第十六話 裏切り者
俺は周りの喧騒をよそに剣を持って立ち尽くしていた。
戦場の真っ只中に来たが、やはり剣で斬り合うなんて想像だに出来ない。それに、オークって結構ガタイがいいからな。俺でも負けちゃいそう。
どうしたものかと
「おい、ゴンスケ。お前も早く戦え。なんだ? 今更仲間のオークを殺すのが怖いのか!?」
仲間を殺すのが怖いと言うより戦うのが怖いんだけどなぁ。……そもそも、俺はオークと違うし。
「ほら、グズグズするな。行くぞ」
有志に急かされ、俺は渋々同行することにした。気が進まないが、有志は先頭で殺気立ってる。下手に断ると裏切り者扱いされて俺の立場が悪くなってしまう。
重い足を上げたその時、何かに蹴つまずいてしまった。体勢を崩して転びそうになりながら、とっさにバランスを取る。
いったい何に引っ掛かったんだ、と足元見る。すると、オークの子供が地面に伏して倒れている。
「……う…」
オークの子供はわずかに呻き、薄らと目を開けた。見た限りだと怪我もしておらず、何かの拍子に気を失ったと思われる。俺はこんな小さな子供も巻き添えになっていることに薄寒さを感じた。
オークの子供はぼんやりとした視線を俺に向ける。俺は心配になり、子供に声を掛けた。
「お、おい。お前の両親は……どこ行ったんだ?」
俺の言葉が通じなかったのか、子供はキョトンと虚を突かれた顔をする。
「オマエ……オーグ? に、ニンゲン?」
「俺は人間さ。俺の顔を見ろよ、人間だろ? 体格はオークに似ているけど」
俺はオークの子供に自身の顔を見せる。俺には牙も生えてないし、鼻も豚みたいに潰れてない。体格だけがオークに似てるのだ。
だから、顔を見てもらえば一目瞭然なのに……なのに、全員オーク扱いしてくるのは納得がいかない。
俺がオークの子供を落ち着かせようとしている時、有志も子供に気づいたのか大声で叫んだ。その声音は子供を気遣う色はなく、ただ怒りの色のみが耳に響いた。
「おい! その子供はなんだ!? オークの子供じゃないか」
「あ、ああ。だけど、子供なんだ。許してやってくれないか?」
「バカヤロウ。今更オークに鞍替えするつもりか!? オークの子供だと言っても……」
と、有志が言い終わる前に事態が急変した。突如、太ももに強烈な痛みが走った。
「痛ッテェエエエ!」
なに? 何が起きたの? 突然のことで頭がついていかない。
ジンジンとする痛みの先を見ると、短剣が深々と刺さっていた。ポタポタと血が滴る短剣の柄を小さな手が握っていた。俺の太ももを刺したのは、オークの子供だった。子供は憎々しげな顔で俺を睨みつける。
「な……な……!?」
「くそ! だから言わんこっちゃない」
有志の男が俺に近づこうと駆け出してくる。しかし、オークの子供は俺の足からナイフを抜き取り、返す刀で有志に投げつけた。
“ビュゥ“という風切り音とともにナイフは真っ直ぐ飛んで行った。“ずぶり“とした感触が遠目でも分かるかの様に、有志の喉に深々と突き刺さった。
「グフ……」
男は軽くうめくと、前のめりに力なく倒れ込んだ。
突然の状況の変化に頭がちゃんとついて行かない。わかったことは、俺の足を刺し、男を殺したのはこのオークの子供だということだ。ヤベェ……子供のクセしてなんてヤツだ。これがオークなのか? バリバリの戦闘民族じゃないか。
オークの子供は俺から距離を取り、どこから取り出したのか新たなナイフを手に持っている。憎悪がこもった瞳を俺に向け、気炎を揚げて罵りはじめた。
「ギザマ、オーグのクセに人間のテダスゲをして……ゾゴまでジデタズガリタイカ! このヒギョウモノメ!」
「違う違う、さっきも言ったけど、俺は元から人間だ! それに、いきなり足を刺すのは卑怯じゃないのか?」
俺の言葉にオークの子供は“ペッ“と唾を吐き捨てる。
「卑怯ダト? フン、人間ドモニ言ワレル筋合いナドナイわ。イキナリ奇襲をカケテ来る卑怯者はドチラダ!」
う……返す言葉がない。確かに、アリスはオークたちにいきなり切り込んでいったからな。でも、思いっきり名乗りをあげてたから、奇襲とはちょっと違う気もするけど。
オークの子供は尚も言葉を続けて怒りを打つける。
「アオイアグマが十年ブリにモドッテきて、コノ集落はオ終イダ……ダガ、ホコリタカいフンタイ族はサイゴマデ諦めん! 生キ残リタイカラとイッテ、ギザマミダイに魂マデは売ラン。ウラギリモノはゴロず!」
俺が裏切りモノ扱いか。しかし、裏切りモノは殺すって、穏やかじゃないな。
しかし、俺もただ殺される訳にはいかない。自分の身は自分で守る!俺は剣の柄を握りしめ、握りしめ……握り……
剣なんか使ったこと無かった。
剣ってどうやって持てばいいんだ? どうしよう。俺はとりあえずバットを持つ要領で剣を持ってみた。
「フハハ。オマエは剣も持ッダごとナイノガ?」
やっぱり違ったみたいだ。
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