第十七話 拳で語る

 どうしよう。このオーク、子供だけど強そう。しかも、ナイフで足を刺されているから俺は走るどころか歩くこともままならない。


 それどころか立っているのもやっとだ。アリスが持つ回復アンプルがあれば、すぐに傷も治るだろうけど、アリスは今はいない。


 ここは俺だけでなんとかするしかない。


「ザア、スグにラグにしてヤル。フンタイ族四天王グロゴス様にカナウとオモウナヨ」


 四天王グロゴス?……ってことは、こいつ、ただのオークの子供じゃないのか。いや、見た目が子供なだけで中身は大人なのか?


 どちらにしても危険な相手だ。一体どうしようか。


 そうだ。こんな時こそ相手のステータスをみよう。相手の能力を知れば、少しは対策が練れるかも知れない。


 俺はボタンを押してグロゴスの能力表を表示する。ターゲットを示すアイコンが表示され、グロゴスの能力表が眼鏡型装置アイウェアに映される。

 

 相手の弱点を探るべく“Ability“を見る。なんだかシセロを一回り弱くした感じだ。こいつが弱いのかシセロが強いのか、よく分からん。弱点となる項目を探すと、Enduranceが0でかなり低いと分かった。

 次に“Status“を見ると、“傲り“とあった。傲り、か。傲りというのは、俺を侮って傲慢になっているようだな。そう考えると、あまり良い意味とは言えないな。

 よし、この二つを狙えば勝ち目があるかも。まずはEnduranceだ。Enduranceを狙うんだ。…… Endurance……Enduranceってなんだ?


 あかーん。なんで英語で書いてあるんだよ。よく使われる単語なら良いのに、Enduranceなんて使ったことないぞ。全部日本語にしろよ。


 と、考えていたら、俺の願いが通じたのか文字が書き換わった。各単語に訳がついたのだ。おお!これは脳内チップの翻訳機能のおかげか。助かるぜ。


 Enduranceは“耐久性“と書いてある。なるほど、あいつは耐久性、つまりヒットポイント的な値が低いのだな。

 

 ならば、一撃でも当てれば活路を見出せるかも知れない。

 

「ナニを考えテル。シネ!」


 俺が能力表の文字に四苦八苦している隙に、グロゴスがナイフを投げてきた。

ナイフは寸分違わず俺の喉元目掛けて飛んでくる。ぬぉ!速い!


 しかし、その軌道は俺の想定の範囲内だった。


 俺は剣をバットの如く振り回し、ナイフを弾く。ナイフは金属音を鳴らし、あらぬ方向に弾かれていった。


 グロゴスはまさかナイフが弾かれると思っていなかったらしく、驚きの表情を見せた。


「ナニ! オデのナイフをハジイタ!?」

「へん。お前は俺なんか簡単に殺せると思ってるだろ。だから、さっきと同じ様に喉を狙うと思ってたぜ」


 グロゴスの表情に動揺が見れる。俺が奴の心理を読んで、攻撃を防いだことが気になっている様だ。と、言っても俺も確証があった訳じゃない。

 

 グロゴスが喉を狙ってくると考えた理由は、能力表にあったStatusが“驕り“とあったからだ。


 相手が驕っているならば、俺をあなどっているのだろうと考えた。

 傲岸不遜な奴が侮っている相手に慎重に対処することはないだろう。ならば、先ほどの村人を殺した時と同様に一撃で殺しにくると考えたからだ。

 でも一撃で殺すならば、頭や心臓を狙う可能性も否定できない。でも、俺は頭に鉄兜を着けているし、服も鎖帷子くさりかたびらで守っている。ならば、唯一守られてない喉を狙いに来るだろうと当たりをつけた訳だ。


 グロゴスは俺が意外にと勘違いしているのか、様子をうかがっているみたいだ。Statusも“注意“に変わっている。


 よし、ならばこちらから仕掛けてカタをつけてやる。


「じゃあ、次は俺の番だ。食らいやがれ!」

「ンな⁉︎」


 俺は剣をグロゴスに目掛けて放り投げた。しかし、投げたは良いが、あさっての方向に飛んで行った。

 グロゴスは俺の行動が想定外だったのか飛んでいった剣に目を奪われていた。


「……ナニをして…ハッ!?」

「もらった!」


 ムチャクチャ痛い足を無理やりに動かして俺はグロゴスにタックルをぶちかました。

 体格差の違いからグロゴスはほとんど抵抗できずに地面に叩きつけられる。俺はそのままマウントポジションを取ってのし掛かった。


「キ、キザマ!」

「筋肉〜〜パンチ!」


 耐久性が低いならば、拳でも十分だ。さあ、俺の鍛え上げた肉体から放たれる拳を喰らえ。

 俺の拳はグロゴスがとっさに突き出した手を弾き、顔面を捉える。強い衝撃からグロゴスはうめき声をあげた。


「ゴ、ゴノヤロ…よくも……」

「パンチ、パンチ、筋肉パンチ!」


 俺は続け様に拳を繰り出す。体格差が違うのだ。グロゴスには防ぐ術も無かった。

 

「ゴ、ゴノ……ウラギリモノめ…」


 捨て台詞を吐いて、グロゴスは気を失った。俺は軽い鈍痛がする拳を見つめ、助かった安堵となんとも言えない罪悪感を感じていた。

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