第十四話 能力

「なんだこれ?」

能力表ステータスシートよ。人が持つ能力を数値化した表なの。ま、完全に表してる訳じゃないけど、十分に参考になるわ」


 おいおい、おそろしくゲームっぽくなってきたな。ステータスって人の能力を数値化なんて簡単にできるのか。 


 俺の疑問を察したのか、アリスが話を続ける。


「当然、これも科学の一端よ。私たちの能力は脳内チップや表情、身体的特徴、息づかい、心音や体温も能力に影響するのよ」

「ほーん。じゃあ、ここに表示されてる表はアリスの能力って訳か……。って、なんも書いてないじゃん」

「誰が能力をそのまま見せるものですか。いい? 能力がバレるということは、自分が不利になることと同義なの。“彼を知り己を知れば百戦危うからず“と言うでしょ? 相手の能力は自分の能力把握と同じくらい重要なのよ」


 “彼を知り己を知れば百戦危うからず“か。まさかアリスから孫子の言葉が出るとは思わなかった。本当にアリスは地球が好きなんだな。……ん? 

 アリスの能力表ステータスシートの下に何か書いてある。なんだろう。“この先を見た者は……“


 ガシリと手を掴まれた。俺は驚きからハッと顔を上げると、口に笑みを称えながら、目元が笑ってない形相のアリスがいた。


「な、なんだ? どうした?」

「それ以上はダメよ。絶対にダメ。読んだら


 俺はアリスの言葉に、ゴクリと唾を呑む。オチャラケ具合が消えている。俺は背筋にヒヤリとした汗を感じた。

 よく分からんが、止めておこう。死んでも生き返るらしいが、敢えて死ぬ必要はない。


 アリスの能力表ステータスシートは諦めるとして、俺は他の仲間の能力表ステータスシートを見ることにした。


 そこでハタと別の疑問が浮かんだ。


「なあ、この星の住人たちってただの原住民だろう? じゃあさ、脳内チップがないんじゃないの? それだと、能力表ステータスシートは見えない気がするけど……」

「そうでもないわよ。彼らの脳には脳内チップに代わる代替品が生成されているの。その代替品から能力を割り出すのよ」

「代替品を生成? なんだそりゃ?」

「彼らは重金属を体内に取り込んで、自動的に脳内チップ相当の装置を作り上げているの。その装置があれば、能力表ステータスシートも見えるし、魔法も使える様になるのよ」

「なぬ? 重金属を取り込んで装置を作り上げる? ただの生き物にそんなことできるのか?」


 俺は当然の疑問を口にする。精密工場で作る装置が脳内で作れるものだろうか。そもそも、人に限らず、生き物が体内で稼働する装置を作れるとは考え難い。


「詳しくは私も知らないわ。ただ、惑星ダンジョンにいる生き物は、原住民だろうと実験動物だろうと殆どのモノが遺伝子改造を施されている、と言う話よ」

「遺伝子改造? 遺伝子を組み変えただけで、脳内に機械ができるのかよ?」

「ま、私たちの科学力なら当然ね。それに、地球でも遺伝子組換とかやってるでしょ? ほら、CRISPR/Cas9クリスパーキャスナインとか聞いたことない?」

「知らない……」


 もはや驚きを通り越して呆れるしかない。遺伝子レベルでの人種創造デザインヒューマンを平然とやっている倫理観もさることながら、技術力の高さも俺の想像を絶している。

 俺はアリスの言葉にただうなずくことしか出来なかった。


「あ、あとね。原住民たちの食事はあんまり摂取しないでね。たくさん食べると、重金属中毒起こしちゃうから」

「……」


 アリスさーん、もっと早く言ってよ〜。俺、野菜スープを毎日食べてたんですけど〜。

 そう言えば、アリスの奴、もてなしを受けても決して食事には手をつけてなかったな。クソゥ。


「ま、気にしない、気にしない。ネクロポリスに戻ったら重金属除去メタルアウェイの施術をすればいいから、ね?」

「これ以上、おかしなことが起きないことを俺は願うよ」


 アリスの言葉を信じて俺は気を取り直す。いまさら悔やんでも重金属は体の中に溜まってる。それに“たくさん食べる“場合と言っていたので、二日間程度の食事ならば問題ないだろう、多分……。多分と思わないとやってられん。


 それよりも能力表ステータスシートを確認しよう。分からないことに頭を悩ますより、目の前の出来事に集中するのだ。


 俺は、眼鏡型装置アイウェアのボタンを押す。すると、何もないはずの空中に表が浮かび上がってきた。表は英語と日本語が混じり合った内容になっており、"Sex"や“Age“と言った見た目で判断できる項目の他に、"Aptitude"、“Abitilty“や“Skill“、“Status“と言った内面に起因してそうな項目があった。俺は目を凝らして、能力表ステータスシートを確認する。


==========

Name:シセロ

Class:弓使い

Sex:男性

Age:29

Level:9

 Strength:2

 Perception:5

 Endurance:2

 Charisma:3

 Intelligence:2

 Agility:5

 Luck:1

Skill

 和弓レベル2

 斥候レベル1

Status

 憧憬

==========


==========

Name:コレット

Class:火炎魔法使い

Sex:半陰陽

Age:17

Level:4

 Strength:1

 Perception:1

 Endurance:0

 Charisma:2

 Intelligence:6

 Agility:1

 Luck:2

Skill

 火炎魔法適性レベル1

 戦意維持レベル1 

Status

 覚悟

==========



 まず、俺はシセロの能力表ステータスシートを見る。そこには、“Age“が29歳とある。なるほど、俺より年上だな。"Sex"は……性別だな、シセロは男性か。そりゃそうか。


 "Aptitude"とか言う項目には“弓使い“とある。職業なのか、これ? 確かに奴は弓を持ってるからな、やっぱりこれは職業だな。あん? "Level"とか言うのもあるな。“Level“が9……か。高いのか、これ?


 “Ability“は能力という意味だったな。この項目が強さの本質に当たるのかな? 

 この“Ability“は幾つかの細かい項目に分かれている。“Strength“やら“Intelligence“とかたくさん項目がある。しかし、英語があまり得意でない俺にはよく分からん。“Strength“は力だろう。それだけは分かる。数字は2か……。パッとシセロを見ると、しなやかな体つきをしているが、そこまで筋肉量があるとは思えない。うーん、ベンチプレス70から80kgってところか。まあ、筋トレしてない人より少し力がある程度かな。


 しかし、"Perception"と"Agility"の値が5と高い。この項目は分かる。確か"知覚"と"敏捷"って意味だったかな。Strength基準で考えると、なんとなく強さが分かる。俺の見立てでは“2“くらいがちょっと鍛えたレベルだ。となれば、5とかになると上級者になるのだろうか。


 後は"Skill"と"Status"か。"Skill"には和弓レベル2とか斥候レベル1とかあるな。“Skill“は技術の意味だから、まんまだな、これは。弓と偵察の技術があるのか。ここにもレベルがあるな。ここだけ日本語か……違いが分からん。


 “Status“は憧憬か。“Status“は状態という意味だったので、“憧憬“ということはシセロが誰かに憧れを抱いているんだな。シセロが憧れを抱いている人物……アリスか。


 次にコレットちゃんを見てみる。“Level“は4で、“Age“は18歳か……18歳…。条例的にセーフだ。"Aptitude"が魔法戦士とある。うーん、見た感じの雰囲気だと“魔法“は分かるけど、“戦士“かなぁ?


 “Ability“はあんまり高くない。“Intelligence“が“6“とかなり高めだが、残りは0とか1ばかりだ。“0“って表示されているけど、能無しって訳ではないだろうな。なんだろう、ど素人ってことかな。


 “Skill“は火炎魔法適性レベル1とか鈍器レベル1とか書いてある。ほほう、コレットちゃんは火を使う魔法が得意なのか。鈍器とか言う物騒なスキルはコレットちゃんの見た目と反しているな。あの杖で相手をぶん殴るのか。


 “Status“は覚悟とあるな。この戦いに向ける想いが現れてる。


 結局、比較する基準がないことと、英語で書いてあるから理解できない項目が多く強いのか弱いのかよく分からん。

 それにSkillも内容が書いてないから、文字だけでは効果が読み取れないぞ。


 しかし、シセロの強さの一端を知る俺からすると、なんとなくだけど強さが分かる気がする。なるほど、村一番の弓使いくらいの強さになると、能力もあの値になるのか。コレットちゃんは戦闘経験がないとのことなので、シセロと比べて相当低いな。


 二人の能力を確認した後、俺は他の連中の能力表ステータスシートを見る。しかし、シセロほどの能力は持ち合わせていなかった。むしろ、コレットちゃんと同等または少し劣る者が大多数だった。あの二人、村で相当なやり手なんだな。


 その時、俺はふとコレットちゃんの“Sex“の欄が他と違うことに気づいた。彼女の欄には“半陰陽“と書いてある。あれ? あれ? あれれれれ? おい、ウソだろ?コレットちゃん……


「ねぇ、ゴンスケ。なに落ち込んでるのよ」

「何でもねぇよ……」


 淡い期待を持っていた俺はショックを隠しきれなかった。


 俺はコレットちゃんを見る。コレットちゃんも俺を見て笑顔で返す。あんな姿形だけど、半陰陽……つまり両性具有だったなんて。


 可愛い顔しているが……可愛い顔しているが……可愛いからいいか。別に半陰陽だろうと何だろうと構わない。可愛いは正義だ。俺はコレットちゃんを見て、ニヤニヤと耽美な妄想にふける。


 そのかたわらでは、アリスとシセロが何やらヒソヒソ話をしているのが視界に入った。だが、俺は妄想に忙しいのだ。二人に構っている暇は無い。


「……アリス様。あのオーク、一体何を考えてるのでしょうか」

「知らないわよ。ゴンスケのやつ、落ち込んだり元気になったり気味が悪いわね」

「やはり殺しておくべきではありませんか? 集落に行ってから裏切られると厄介です」

「大丈夫よ。裏切りは絶対にないから。それだけは安心して」

「はぁ、そうですか」

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