第十話 魔法触媒射出器

「アリス。“ 蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“がどうかしたのかい?」

「ええ。ゴンスケはこの“火吹き山“で“ 蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“をぶっ飛ばす動画を撮るのよ。そのために、まずは盗賊を始末してゴンスケのレベルをあげなくっちゃ」

「ああ。そういうことか。ゴンスケくん、トップMovieCherの“ 蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“を倒すなんて、無茶するね」

「むむむむ、無茶っていうか、無理なんですけど! だって、“ 蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“って最新兵器で武装してるんだろ。こんなチンケな剣や盾でどうやって勝てってんだよ」

「大丈夫よ、ゴンスケ。アンタにとっておきの魔法があるわ」

「ま、魔法? そ、そうだ。魔法だ。魔法触媒射出器マジックランチャーをもらったんだ。これを使えば、“ 蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“にも勝てるのか?」


 俺は盾の裏側に装着した魔法触媒射出器マジックランチャーと呼ばれる機械を見る。手で触ると低いうねりを感じる。少しばかり古めかしいが、きちんと動いているみたいだ。


 俺はわずかばかりの希望を感じてアリスに向き直る。さあ、アリス。とっておきの魔法を教えてくれ。


 と、思ったけど、これ、どうやって使うんだ?


「アリス、これ、どうやって使うんだ?」

「あれ? ゴンスケ、魔法触媒射出器マジックランチャーを使った事なかった?」

「無いよ。魔法触媒射出器マジックランチャーなんて、“火吹き山“に行く前にもらったばかりだからな」

「じゃあ、教えてあげるわ。魔法触媒射出器マジックランチャーの横にあるボタンを押して」

「こうか?」


 魔法触媒射出器マジックランチャーの横にある赤いボタンを押してみる。すると、機械は鈍色にびいろに輝き始めた。


「おお!?」

「じゃ、次ね。ゴンスケの魔法触媒射出器マジックランチャーは旧式だからブレインインターフェースは使えないから……サウンドインターフェースでシステムリンクしてね」

「システムリンク? なんだそれ」

「話すと長くなるから、ざっくり話すと、惑星ダンジョンに張り巡らされた魔法システムに魔法触媒射出器マジックランチャーをリンクさせるの。すると、魔法触媒射出器マジックランチャーの効果が強化されて魔法が使えるようになるの」

「うーん、仕組みが分からんなぁ……」

「ま、仕組みは結構難しいから追々話すとして……今から言う言葉を唱えて」


 そう言うと、アリスは両手を重ねて目を閉じ、言葉を紡いだ。


「世界の理システムにリンクアクセス……リンクモジュール、火神の加護を我が手に」


 アリスが言葉を唱えると体から白い光が立ち上がった。光に包まれる彼女の姿は荘厳さを感じさせる。いつもと違うアリスの雰囲気に、俺は少しドキリとした。


「どうしたの? さあ、唱えてみて」

「あ、ああ。えと…… 世界の理システムにリンクアクセス……リンクモジュール、火神の加護を我が手に」


 俺の言葉に反応して、盾に装着した機械が強く光る。アリスと異なり鈍色の光なのは、旧式だからなのだろうか。光は徐々に収まり、いつしか淡く光るのみとなった。それと同時に、“リンク成功です“と言う声が機械から響いた。


「はい、これで魔法が使えるようになったわ」

「おお! これで魔法が使えるのか。でも、どんな魔法が使えるんだ?」

「使える魔法は惑星ネクロポリスで購入した魔法データと魔法触媒次第ね」

「また金か……」


 惑星ネクロポリスはとにかく金が掛かる。レベルアップも金次第だし、魔法も金次第か……。俺はガックリと肩を落とした。だが、アリスの次の一言が俺に希望を持たせた。


「まあまあ、ゴンスケの魔法触媒射出器マジックランチャーには以前私が使っていた魔法が入ってるわ。それなりのモノがあるから、後で確認して」

「なんと。それは嬉しいな」

「それに、お金以外に魔法を覚える方法もあるわ」

「え? マジで?」

「ええ。同じ魔法をたくさん使えば、データ蓄積で派生する魔法を覚える場合もあるわ。他にもリンクボーナスで特殊な魔法を使える場合もあるわ」

「リンクボーナス? そう言えば、火吹き山の説明で“火神の加護“について何か書いてあったな。さっきのリンクモジュールってのが、それか?」

「ええ、そうよ。この火吹き山のリンクボーナスは、火炎系魔法の強化ともう一つ、特殊魔法を一つ使えるのよ。その特殊魔法が“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“をぶっ飛ばす切り札になるわ」


 なんだって? 切り札だと? 俺は魔法触媒射出器マジックランチャーに視線を落とす。よーし、なんだか希望が出てきたぞ!


「その名も自己犠牲魔法よ。その魔法を使えば、自分の肉体を使って核融合を発生させて大爆発を起こすのよ」


 ん? なんだろう。アリスの言っている魔法の効果がひどく不穏な感じがする。


「ただ、この魔法の欠点は自分が絶対に爆心地になっちゃうの。使用者は当然死亡するし、装備もバラバラになっちゃうわね」

「は……? ちょ、ちょっと待って。自己犠牲魔法って……もしかして…」

「さあ、ゴンスケ。自己犠牲魔法で“蛇馬魚鬼ジャバウォーキー“と一緒に自爆して。あ、私たちは爆発に巻き添えにならないようにゴンスケには近づかないから、頑張ってね」

「人間爆弾かよ! 嫌じゃ、ボケェ!」


 俺の拒絶にアリスは“なんで?“と言った顔をする。一方のクックロビンはエールを浴びる様に飲み、気を失っている。

 この二人との先行きに俺は不安を覚えてきた。

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