第十一話 純朴な美少女
結局、オーク討伐はアリスと俺、シセロ、それに街の有志を何人か募って行くことになった。出発は準備もあるため、明後日の早朝とのことだ。
俺とアリスは出発までの滞在場所として、村の外れにある一軒家をあてがわれた。正しく言うと、アリスは一軒家、俺は馬小屋で寝泊りすることになった。
ひどい! ぜんぜん待遇が違う。俺がオークじゃないって誤解が解けてないみたいだ。アリスもなんか言ってくれよ!
ご飯の扱いもひどかった。アリスは豪華な食事を給仕が用意してくれている。俺は欠けた茶碗に野菜クズをクタクタに煮込んだクソ不味いスープしかくれない。
なんて差別的な奴らだ。こんな村、滅んでしまえ。
俺が心の中で
ん? また村人が石を投げにきたか?そう思って目を向けると、そこには
「おっふ…」
黒髪の太い眉毛で化粧気が無い素朴な感じだ。だが、俺には分かる。それぞれのパーツは悪くない。磨けば光るタイプだ。
野暮ったい村人の服に隠れて一見すると体型も微妙に見える。しかし、時折、姿勢を変える時に、隠しきれないスタイルの良さがちらりと出てくる。ふふふ、俺の目は誤魔化せん!
オドオドしながら、こちらを見ている姿も何だか俺の心にヒットするぞ。
俺は渦巻く感情から美少女に言葉を掛ける。ちなみに、( )内の表記は相手が実際に聞こえた言葉だ。翻訳機能が優秀なのか無能なのかよく分からん。
「ねぇ、キミ。どうしたの?(キミ、ドウジダノダ)」
俺がゆっくりと丁寧に美少女に話し掛ける。美少女はビクりと体を震わせ、咄嗟に逃げようとする。
「あ、ちょっと待って。大丈夫! 俺は何もしないよ。ほら、見て(ちょっどまっでグレ。大丈夫! おでは何もできない。ほれ、見ろ)」
俺は首につけられた鎖を見せる。村人、というよりシセロの奴、俺の首に鎖をつけてきたからだ。
ジャラリと音を立てる鎖は俺から抵抗する術を奪う獣牙の如く、無慈悲な輝きを見せる。その鎖を見て安心したのか、美少女は足を止めて恐る恐る俺に向き直った。
「あ、あの……」
美少女が何か言わんとしている。この村で俺に用がある奴は、不味い飯をくれる奴、石を投げに来る奴、それに唾を吐き掛けて来る奴しかいなかった。
だが、美少女は違う、まだ分からないけど、絶対に違う……はず。
「あの、オークさん。アナタも討伐隊に参加するんですか?」
「ゴンスケでいいよ。そうだよ。俺も討伐隊に参加するよ(ゴンスケだ。ゾウダ。オデも討伐隊に参加ズル)」
「あ、えと。ゴンスケさん。あの、どうして……オークを退治するのに、オークであるゴンスケさんが参加するんですか?」
俺はオークじゃないってのに……本当に村人たちは疑い深い。
「俺がオーク討伐に参加しちゃぁ、マズいかな?(オデがオーグ討伐に参加ズルのが、マズいか?)」
「え、だって…オークは仲間じゃないんですか?」
「だから違うって。それに、俺はオークじゃないんだけどなぁ(今はヂガウ。ソデに、オデはただのオーグじゃない)」
「え? それってどういうことですか?」
「村人が困っているんだ。ならば、助けない訳には行かない……同じ人間だからね。それに、キミみたいなキレイな娘が悲しい目に遭わないためにも、俺は戦うのさ(ゴマっている村人をタズケレバ、オデも人間になれるかもしれない。それに、オマエみたいなムスメはオーグの大好物だ。食べられないようにオデが守ってやる)」
「え……? わ、私がですか?」
美少女が怯えた表情をする。ん?何か変なこと言ったかな?
「あの、私もオーク討伐隊に志願したんです。その、私って、オークの目から見て、そんなに……おいしそうなんですか?」
おいしそう? 何だか変な言葉の捉え方だな。美的感覚の違いなのか、この村ではキレイをおいしいと言い換えるのかな。
「ああ。多分、おいしいんじゃないかな(おいしいに決まってる)」
「ヒッ……ゴンスケさんも、そう思うんですか?」
「え? うーん。その、おいしいってのが、どの程度を指しているかよく分からんけど、キレイなのは確かだよ(ウホ、おいしそうだが、オデは興味がない。だが、お前はキレイだ)」
「キレイ…? 私が?」
今度は頬を赤らめた。よかった、キレイは伝わったみたいだ。
「あの、私、オークってどんなのか、ちゃんと知らなくて。その、だからゴンスケさんを見にきたんです。私、もっと怖い存在かと思っていましたけど、ゴンスケさんは、その……そうは見えないですね」
オークの醜悪な顔と一緒にされてもなぁ。俺が似ているのは体付きだけだろう?この村人たちはうっかりが過ぎるぞ。
「私、コレットと申します。あの、シセロ兄さんが無礼な真似してすいませんでした。明日は頑張りましょう!」
それだけ言うと、美少女ことコレットは去っていった。俺は最後に言った一言だけ気になりポカンと口を空ける。あの娘、シセロの妹だったのか……
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