第十三話 ジャバウォーキー

「元気にしてたか、地球人? 俺はお前に会いたくて仕方なかったよ」

「じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ……」


 裸の盗賊たちを鎖で引き連れていたのは、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“だった。俺は驚きと恐怖で“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“と言いたくても声が詰まってしまい、口に出なかった。


 アリス曰く、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“は惑星ネクロポリスで俺に馬鹿にされて相当怒っていたらしい。その腹いせに、火吹き山で俺を襲いに来る、と言っていた。

 本当は馬鹿にしたのでなく、俺はただ名前を間違えただけなんだけど。しかし、間違えた名前が“ブサイクゴリラチキン野郎“では、怒っても当然か。


 相手は俺の怯える顔を見て、下卑た笑みを浮かべ、言い放つ。


「惑星ネクロポリスではお礼が返せなかったなぁ。だが、“火吹き山惑星ダンジョン“では違うぜ。たっぷりとお返ししてやらぁ! さあ、死にたい方法があれば、リクエストしな。出来る限り聞いてやるぜ」


 なんてことだ。コイツ、本当に俺を殺すつもりだ。アリスが言っていた通り、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“は惑星ダンジョンの治外法権を利用するつもりだ。惑星ネクロポリスの法律が効かないならば、俺を殺しても問題ないと判断してるぞ。

 お、おっかねぇ……。俺は“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“に恐怖した。

 いや、待てよ。俺にはアリスやクックロビンが付いている。一人だったらジャンピング土下座して命乞いするところだ。だが、頼れる仲間がいるんだ。アリスの強さは底が知れないし、クックロビンは……まあ、いいや。


 とにかく、このままただ殺されるワケにはいかない。それに、弱気は下手ファンブルを打つ原因になりかねない。よし、強気で押してやる!


「“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“!」

「あん!?」

「……さん」


 だめだ、おっかない。ムリムリムリムリ、あんな厳つい奴に敵う訳がない。俺が怖気付いていると、代弁するかの様にアリスは毅然と口を開いた。


「やい、この“ブサイクゴリラチキン野郎“。調子に乗らないでよね」

「て……テメェ、アリス。舐めてんのか」

「舐めてないわよ。アンタみたいなバイキンの塊みたいなキモい奴、舐めたら病気になっちゃうわ」


 おーーーい! アリス、止めろ、止めてくれ。なんだってそんなに煽るんだよ! 

 このままじゃ、また“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“がモヒカンと同じくらい顔を真っ赤にして……ない? 

 

 あれ? むしろ落ち着いた顔をしている。それに、悪意のあったイヤらしい笑みから不敵な笑みに変わっている。 


「アリス……昔からテメェは相手を煽るのが上手かったなぁ? そこで怒った相手を釣り出して、絡めとって倒す……お前の常套手段だ。だが、その手に乗るかよ!」


 なんと。この挑発はアリスの戦術の一つだったのか。そう言えば、オークランドで戦ったオーク、“アグナロック“との戦闘でも挑発を使ってたな。見事にアグナロックにも見破られていたけど……。

 ふとアリスの表情を見ると、少し戸惑いが見える。作戦を看破されたことに狼狽うろたえているのだろう。……いや、これは違う。勘違いされたことによる狼狽ろうばいだ。先ほどの挑発は素で“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“を煽っていただけみたいだ。アリスの奴、本当にアイツが嫌いなんだな。


「そ、そうね。よく見破ったわね。“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“! 流石、トップMovieCherなだけあるわ」

「アリスよォォ、俺を舐めるなよ」


 “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“がニヤリと笑みを浮かべる。アイツは直情型の粗暴な奴だと思っていたが、意外に頭も回るみたいだ。


 “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“は盗賊たちを縛る鎖を引っ張る。ジャラリと音がして鎖で喉を引っ張られた盗賊たちが軽く呻いた。


「さて、ここでお前たちを俺が始末してもいいが、それじゃぁ動画としてチト弱い。だから、最近飼いだしたが最初にお相手するぜ」

「ぺ、ペット……まさか」


 俺は視界に映る裸の盗賊たちを見る。まさか、ペットって……


「おい、帽子屋ハッター! 打撃・斬撃武器ミーリーウェポンを用意しろ」

「はーい、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“さーん。ちょっと待ってねぇ」


 暗闇からハスキーな可愛らしい声がする。その声の先から、パタパタと足音がして小さな女の子が姿を現した。


 しかし、“可愛らしい“のは顔だけで、全身は可愛らしいとは程遠かった。少女の身体には近未来感を感じさせる重厚な武装が施されており、右腕には謎の兵器を装着している。一目で“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“と同じくMovieCherだと分かった。


帽子屋ハッター、か。ちょっと面倒な奴がいるわね」


 アリスがボソリと呟く。アリスは帽子屋ハッターと呼ばれる少女を知っているみたいだ。口振りからすると、手強い相手だと分かる。


 帽子屋ハッターは何も無い空間から剣や斧、棍棒などの打撃武器ミーリーウェポンを取り出した。アリスも使っていたあの謎空間だ。いつも思うが便利だな。俺もあの謎空間を使いたいモノだ。


 俺の場違いな思いを放置し、帽子屋ハッターは可愛らしい声で“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“に話し掛ける。


「“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“さ〜ん。はい、これでいい?」

「ああ、十分だ。よし、原住民ども。この武器でアイツらを殺れ。一人でも殺した奴は解放してやる。奴らは三人しかいないからな。早い者勝ちだぞ」


 想像通り、ペットとは盗賊たちのことだった。なんて下衆なことを考えてるんだ。


「ほ、本当か! 本当にアイツらを殺せば解放してくれやがるのか?」

「ああ、いいぜ。俺はんだ。約束は守ってやる」


 “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の言葉を信じたのか、盗賊たちが武器を手に取る。盗賊たちの顔には恐怖、希望、戸惑い、焦燥、様々な表情が浮かんでいた。

 その内の一人は隠し切れない怒りを見せていた。男は鋭利な刺突剣を手に持ち、ゆっくりと立ち上がり、そして……


「アイツらを殺せば助けてくれやがるのか。だが……」


 男は剣を素早く“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“に向け、言葉の続きを放つ。


「テメェを殺せば手っ取り早いぜ! 死ね」


 言葉と同時に勢いよく“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の脇腹目掛けて刺突剣を突き出した。その勢いは剣士として高い技量を思わせる突撃で、容易に防げる攻撃ではない。それに、うまく隙を狙った点も良かったのか、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“は剣にまったく反応できていなかった。


 “ガイン“


 しかし、堅い金属を叩いた音がして、男の刺突剣はあっけなく弾かれた。


「な! なぜだ!?」


 男の戸惑いは最もだ。俺の目からしても、刺突剣は確実に“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の脇腹を突き刺したかに見えた。しかし、何も無い空間に突如壁が発生したかの様に刺突剣が弾かれたのだ。


 その時、アリスがボソリと呟いた。


「電磁バリアね。相変わらず、最新兵器で武装してるわね、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の奴……」


 電磁バリア? その兵器の得体は知らないが、男の刺突剣を簡単に弾くとは、相当に強固な武装みたいだ。あんな武装をしていれば、俺の剣なんかで“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“に勝てるとはまったく思えなかった。


「あ〜、それは契約……」

帽子屋ハッター、やめろ。まったくよぉ、原住民。飼い主に逆らうペットには、しつけが必要だな」

 “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“は腰から幅広の鉄塊を取り出した。あれ? アイツも打撃武器ミーリーウェポンを使うのか?

 と思ったら、少し違った。いや、大分違う。鉄塊は急速に赤みを帯び、強烈な熱波を放ち出した。


「ま、待て!」

「ペット用のお仕置き棒だ」


 “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“が鉄塊を振るうと、男の上半身が“ジュウ“と言う音と共に消滅した。まるで熱した鉄板に小さな氷を落としたかの如く、男は一瞬で上半身と共に命を溶かした。


「“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“さーん、お仕置きで殺しちゃったら、しつけになりませんよ〜」

「おっと、悪い悪い。やり過ぎちまった」

「だけど、動画的にはOKで〜す。“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“さん、流石ですよ〜」


 “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“と帽子屋ハッターは人の命をなんだと思っているんだ。如何に盗賊だろうと人の命をモノ扱いするなんて許せない。それに、こんな映像がMovieChとしてOKだって? こんな映像を喜んで見る惑星ネクロポリスの連中に、俺は少なくない怒りを覚えた。


「さぁ〜皆さ〜ん。頑張って殺してくださ〜い。では、レッツスタート」


 帽子屋ハッターの一言と共に、盗賊たちの首輪が外れた。手に武器を持つ盗賊たちは先ほどの光景が目に焼き付いているのか、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“や帽子屋ハッターに歯向かう素振りも見せず、俺たちへ武器を向ける。


 正直言うと、人を殺したくはない。しかし、この状況では殺らなければ、自分が殺られる。くそ、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の奴め!


「ゴンスケ! 戦闘開始よ。まずは能力表ステータスシートで相手の強さを確認して。無理せず勝てる相手を見つけて戦って」

 

 アリスの一言に俺は眼鏡型装置アイウェアを装着して、ボタンを押す。眼鏡型装置アイウェアに盗賊たちの能力ステータスが映し出される。手始めに一番近い三人の能力ステータスが映し出される。


==========

Name:ヌーマ

Class:剣士

Sex:男性

Age:32

Level:4

 Strength:1+2

 Perception:1+2

 Endurance:0+2

 Charisma:2+2

 Intelligence:0+2

 Agility:2+2

 Luck:0+2

Skill

 恫喝レベル1

Status

 恐慌

 契約補正

==========


==========

Name:ンガチャ

Class:斧戦士

Sex:男性

Age:33

Level:5

 Strength:4+2

 Perception:0+2

 Endurance:2+2

 Charisma:0+2

 Intelligence:0+2

 Agility:0+2

 Luck:1 +2

Skill

 罵声レベル1

Status

 発狂

 契約補正

==========


==========

Name:ヌルダ

Class:剣士

Sex:男性

Age:19

Level:2

 Strength:2+2

 Perception:0+2

 Endurance:1+2

 Charisma:0+2

 Intelligence:2+2

 Agility:0+2

 Luck:1+2

Skill

 威圧レベル1

Status

 絶望

 契約補正

==========


 見事なくらい精神状態が壊滅的だ。能力的にもオークランドで見たシセロやコレットちゃんと比べるまでもなくお粗末なモノだ。しかし、“+“ってなんだ?どうやら能力が補正されているようだ。“契約補正“とかいうStatusが関係しているのか?


 ふと、先ほど死亡した男が気になり、目線を向ける。死亡していても能力ステータスが現れた。一体どれくらいの強さだったんだ。


==========

Name:ターボ

Class:剣士

Sex:男性

Age:40

Level:19

 Strength:4

 Perception:4

 Endurance:4

 Charisma:5

 Intelligence:4

 Agility:6

 Luck:1

Skill

 洋剣レベル3

 恫喝レベル2

 部隊指揮レベル2

Status

 死亡

==========


 なんと、先ほどの男が盗賊団の団長“ターボ“だったのか。この能力ステータス、結構強いんじゃないのか? 他の盗賊たちと比べて頭が一つも二つも抜きん出ている。これだけ強くても“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“にまったく通用しなかったけど。

 しかし、ターボには“+“が無い。何故だろう、死んでしまったことが関係しているのか。Statusにも“契約補正“がないことから関連性がうかがえる。


 そう言えば、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の能力ステータスってどうなってるんだ? 俺はふと眼鏡型装置アイウェアを“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“に向ける。


 その動きを見ていたのか、クックロビンが珍しく大きな声を上げた。


「いけない、ゴンスケくん! “蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の能力ステータスを見てはダメだ!」


 え?と思った時には遅かった。眼鏡型装置アイウェアを通して、“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“の能力ステータスが流れ込んできた。


==========

Name:Seal

Class:Seal

Sex:Seal

Age:Seal

Level:Seal

 Strength:Seal

 Perception:Seal

 Endurance:Seal

 Charisma:Seal

 Intelligence:Seal

 Agility:Seal

 Luck:Seal

Skill

 Seal

Status

 Seal

※盗聴者向けの報復プログラム発動

==========


 “Seal“? 一体なんだ。まったく能力ステータスが見れない。それよりも“報復プログラム“ってなんだ? まずい、嫌な予感がする。


 俺の危機感より先にクックロビンが先に動いた。眼鏡型装置アイウェアを俺の目から取り外し、遠くに投げ捨てる。

 空中に飛んで行った眼鏡型装置アイウェアは急速に放電をし始めた。そして、まばゆい光を放ち、"ドカン"という爆発音と共に消滅した。


「な……? 一体何が」

「“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“は精神感応テレパス報復リベンジを脳内チップに仕掛けているんだ。対策無しで能力ステータスを確認すると、情報逆流データフィードバック装置デバイス破壊を行うんだ」


 なんと言う事だ。危なかった。あんな爆発を受けたら、顔が吹き飛んでいたところだ。

 もしかして、オークランドで俺がアリスの能力ステータスを確認しようとして止められたのも、同様に精神感応テレパス報復リベンジが掛けてあったのかも知れない。

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