第四話 MovieCh

「1000億稼ぐ方法はね。ジャン! MovieCherになってお金を稼ぐのよ!」

「MovieCher〜? なんだそれ」


 俺の疑問に美少女がふんぞり返って鼻を鳴らす。なんだって自信満々なんだ、この娘。


「MovieChの動画投稿者のことよ。MovieChはアルタイル近くの銀河で人気な動画配信サイトよ。みんな、この動画配信サイトに登録して広告収入を得るのが一般的なの。かく言う私もMoviecherなのよ」

「動画配信? ああ、地球でもそんなのあったな。でもよ、そんなので1000億クレジットなんて稼げるのか?」


 もっともな疑問だ。1000億なんて大金、広告収入で稼ぐなんて簡単に出来るとは思えない。そんな俺の疑問など大した質問じゃないと言わんばかりに、美少女は再度大きく花を鳴らす。


「ふふん。1000億クレジット? 軽い軽い。一流のMovieCherになれば、1000億どころか1兆、1京クレジット稼ぐ人もいるのよ。……まぁ、狭き門だけど」


 サラッと但し書きを言いやがる。しかし、1兆クレジットとはたまげたなぁ。一体全体、どうして広告収入だけでそこまで稼げるんだ。


「ま、MovieChを見ている人はアルタイル星系の20兆人程度と言われているの」

「20兆人⁉︎ それはすごいな」

「そうよ。それだけの人が見ているならば、広告の効果も抜群よね。おまけに人気のMovieCherは企業とタイアップして広告収入以外のお金も入ったりするの。今、一番熱い職業よ!」


 なるほど。地球でも動画配信者は小中高生で人気の職業だと聞く。同じようにこの惑星……いや、銀河でも人気なのもうなずける。


 特に手に職を持っている訳では無い俺からすると、動画配信は魅力的な選択に見えた。しかし、気になる点が1個あった。


「キミが言いたいことはわかった。だけどさ、動画配信って言っても配信する動画によっては視聴者数も変わるだろう? 一体、どんな動画がオススメなんだ?」

「よっくぞ聞いてくれましたぁ! 今、MovieChで一番熱い動画は“惑星ダンジョン“の動画よ」

「惑星ダンジョン? なんだそれ」


 聞き慣れない言葉だ。惑星は分かる。だが、ダンジョン? 確か、地下牢…だったかな。最近ではゲームの影響か迷宮と言う意味合いが強いようだが……

 惑星とダンジョンを組み合わせた“惑星ダンジョン“とは、一体なんだろうか。


 首を傾げる俺に美少女が自信満々で語り掛ける。なんだろう、すっごい生き生きしている。先ほどまでおしとやかに見えたのが嘘みたいだ。


「惑星ダンジョンってのはね。植民惑星に蔓延はびこった宇宙生物、人造生命体、廃棄された旧型ロボット、それに宇宙意思が引き起こした未知のアノマリーが大量発生して、植民地に適さなくなった惑星のことなの。惑星ダンジョンの動画は、そんな植民惑星で化け物相手に全力を持って立ち向かう動画のことよ!」


 なんだろう。聞いただけで嫌な予感しかしない。


 美少女の口から紡がれる単語がデンジャラス抜群な響きを奏でている。一体、そんな相手に立ち向かうって何するんだ?


「あのさ、聞いてもいいか? 立ち向かうって具体的に何するんだ?」

「ふふん。立ち向かうってのはね、武器を持っての真剣勝負ガチバトルよ」

「ガ、ガチバトル⁉︎」

「そうよ。ガチバトル。MovieCherになって、剣と盾で相手をぶっ殺すのよ!」


 オイオイ。急に物騒な単語を使い始めたぞ。大丈夫か、この娘?


 それに、剣と盾で戦うって、なんでだ? こんなに科学が発展した世界ならば、銃とかロボットとか最新兵器じゃないのか。なんだって、旧時代の遺物みたいな道具を使うんだ。俺は美少女の真意が掴めず、不安になって尋ねてみる。


「“剣と盾で相手を殺す“って……銃やロボットとか最新兵器じゃないのか?」

「ふん。そんな兵器を使うなんて臆病者マンチキンのやることよ。私は真の冒険者リアルマン動画を配信するのが目標なのよ」


 真の冒険者リアルマン? 何言ってんだ、こいつは。


 そもそも、戦闘は距離が大事だと聞いたことがあるぞ。戦国時代でも銃や弓、それに投石といった遠距離攻撃はかなり重要な武器だった。ならば、超科学的な銃やロボットで遠距離から攻撃することが何故に臆病者なのか俺には理解できなかった。


 待てよ。もしかしたら、剣と盾でも十分に戦える相手なのかもしれない。だから、銃やロボットを使うなんて、流石にやり過ぎオーバーキルになると言うことか?

 確かにダムダム弾みたいに、やり過ぎで非人道的な武器は地球でも禁止されているからな。


 俺は自問自答で納得がいったので、美少女に戦う相手を訪ねてみる。


「なあ、剣と盾で戦うってことは、あんまり強い相手じゃないのか?」

「うーん、戦う相手によるかな?」

「身の危険はないのか?」

「大丈夫よ!」

「大丈夫と言われてもなぁ……。一体どんなのが相手だから大丈夫なんだ?」

「そうねぇ、エイ◯アンみたいな奴に体を引き裂かれたり、ゾンビ化した原住民に内臓から体を喰われたり、アノマリーのせいで体がドロドロに溶けることもあるけど、蘇生すれば大丈夫よ!」


 嫌じゃボケ!

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