第十二話 火山洞窟

 俺がクックロビンの行いに絶句していると、クックロビンは尚も話を続けた。


「でも、僕の薬はチューブラーベルやレッドサッカーには効果あるけど、ファイアワームには効果が無いんだ」

「え?」

「チューブラーベルはファイアワームの天敵だからね。今ならこの洞窟はファイアワームが住むには最適の場所さ。さっきゴンスケくんが見たモノもファイアワームだったんじゃないかな?」

「えぇ! じゃあ、アリスが危ないんじゃないのか!?」

「そうだね。アリスも暗闇から不意打ちをもらえば、少しマズイかもね」

「じゃ、じゃあ、助けに行かないと! クックロビン、行こう」

「えぇ……。別に気にする程じゃないと思うけど……ンゴッ!」


 ぬぅぼうとしているクックロビンの襟首を引き摺って、俺は暗闇の奥に進む。正直、いつファイアワームなる実験生物が襲い掛かってくるか気が気じゃない。しかし、アリスの身が危ないとなれば、躊躇ちゅうちょしている暇は無い。


「アリス〜〜〜! どこだ〜〜〜!」

「ゴ、ゴンスケ…くん。苦しい……もっと…もっと苦しめて……」


 クックロビンが奇妙な声を上げているが俺は無視する。今はアリスの安否確認が先決だ。万一のことがあったら、大変だ……まあ、生命保険があるから死んでも生き返るだろうけど。


「アリスゥううう! どこダァああ!」

「あ、ゴンスケ〜。ここ、ここ」


 アリスの呑気な声が聞こえる。よかった、無事だったか。辺りは殆ど真っ暗闇の視界不良の場所だ。俺はアリスの声を頼りに慎重に足を進める。


 一歩、また一歩、暗闇の中に足を伸ばす。足を伸ばす先はゴツゴツとした岩場だ。転んでしまえば、怪我をしてしまう。地面を踏む足がガツリと硬い音を出す。

 一歩、ガツリ。一歩、ガツリ。一歩、ガツリ。一歩、グニャリ……グニャリ?


「ウホアアァア!」


 得体の知れない物体を踏んでしまい、思わず絶叫した。あの感触は肉を踏んだ柔らかさだ。もしかして、ファイアワームか!?


「世界の理に掛けて……陽光サンライト!」

 

 突如として辺りに視界が広がる。アリスが何やら魔法を唱えたみたいだ。アリスを中心に眩い光が洞窟を照らし出した。


「これで辺りも見えるわよね? どう?」

「あ、ああ。すごいな。魔法で照明も出せるんだ」

「本当は暗視魔法がいいんだけどね。陽光サンライトは辺り全体を照らすから、位置がバレバレになっちゃうのよね」


 そうか。辺り一面が明るくなったら、相手からも見える様になってしまうからな。ん? だとすると、この状況はまずいんじゃないのか。盗賊のアジトで高々と照明を上げるなんて、“私はここです“と言っている様なものじゃないか。


 俺は事態のまずさと俺の不注意な行いが敵に位置を知らせる結果となったと分かり、今更ながら慌てた。


「ゴンスケ。慌てなくても大丈夫よ。ほら、周り見て」

「周り……? ゲ、なんだこれ」


 俺の足元を見ると、真っ赤な色をした大きなミミズが辺り一面に散らばっていた。ミミズはどれ一つとして動いておらず、死んでいることは明白だった。


「ファイアワームの死骸よ。誰だか分からないけど、これだけのファイアワームを倒すなんて、結構できる相手がいるわよ」

「そうなのか? でも、ファイアワームってチューブラーベルが天敵なんだろ。だったら、この火吹き山では弱い生物なんじゃないか?」


 先ほど、クックロビンが行っていた話を元に、俺は思っていたことを口にする。天敵がいるならば、ファイアワームはそこまで強い相手ではないと考えたからだ。しかし、アリスは首を振る。


「チューブラーベルはファイアワームの火炎弾があまり効かないから、天敵なのよ。むしろ、人間からすると、ファイアワームの方が厄介よ。口から吐く高熱の石礫いしつぶては、人間の肌に当たれば、重度の火傷を負ってしまうわ」

「そうなのか。うーん、一概に天敵がいるからと言って、強弱は決まらないモノなんだな」

「そうよ。ファイアワームは強敵なの。そんなファイアワームがこれだけいて全滅ってことは……奥にいる盗賊の連中は相当な強さね。よーし、ワクワクしてきわ」


 俺は全然ワクワクしない。むしろドキドキだ。ファイアワームとか言う化け物を簡単に殺す奴らが奥にいる。想像すだけで胃が痛くなってきた。


 俺の不安をよそに首を掴まれてぐったりしているクックロビンが呻きながら足元の死骸を見る。そして、何か気づいたのか、アリスを呼び寄せた。


「アリス……これを見てご覧よ」

「なに? ……これは……なるほどね」

「え? なに? 何が“なるほど“なの?」


 俺の疑問を無視して二人は何か合点が言った顔をする。一体何が分かったのだろうか。


「ゴンスケ。先に進みましょう。奥にいる奴は相当に楽しめるわよ」

「あ……ああ」

 

 俺は不安から声がどもる。この先の相手はアリスにとって、どれくらい強い楽しめる相手なのだろうか。それは、俺にとっては、全然楽しめない相手に違いない。


 その時、暗闇の奥から鎖を引き摺る音がした。


 “ジャリ……ジャリ……“


 音の大きさから、鎖は相当な大きさと分かる。大きな鎖で繋がなくてはいけない相手って……とんでもない奴じゃないか?もしかすると、盗賊たちが飼っている巨大生物なんじゃないか?


「……けて…」


 なにか声がする。?どう言う意味だ。


「……す……けて…」


 …?いや、もしかすると、この声は…


「た……す……けて…」


 !これは庇護の声だ。もしかして、先ほど聞こえた鎖の音は、盗賊たちに捕まって鎖で繋がれた人のモノだったかも知れない。盗賊の隙をついて、運よく逃げ出した人が俺たちに助けを求めているのだろうか。


 ならば、助けて上げなくては!俺は声のする方に走り出した。


 ……だが、俺の考えは甘いモノだった。声のする空間の奥から現れたのは、鎖に繋がれた人であることは間違いない。だが、それは囚われた人でなく、裸で首に鎖を繋がれた盗賊たちだったのだ。


「た、助けてくれ…お願いだ。俺が悪かった。頼む、だから助けてくれ」


 必死に懇願する盗賊たちは見るも哀れな姿をしている。そして、俺は盗賊たちの哀れな姿より、その奥にいる一際大きな男に目を奪われていた。


「ヨォ、地球人。こんなところで会うとは奇遇だな」

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