ、“
宣言と共にアリスが何もない空間に剣を振るう。剣は青白い光を瞬かせながら、虚空を舞う。一体何をしているかと思ったがよく見ると先端部分が消えている。
一体どうなっているのか、と思った刹那、“
「その腕、もらった!」
先ほど唱えていた魔法の効果なのだろうか。理屈は分からないが、アリスの剣は空間を飛び越えて“
「おい!
“
しかし、青白い剣は止まらない。次元を斬り裂き、“
剣は“
その時、俺の混乱を晴らすかの様に再び暗闇から声が聞こえた。
「僕たちの」「次元操作が」
声の主はカツンカツンと地面を硬い靴で鳴らしながら歩いてくる。区切られた言葉は同じ声に聞こえるが、少しばかり違和感を感じる。
暗闇の奥から白い靴と青い靴が見える。靴の数は二足……そう、声の主は二人組だった。
「間に合ったね」「“
同じ顔、同じ背丈、同じ声……違うのは白と青の服装と胸の膨らみくらいだ。
二人とも中性的な顔立ちをしている。男か女か判別がつかない。辛うじて分かるのは、白い服の相手は胸があり、女性であると言う事だけだ。
「
アリスが珍しく焦っている。いや、珍しいというより、こと戦闘において、アリスの焦りを初めて見た。
アリスの言葉に“
「お前がいると分かってるんだ。対策を怠るなんざ、トップMovieCherの俺がするワケないだろ?」
アリスの顔から完全に余裕が消えた瞬間だった。
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