第十二話 魔法の存在
オーク討伐当日、村の入り口でシセロと他の有志たちと待ち合わせることになった。何故か俺は鎖を外してもらえず、アリスのペットが如き扱いを受けている。ちくしょう!
「フン。お前が暴れたり逃げ出さない様に首に鎖を付けているんだ。アリス様の温情に感謝しろよ?」
「くそ、こいつ。ずっと俺を目の敵にしてやがる」
シセロの発言に俺はボヤキを入れる。これは一生改善することはないだろうな。ヤレヤレ…
俺が諦観して下を向いていると、コレットちゃんが話し掛けてきた。
「ゴンスケさん。今日はよろしくお願いします。何かあったら、守ってくださいね」
「ム……」
昨日と打って変わって白い装束をまとい、髪も整えている。おうふ、こちらの姿もいいなぁ。
俺がコレットちゃんに見惚れていると、シセロが顔を赤くしたり青くしながら、急いでこちらに駆けてきた。忙しい奴だな。
「コレット! 離れろ。おい、オーク! 貴様、妹に何をした!」
「に、兄さん! ゴンスケさんに悪いよ……私、何もされてないし、何もしてないよ」
なんだ。シセロの奴、俺がコレットちゃんに変なことをしていると勘違いしたのか。まったく、面倒な奴だな。いい加減に俺がオークじゃないと気づいて欲しい。
シセロは真っ赤な顔をして俺をひとしきり睨みつけると、今度は視線をコレットちゃん向けた。そして、今度は顔を真っ青にしている。信号か、こいつは。
「コレット、お前なんだ、その格好は? もしかして、お前も……」
「そうよ。私も討伐隊に参加するの」
「なんだと⁉︎ お前じゃ無理だ、大人しく村にいろ!」
「いやよ。私だって、お父さんやお母さんの仇を討ちたいもの。それに、私は魔法が使えるわ。絶対に足手まといにならないわ」
何だか悲しい過去があるみたいだな。両親の仇か。なるほど、シセロがオークを憎む理由が分かった気がする。
それよりも、魔法? 魔法だって? この世界、魔法があるのか?
空飛ぶ車やワープポータルとか科学技術万歳な世界観だったのに、急にオカルトな世界になってきたぞ。
「魔法が使えてもダメだ。それに魔法ならアリス様がいるんだ。お前程度の魔法なぞお呼びでない」
「でも! アリス様しか使えないじゃない。もう一人いた方が絶対にいいわよ。ほら、魔法触媒だってたくさん持って行くし」
なんだって? アリスも魔法を使えるとは驚きだ。俺は二人のやりとりを置いといて、アリスに近づきヒソヒソと聞いてみた。
「なぁ、魔法って言ってるけど、本当か? アリスも魔法が使えるのか?」
「ん? ええ。使えるわよ。実際には魔法みたいなものなんだけどね」
「魔法みたいなもの? 魔法とは違うのか?」
「ま、そうね。うーんとね、簡単に言うと、
「……俺からすると、魔法と違いねぇな」
「本質は違うわよ。
「知らねえ……」
聞いたことが無い科学だな。でも、思考による物理的作用ってことは、なんとなく分かる。サイコキネシスとかそんなものか? 疑問は残るが、考えても俺の知識ではこれ以上結論が出ない。続きを聞いてみよう。
「うーん。物理的作用ってことは、あくまで科学の一端なのか?」
「そういうこと。と、言っても思考での物理的作用はそんなに大きくないわ。だから、作用を大きくするための触媒が必要ってわけね」
「触媒って、化学実験とかで使うやつか?」
「そうそう。魔法触媒が有ると無いとでは大違いなのよね」
フゥン。なんか科学兵器を持っていった方が効率的な気もするが、魔法には魔法の特性があるんだろう。
俺が疑問に思っていると、アリスが俺の心をくすぐる一言を発した。
「あ、オーク討伐が終わって、ネクロポリスに戻ったらゴンスケにも魔法ができる
「マジか! 俺でも魔法使えるの?」
「できるできる。地球人でも火星人でも素質があればできるわよ。ほら、地球のインド人なんて口から火を吐いたり、
インド人への大いなる誤解があるが、良しとしよう。
俺とアリスが盛り上がっていると、シセロとコレットは疲れた表情で尚も言い争いをしている。
先が楽しみな俺は、さっさと話を進めて欲しい。だが、俺が間に入ると余計に混乱しそうだった。特に、俺をオークと勘違いしているシセロからの反発は強いだろう。
どうしようか考えていると、アリスも見兼ねたのか二人の会話に割って入った。
「はいはい。シセロ。コレットちゃんがそこまで言うなら、連れてきましょうよ」
「し、しかしアリス様。コレットはまだ幼いのです。圧倒的に経験が足りません。私は兄として…」
「何言ってるのよ。十年前もシセロが周りの反対を押してオーク討伐に参加したじゃない。なのに、“コレットちゃんはダメ“、じゃ可哀想じゃない」
「ゥグ」
お、シセロが言葉に詰まったぞ。いいぞ、アリス。もっとやれ。
「お、お言葉ですが、あの時に私は既に村一番の弓使いでした。ですが、コレットは魔法が使えるだけで、あの時の私とは雲泥の……」
「じゃあ、あの時のこと言っちゃおうかなぁ〜?」
「ア、アリス様! わ、分かりました。妹は同行させます。ですから、《アレ》はご内密に!」
ほほう? アリスは何かシセロの弱みを握っているようだな。後で聞いてみるとしよう。
しかし、ずっと気になっていたが、十年前って相当昔だよな。シセロなんか年齢的に二十代後半くらいだし、十年前のオーク討伐に参加した、と言われても特に疑問は無い。
だけど、アリスの年齢具合を見ると、まだ十代後半に見える。十年前の討伐時は小学生低学年くらいだろ?
年齢と符号しないな。もしかして、アリスって結構歳イッてるのか? 若々しい肌は何らかの薬のおかげなのかな。歳をとらない薬とか?
俺もネクロポリスに何年いるか分からない。長居する気はないけど、予想以上に期間が掛かるなら、俺も老化対策をとりたいものだ。オーク討伐の道中に聞いてみよう。
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